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洒落怖・閲覧注意まとめ  作者: はまゆう


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140/178

第139話 イタドリ

328:本当にあった怖い名無し:2026/07/29(水) 21:06:18.42 ID:Q7mK2vLd0


子供の頃、秋田で会った老人の話です。


事件らしい事件は起きていません。


ただ、いまだに何者だったのかわかりません。


俺は今28歳。


当時は小学5年生で、秋田県内の小さな町に住んでいました。


季節は春休みの終わり頃だったと思います。


同じ地区に住んでいた女子二人と男子一人、俺を含めた四人で、田んぼの周辺に生えている野草を撮影していました。


新学期の自由研究に使うというのは建前で、実際には親からスマホを借り、動画を撮って遊びたかっただけです。


田んぼの先には、貨物線として使われていた古い線路跡がありました。


線路は撤去されていましたが、盛り土と砂利だけが残っていました。


その近くで、イタドリを見つけました。


329:本当にあった怖い名無し:2026/07/29(水) 21:07:03.59 ID:c3Yp8NwR0


イタドリって食えるの?


330:328:2026/07/29(水) 21:09:41.27 ID:Q7mK2vLd0


食べられます。


若い茎の皮をむいてかじると、酸っぱい味がします。


俺たちは何本か折って、皮をむいたり、どれが一番太いか比べたりしていました。


その時、線路跡の方から老人が歩いてきました。


六十代後半くらい。


灰色のジャンパーに作業ズボン、長靴という格好でした。


帽子も傘も持っていませんでした。


顔は日焼けしていましたが、話し方は穏やかでした。


老人は俺たちの前で立ち止まり、


「それ、少し分けてもらえないか」


と言いました。


俺たちは採ったイタドリを二、三本渡しました。


老人は礼を言い、皮もむかずに食べました。


噛むというより、口へ入れて押し込んでいるような食べ方でした。


一本食べ終わると、すぐに手を出しました。


「もう少しくれないか」


331:本当にあった怖い名無し:2026/07/29(水) 21:10:27.81 ID:J2uH6sDa0


知らん爺さんに食い物渡すなよ


332:328:2026/07/29(水) 21:12:54.63 ID:Q7mK2vLd0


田舎なので、知らない老人から話しかけられること自体は珍しくありませんでした。


俺たちは残っていたイタドリを渡しました。


老人はそれも全部食べました。


かなり酸っぱいはずなのに、顔色一つ変えませんでした。


一緒にいた女子が、


「そんなに好きなの」


と聞くと、老人は笑いました。


「好きで好きで仕方がない。もっと生えている場所を知らないか」


俺たちは線路跡の向こうにある杉林を教えました。


林の周辺には毎年イタドリがたくさん生えていました。


老人は、


「そこまで連れていってくれ」


と言いました。


今なら、知らない大人についていくなと止めます。


でも当時は、俺たちがついていったのではなく、老人を案内してあげるのだと思っていました。


333:本当にあった怖い名無し:2026/07/29(水) 21:13:39.40 ID:g9Cs4QeK0


その感覚わかるの嫌だな


334:328:2026/07/29(水) 21:16:08.56 ID:Q7mK2vLd0


杉林まで行く途中に、農業用水路がありました。


幅は五十センチくらい。


水深も二十センチあるかないかで、子供でも簡単に飛び越えられました。


俺たちはいつものように向こう側へ跳びました。


老人だけが来ませんでした。


用水路の手前に立ち、水面を見ていました。


「どうしたの」


と聞くと、


「こんな大きな川は渡れない」


と言いました。


冗談だと思って笑いました。


老人は笑いませんでした。


顔から血の気が引き、本気で怯えていました。


「橋はないのか」


「ここを渡らないと行けないのか」


と何度も聞きました。


俺たちは両側から老人の手を引きました。


別の子が背中を押し、ようやく水路をまたがせました。


渡り終えた老人は地面へ座り込み、しばらく息を切らしていました。


服の上から触った腕が、妙に冷たかったのを覚えています。


335:本当にあった怖い名無し:2026/07/29(水) 21:17:02.26 ID:R8dL3zWp0


水が駄目なのか


336:328:2026/07/29(水) 21:19:37.14 ID:Q7mK2vLd0


杉林の手前には、イタドリがまとまって生えていました。


老人はそれを見ると急に元気になりました。


五本、六本と続けて折り、皮もむかずに食べ始めました。


俺たちが見ていることも忘れたように、地面へ膝をつき、両手で茎を折っていました。


食べる音が変でした。


硬い茎を噛んでいる音ではなく、濡れた布を引き裂くような音がしました。


しばらくして老人は、ジャンパーの内ポケットから小さな布袋を出しました。


中から硬貨を何枚か取り出し、俺たちに一枚ずつくれました。


見たことのない硬貨でした。


十円玉くらいの大きさで、色は黒ずんだ銀色。


文字も古く、俺たちは外国のお金だと思いました。


老人は、


「案内してくれた礼だ」


と言いました。


337:本当にあった怖い名無し:2026/07/29(水) 21:20:28.91 ID:q5Fs2eTZ0


そこで古銭出てくるのベタすぎない?


338:328:2026/07/29(水) 21:23:04.42 ID:Q7mK2vLd0


俺も人から聞いた話ならそう思います。


硬貨は今も持っています。


写真は最後に出せるか確認します。


その時は価値があるとも思わず、ポケットへ入れました。


老人はまたイタドリを食べ始めました。


俺たちはスマホで撮影しました。


一人が老人へ、


「そんなに食べたらお腹壊すよ」


と言いました。


老人は答えませんでした。


夢中で食べ続けていました。


気がつくと、辺りが暗くなり始めていました。


杉林の中は日が落ちるのが早く、風も冷たくなりました。


親に叱られるから帰ろうという話になりました。


俺が老人へ、


「俺たち帰るから」


と言いました。


老人は地面へ這いつくばったまま、顔だけを上げました。


口元がイタドリの汁で濡れていました。


「俺の家は、どこだ」


と言いました。


339:本当にあった怖い名無し:2026/07/29(水) 21:23:51.10 ID:M5tF1bXq0


認知症だったんじゃないの


340:328:2026/07/29(水) 21:26:32.75 ID:Q7mK2vLd0


俺たちも迷子になった老人だと思いました。


名前や住所を聞きましたが、答えませんでした。


代わりに、


「お前たちは、どこから来た」


と聞かれました。


町の名前を答えても、わからないようでした。


一緒にいた男子が、借りていたスマホで地図を開きました。


現在地を見せ、


「今ここ。おじいさんの家はどっち」


と聞きました。


老人は画面を見ませんでした。


スマホを持っている男子の顔をじっと見ていました。


それから急に後ろへ下がりました。


「狐だ」


最初は、小さな声でした。


「お前ら、狐だな」


俺たちは何も言えませんでした。


老人は俺たちを一人ずつ指さし、


「狐、狐、狐、狐」


と繰り返しました。


341:本当にあった怖い名無し:2026/07/29(水) 21:27:18.07 ID:c3Yp8NwR0


爺さんが狐じゃなくて子供が狐なのか


342:328:2026/07/29(水) 21:29:46.52 ID:Q7mK2vLd0


老人は尻もちをつきました。


両手で頭をかばうようにして、


「触るな」


「連れていくな」


と叫び始めました。


俺たちは近づいていません。


老人は誰かに腕を引かれているように、地面の上を少しずつ後ろへ動きました。


ズボンの裾が土を引きずっていました。


やがて両手を合わせ、俺たちへ向かって何度も頭を下げました。


「頼む」


「家に帰してくれ」


「もう食わないから」


一緒にいた女子の一人が泣き出しました。


もう一人が、


「この人、変だよ」


と言いました。


その時、スマホを持っていた男子が、林の奥を見て、


「狐がいる」


と叫びました。


俺たちは一斉に走って逃げました。


俺は振り返りませんでした。


343:本当にあった怖い名無し:2026/07/29(水) 21:30:39.96 ID:J2uH6sDa0


実際に狐いたの?


344:328:2026/07/29(水) 21:33:15.27 ID:Q7mK2vLd0


あとで聞くと、その男子は狐を見ていませんでした。


老人が「狐」と繰り返すので、自分も叫んだだけだと言いました。


俺たちはそれぞれの家へ帰り、親に話しました。


最初は叱られました。


知らない老人を林へ連れていき、置き去りにしてきたと思われたからです。


認知症の高齢者かもしれないということで、親の一人が警察へ電話しました。


大人たち数人と警察官が、俺たちの案内で杉林へ向かいました。


用水路を渡り、イタドリが生えていた場所まで行きました。


老人はいませんでした。


食べ散らかした茎と、灰色のジャンパーが地面に落ちていました。


そこから林の出口へ向かって、裸足の足跡が続いていました。


345:本当にあった怖い名無し:2026/07/29(水) 21:34:07.70 ID:g9Cs4QeK0


服脱いでるのかよ


346:328:2026/07/29(水) 21:36:52.64 ID:Q7mK2vLd0


杉林を出た先の田んぼで、老人は見つかりました。


全裸で、畦道の脇にうつ伏せで倒れていました。


俺たちは親に止められ、離れた場所から見ていました。


警察官が声をかけても動きませんでした。


救急隊を呼ぼうとして、警察官が肩へ触れました。


老人は突然起き上がりました。


普通に立ち上がったのではありません。


両手と両足を地面につき、背中を反らせるように跳ね起きました。


そのまま数メートル、四つ足に近い格好で走りました。


途中から二本足になり、古い線路跡の方へ逃げました。


警察官と大人が追いました。


追いつけなかったそうです。


347:本当にあった怖い名無し:2026/07/29(水) 21:37:41.29 ID:R8dL3zWp0


六十代が警察振り切るの無理だろ


348:328:2026/07/29(水) 21:40:27.31 ID:Q7mK2vLd0


実際、かなり速かったと父も言っています。


ただ、田んぼはぬかるんでいて、追う側が走りにくかったのもあると思います。


線路跡の先には、使われなくなった短いトンネルがありました。


入口はフェンスで塞がれていましたが、一部が壊れていました。


老人はそこから中へ入ったらしいです。


警察と消防が捜しました。


翌日には捜索犬も入りました。


老人は見つかりませんでした。


トンネルは数百メートルで反対側へ抜けます。


中に横穴や隠れられる場所はないそうです。


付近で高齢者の行方不明届も出ていませんでした。


服から身元につながる物は見つかりませんでした。


俺たちがもらった硬貨についても警察に話しました。


親が預かり、念のため写真を撮られましたが、事件性はないとして返されました。


349:本当にあった怖い名無し:2026/07/29(水) 21:41:10.12 ID:q5Fs2eTZ0


動画あるんだろ?


350:328:2026/07/29(水) 21:44:03.63 ID:Q7mK2vLd0


あります。


ただしスマホを貸してくれた家が、警察へ端末ごと渡しました。


後日、コピーした動画をDVDでもらいました。


老人が最初にイタドリを食べる場面は、普通に映っています。


顔も服も見えます。


途中で映像が何度か乱れています。


一番変なのは、用水路を渡る場面です。


俺の記憶では、俺たちが老人の手を引き、背中を押して渡らせました。


動画では、老人が映っていません。


俺たち四人だけが水路の向こう側に立ち、誰もいない空間へ手を伸ばしています。


俺と女子が空中の何かを引き、男子が何もない場所を押しています。


全員で力を入れた瞬間、画面が大きく揺れます。


その直後には、老人がこちら側へ座り込んでいます。


水路の手前から老人が消え、渡り終わったところで突然映像に戻っています。


351:本当にあった怖い名無し:2026/07/29(水) 21:45:01.48 ID:M5tF1bXq0


編集されてないの?


352:328:2026/07/29(水) 21:47:38.62 ID:Q7mK2vLd0


警察にもそう聞かれたそうです。


当時の端末に高度な編集アプリは入っていませんでした。


動画ファイルにも、不自然な切れ目はなかったと聞いています。


俺は専門家ではないので、本当のところはわかりません。


もう一つあります。


杉林で老人が俺たちを「狐」と呼んだ場面も残っています。


老人は地面に座り、画面の外にいる俺たちを指さしています。


「狐、狐、狐」


と四回言っています。


そのあと俺たちが逃げ始め、撮影者のスマホが激しく揺れます。


映像には映っていませんが、音声に知らない声が入っています。


老人とは違う、もっと年を取った男の声です。


「やっと帰ってきた」


とはっきり言っています。


その場にいた全員が、その声を聞いた覚えがありません。


353:本当にあった怖い名無し:2026/07/29(水) 21:48:26.94 ID:c3Yp8NwR0


誰が帰ってきたんだよ


354:328:2026/07/29(水) 21:50:54.33 ID:Q7mK2vLd0


わかりません。


老人が逃げ込んだトンネルは、その後フェンスを修理され、完全に入れなくなりました。


俺たちも親から近づくなと言われました。


中学へ上がる頃には、老人の話をすることもなくなりました。


硬貨は四人とも持っていました。


一人は引っ越しの時になくし、一人は親が神社へ納めたそうです。


もう一人とは連絡を取っていません。


俺の分は、母親が封筒へ入れて保管していました。


大学生になった頃、古銭を扱う店へ持っていきました。


店の人によれば、戦前の十銭硬貨だそうです。


極端に珍しいものではなく、状態も悪いので高い価値はないと言われました。


店の人は硬貨を拡大鏡で見たあと、


「表面に何か塗りましたか」


と聞きました。


俺は何もしていないと答えました。


黒い汚れが土や錆とは違うように見えると言われました。


355:本当にあった怖い名無し:2026/07/29(水) 21:51:42.06 ID:J2uH6sDa0


何がついてた?


356:328:2026/07/29(水) 21:54:19.42 ID:Q7mK2vLd0


店の人が綿棒で表面を軽く擦りました。


黒い粉と一緒に、短い毛のようなものが取れました。


拡大鏡で見せてもらいました。


茶色がかった毛でした。


店の人は、


「動物の毛を焼いたものかもしれない」


と言いました。


何の動物かはわからないそうです。


その時、硬貨を預けて詳しく調べてもらうこともできましたが、断りました。


持って帰り、今も同じ封筒へ入れています。


ここまでなら、認知症か精神疾患の老人と、古いスマホの撮影不良で説明できると思います。


ただ、三年前、町に住んでいた父から連絡がありました。


線路跡周辺の整備工事で、トンネルのフェンスを一時的に撤去したそうです。


工事初日の朝、入口にイタドリが大量に積まれていました。


誰が置いたのか、防犯カメラを確認したそうです。


357:本当にあった怖い名無し:2026/07/29(水) 21:55:08.63 ID:g9Cs4QeK0


映ってたのか


358:328:2026/07/29(水) 21:58:06.74 ID:Q7mK2vLd0


午前二時過ぎ、画面の端から四匹の狐が現れました。


一匹ずつイタドリを咥え、トンネルの入口へ置いていきました。


同じことを明け方まで繰り返していました。


狐がイタドリを運ぶ理由は、工事関係者にもわからなかったそうです。


午前四時十三分、トンネルの中から全裸の男が出てきました。


防犯カメラには後ろ姿しか映っていません。


男は積まれたイタドリの前に座り、一本手に取りました。


そのあと画面が約十秒間乱れました。


映像が戻ると、男はいませんでした。


代わりに狐が一匹増えていました。


全部で五匹になった狐は、しばらくカメラの方を見てから、トンネルの中へ戻っていきました。


警察も映像を確認しましたが、侵入者を特定することはできなかったそうです。


359:本当にあった怖い名無し:2026/07/29(水) 21:59:02.25 ID:R8dL3zWp0


最後で狐確定させちゃうのか


360:328:2026/07/29(水) 22:01:43.88 ID:Q7mK2vLd0


俺も最初はそう思いました。


でも父から映像を見せてもらうと、五匹目だけ狐には見えませんでした。


体つきも動き方も狐でした。


ただ、前脚の先が人間の手のように見えました。


映像が荒いので、そう見えるだけかもしれません。


父は逆のことを言いました。


最初からいた四匹の方がおかしい、と。


四匹はイタドリを運ぶたび、用水路の前で立ち止まっていました。


自分では渡らず、必ず一度イタドリを地面へ置きます。


すると映像に誰も映っていないのに、狐の体だけが持ち上がり、向こう岸へ運ばれていました。


俺たちが老人を渡らせた時と同じように。


361:本当にあった怖い名無し:2026/07/29(水) 22:02:28.14 ID:q5Fs2eTZ0


じゃあ狐を運んでる奴は何なんだ


362:328:2026/07/29(水) 22:04:51.37 ID:Q7mK2vLd0


わかりません。


工事は予定どおり行われました。


トンネルの中から人骨や衣服が出たという話はありません。


整備後、入口はコンクリートで塞がれました。


父によると、その翌朝、まだ柔らかかったコンクリートの表面に、子供の手形が四つ並んでいたそうです。


狐の足跡ではありません。


小学生くらいの右手の跡が、四つ。


その下に、指で書いたような文字がありました。


「かえした」


誰を返したのかはわかりません。


俺たち四人が、老人を杉林へ連れていったのは事実です。


でも、あの日どちらがどちらを連れていったのか、今は自信がありません。


これで終わりです。


363:本当にあった怖い名無し:2026/07/29(水) 22:05:43.82 ID:M5tF1bXq0


老人を狐の所へ返したってことか


364:本当にあった怖い名無し:2026/07/29(水) 22:06:28.90 ID:c3Yp8NwR0


子供四人が最初から人間だった保証もないだろ


365:本当にあった怖い名無し:2026/07/29(水) 22:07:16.43 ID:J2uH6sDa0


老人目線だと知らん子供に林へ連れ込まれた話なんだよな


366:本当にあった怖い名無し:2026/07/29(水) 22:08:03.67 ID:g9Cs4QeK0


水路を渡る時だけ老人が映らないのが嫌すぎる


367:本当にあった怖い名無し:2026/07/29(水) 22:08:51.20 ID:R8dL3zWp0


狐より「やっと帰ってきた」って声の方が怖い


368:本当にあった怖い名無し:2026/07/29(水) 22:09:37.85 ID:q5Fs2eTZ0



結局どっちが化かされたんだよ

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