第134話 旅の僧
642:本当にあった怖い名無し:2026/07/24(金) 22:08:14.37 ID:K4mV8qLd0
十年くらい前、埼玉の外れにある解体屋で働いてた時の話。
怖い話なのか、薬でおかしくなった奴を見ただけなのか、今でもわからない。
その会社は資材置き場の奥にプレハブが三棟あって、住所のない作業員を何人か住まわせてた。俺も当時家がなくて、そこに寝泊まりしてた。
社長は「寮」って呼んでたけど、実際は飯場だな。
643:本当にあった怖い名無し:2026/07/24(金) 22:09:31.55 ID:s7Qn2UaE0
ウシジマくんみたいなとこ?
644:642:2026/07/24(金) 22:11:02.48 ID:K4mV8qLd0
643
だいたい合ってる。
日当から家賃、飯代、作業着代を引かれるから、働いてもほとんど残らなかった。
社長も作業員も気が荒かったし、前科のある人もいた。警察を呼ばれると困る奴ばかりだった。
その年の九月、台風が関東を通った夜だった。
翌日は現場が休みになって、みんな一番大きなプレハブで酒を飲んでた。俺は酒が弱いから早めに抜けて、隣の宿舎で横になってた。
夜十一時を過ぎた頃、門の方で誰かが鉄板を叩き始めた。
645:本当にあった怖い名無し:2026/07/24(金) 22:12:19.83 ID:b3Hx9CRw0
こんこんじゃなくて鉄板かよ
646:642:2026/07/24(金) 22:14:06.26 ID:K4mV8qLd0
資材置き場の入口が、工事用の仮囲いだったんだよ。
風で揺れる音とは明らかに違った。
ガン、ガン、ガン、と、少し間を置いて何度も叩く。
社長が窓を開けて「誰だ」と怒鳴った。
外から男の声で、
「一晩、雨を避けさせていただけませんか」
と返ってきた。
社長は「無理だ、他へ行け」と言った。
すると男は、
「足を痛めてしまいました。軒下で構いません」
と言って、また鉄板を三回叩いた。
647:本当にあった怖い名無し:2026/07/24(金) 22:15:11.90 ID:Y1dP6fNs0
普通に怖い
648:642:2026/07/24(金) 22:17:03.61 ID:K4mV8qLd0
社長は最初、完全に無視してた。
でも十分くらいしても男は帰らない。
俺が見に行こうとしたら、社長に「開けるな」と止められた。強盗の下見か、近所の外国人が助けを求めに来たんだと思ったらしい。
それでも鉄板を叩く音が続くから、最後は社長が金属バットを持って門を開けた。
外に立っていたのは、黒い法衣みたいなものを着た坊主だった。
四十代か五十代くらい。頭は剃っていて、ずぶ濡れだった。傘も荷物も持ってなかった。
裸足で、右足の甲から血が出ていた。
649:本当にあった怖い名無し:2026/07/24(金) 22:18:32.75 ID:Wp8z4LMc0
寺に電話すればよかったのでは
650:642:2026/07/24(金) 22:20:47.06 ID:K4mV8qLd0
近くに寺はない。
コンビニまで歩いて二十分、駅までは四十分くらいかかる場所だった。雨もひどかった。
社長は面倒になったのか、資材倉庫の中なら勝手に寝ろと言った。
倉庫といっても、トタン屋根の下に工具や廃材を置いただけの建物だった。
坊主は何度も頭を下げて、倉庫の奥に座った。
社長は毛布も食い物も貸さなかった。
「変なもの盗んだら手を落とすぞ」
とだけ言って、プレハブへ戻った。
651:本当にあった怖い名無し:2026/07/24(金) 22:21:56.21 ID:q5Fs2eTZ0
社長が一番怖い定期
652:642:2026/07/24(金) 22:24:10.44 ID:K4mV8qLd0
一時頃、俺はトイレに起きた。
便所は外にあって、そこへ行くには倉庫の前を通る。
倉庫の中が明るかった。
照明は切ってあったし、坊主はライターも持ってなかったはずだから、火でも出したのかと思って覗いた。
坊主は床にあぐらをかいていた。
右手を顔の前に立てて、指を一本ずつ眺めていた。
その五本の指先に、火がついてた。
ライターの火みたいな小さい青い炎が、爪の先から出てた。
653:本当にあった怖い名無し:2026/07/24(金) 22:25:13.68 ID:Rv3M9kGa0
はい釣り
654:本当にあった怖い名無し:2026/07/24(金) 22:25:39.14 ID:s7Qn2UaE0
続けて
655:642:2026/07/24(金) 22:28:02.93 ID:K4mV8qLd0
釣りと思ってもらっていい。
俺も酔ってたし、台風のせいで気圧がおかしかったのかもしれない。
ただ、その火で顔がはっきり見えた。
坊主は笑ってなかった。苦しそうでもなかった。ただ、自分の指をろうそくみたいに使って、床を照らしてた。
そのうち左手を握って、右の鼻の穴に押し込んだ。
指だけじゃない。
手首まで入り、肘の近くまで腕が入った。
坊主が腕を引き抜くと、鼻の穴から黒いものが落ちた。
虫だと思った。
でも、それが立ち上がった。
人の形をしてた。
656:本当にあった怖い名無し:2026/07/24(金) 22:29:24.40 ID:N8aX1vJp0
何センチくらい?
657:642:2026/07/24(金) 22:31:53.72 ID:K4mV8qLd0
十センチもなかったと思う。
作業服みたいなものを着た小さい人間だった。
同じものが次々に鼻から飛び出して、床に並んだ。五十体か百体か、それ以上いたかもしれない。
全員、手に小さなスコップや鍬みたいな道具を持ってた。
坊主が顎を一度動かすと、そいつらは一斉にコンクリートの床を掘り始めた。
音はしなかった。
でも床が黒い土に変わって、そのうち水が張った。
倉庫の中が田んぼになった。
稲が生えて、伸びて、実って、小さい人間たちがそれを刈った。
何か月もかかることが、数分で起きた。
658:本当にあった怖い名無し:2026/07/24(金) 22:32:48.69 ID:Rv3M9kGa0
お前がクスリやってただけだろ
659:642:2026/07/24(金) 22:35:02.17 ID:K4mV8qLd0
俺もそう思う。
クスリ代が欲しくて闇金に手を出した挙句放り込まれた飯場だったからそうかもしれない。
でもその頃の俺は金がなくて、酒すら人から分けてもらってた。薬を買えるような生活じゃなかった。
小さい人間たちは稲を米にすると、坊主の前に積み上げた。
坊主は口を開けた。
顎が胸につくくらいまで開いた。
小さい人間も米も、全部その口の中へ吸い込まれた。
その瞬間、床は元のコンクリートに戻った。
次に坊主は倉庫の隅にあった寸胴鍋を呼んだ。
本当に「来い」と言った。
鍋が床を擦りながら、坊主の前まで動いた。
660:本当にあった怖い名無し:2026/07/24(金) 22:36:18.03 ID:0cLt7DqW0
映像で見たらギャグっぽそうなのに文章だと嫌だな
661:642:2026/07/24(金) 22:39:11.55 ID:K4mV8qLd0
坊主はどこから出したのか、鍋の中に米と水を入れた。
でも火がない。
どうするんだろうと思っていたら、床に両脚を伸ばした。
工具棚から鉈が落ちた。
鉈は誰も持っていないのに床を滑って、坊主の手に収まった。
坊主は自分の右脚を、膝の下から叩き切った。
三回か四回だった。
最後に骨が割れる音がした。
血は出なかった。
切断面は、解体現場で見た古い柱みたいだった。
坊主は切った脚を細かく割り、指先の火を移して燃やした。
その火で飯を炊き始めた。
662:本当にあった怖い名無し:2026/07/24(金) 22:40:27.63 ID:b3Hx9CRw0
それで悲鳴上げなかったの?
663:642:2026/07/24(金) 22:42:46.58 ID:K4mV8qLd0
声が出なかった。
体も動かなかった。
坊主は炊けた飯を手で食い、水を飲んだ。
残った水を床へ吐くと、今度はコンクリートの上に泥が広がった。
そこから蓮の葉が出た。
白い花が咲いて、倉庫中で蛙が鳴き始めた。
その音で、やっと体が動いた。
俺は便所と反対の方向へ逃げて、プレハブに飛び込んだ。
「坊主が自分の脚を燃やしてる」
って言った。
当然、全員に笑われた。
でも俺が本気で震えていたから、社長が顔色を変えた。
社長も最初に坊主を入れた時から、何かおかしいと思ってたらしい。
664:本当にあった怖い名無し:2026/07/24(金) 22:44:08.91 ID:Y1dP6fNs0
そこで警察呼べよ
665:642:2026/07/24(金) 22:47:03.26 ID:K4mV8qLd0
あの会社は廃材の処分も人の雇い方もまともじゃなかった。
警察を呼ぶという発想は誰にもなかった。
誰かが「ヤク中だろ」と言った。
別の奴が「道具盗むつもりじゃないか」と言った。
社長は金属バット、作業員たちは鉄パイプやハンマーを持った。
俺は行きたくなかったが、嘘だったら埋めるぞと言われて、一緒に倉庫へ戻った。
中は真っ暗だった。
蛙の声もしない。
懐中電灯を向けると、床は乾いていて、坊主は両脚をつけたまま仰向けに寝ていた。
大きないびきをかいてた。
666:本当にあった怖い名無し:2026/07/24(金) 22:48:12.60 ID:q5Fs2eTZ0
夢オチか
667:642:2026/07/24(金) 22:50:57.34 ID:K4mV8qLd0
夢だったなら、それで終わってた。
社長が足で坊主の脇腹を蹴った。
坊主は目を開けて、俺たちを順番に見た。
驚いた様子はなかった。
社長が胸ぐらを掴もうとした時、坊主の体が服だけ残して潰れたように見えた。
次の瞬間には、倉庫の反対側に立ってた。
一人が鉄パイプで殴った。
確かに頭に当たったのに、坊主はまた別の場所にいた。
殴った奴が興奮して、
「逃がすな、殺せ」
と叫んだ。
そこから全員おかしくなった。
相手が人間かどうか確かめるより先に、鉄パイプやハンマーを振り回し始めた。
668:本当にあった怖い名無し:2026/07/24(金) 22:52:06.23 ID:Wp8z4LMc0
人間の方が怖くて草
669:642:2026/07/24(金) 22:54:31.19 ID:K4mV8qLd0
本当にそうだった。
狭い倉庫で十人近くが武器を振り回してた。
坊主より味方に殺されそうだった。
坊主の姿は、懐中電灯の光の端から端へ移っていった。
走っているんじゃない。
紙切れが風に飛ばされるみたいに、体を横にしたまま滑ってた。
やがて事務机の上にあった酒甕の前で消えた。
誰かが「中に入った」と言った。
酒甕は、社長が知り合いからもらった陶器製の大きなものだった。
社長が蓋をして、上から針金を巻いた。
「警察に持っていく」と言ったが、二人がかりでも甕は持ち上がらなかった。
普段なら一人で動かせる大きさだった。
670:本当にあった怖い名無し:2026/07/24(金) 22:55:48.82 ID:s7Qn2UaE0
それで?
671:642:2026/07/24(金) 22:58:26.17 ID:K4mV8qLd0
甕が勝手に倒れた。
そのまま床を転がって、倉庫の出口へ向かった。
社長が「割れ」と叫んだ。
一番体の大きい作業員が、解体用の大ハンマーを振り下ろした。
甕が割れる直前、中から坊主の声がした。
「泊めていただいただけなのに」
はっきり聞こえた。
ハンマーが当たると、雷みたいな音がして、倉庫の窓が全部割れた。
甕は真ん中から二つに割れた。
中から黒い煙が噴き出して、天井の隙間へ吸い込まれた。
坊主はいなかった。
酒も入ってなかった。
代わりに、濡れた米が一粒だけ落ちてた。
672:本当にあった怖い名無し:2026/07/24(金) 22:59:41.33 ID:N8aX1vJp0
その坊主について調べなかったの?
673:642:2026/07/24(金) 23:02:37.94 ID:K4mV8qLd0
翌朝、門の外を見た。
夜中ずっと雨だったのに、坊主の足跡はなかった。
血の跡もなかった。
近所の寺を何軒か回ったけど、行脚している僧なんか知らないと言われた。
社長はその話をするなと言った。
甕を割った作業員は、三日後に仕事中の事故で右脚を膝から下まで失った。
直接の原因は、吊っていたコンクリート片が落ちたことになってる。
事故のあと、見舞いに行った奴から妙な話を聞いた。
そいつは病院で毎晩、
「俺の脚を燃やして、 坊主が飯を炊いてる」
と訴えていたらしい。
674:本当にあった怖い名無し:2026/07/24(金) 23:03:49.08 ID:Rv3M9kGa0
後付けくさい
675:642:2026/07/24(金) 23:06:12.52 ID:K4mV8qLd0
そう思うならそれでいい。
俺も事故との関係はわからない。
ただ、あの夜から飯場の中で蛙の声を聞くようになった。
真冬でも、雨が降ると倉庫の床下から鳴く。
会社はその翌年に潰れて、資材置き場も更地になった。
数年前、近くを通ったから見に行った。
今は建売住宅が並んでる。
たまたま外にいた住人に、前はここに解体屋があったと話したら、変なことを聞かれた。
「この辺、昔は田んぼだったんですか」
違うと答えた。
するとその人は、雨の夜になると一階の床下から大勢の人が土を掘る音がすると言った。
俺は何も話さず帰った。
あの時、坊主を泊めたのが悪かったのか。
それとも、泊めておいて何も与えず、最後には殺そうとした俺たちが悪かったのか。
たぶん後者だと思う。
676:本当にあった怖い名無し:2026/07/24(金) 23:07:38.71 ID:b3Hx9CRw0
泊めていただいただけなのに、が嫌すぎる
677:本当にあった怖い名無し:2026/07/24(金) 23:08:16.54 ID:Y1dP6fNs0
坊主は最初から何もしてないんだよな
見せたのも投稿者一人だけだし
678:本当にあった怖い名無し:2026/07/24(金) 23:09:02.29 ID:q5Fs2eTZ0
結局一番やばいのは集団で殺しにかかった人間
679:本当にあった怖い名無し:2026/07/24(金) 23:09:44.83 ID:s7Qn2UaE0
乙
久しぶりに変な話だった




