第132話 遺稿集
1 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:06:18.42 ID:6tNq8PzA0
七年くらい前の話。
政治家とか病院が出てくるけど、名前と細かい経歴は変える。
新聞を探せば似た事件は出てくると思う。ただ、関係者の家族がまだ生きてるから特定は勘弁してほしい。
長くなる。
2 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:07:02.19 ID:d3Fy7Kc80
どうぞ
3 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:08:16.53 ID:6tNq8PzA0
俺は以前、ある野党議員の事務所で働いてた。
仮に大崎先生とする。
大崎先生は一時期、党首まで務めた人で、政権交代が現実味を帯びていた頃には、毎日のようにテレビへ出ていた。
ただ晩年は党内で孤立して、亡くなった時には昔の仲間もあまり葬儀に来なかった。
死後、財団を作る話が持ち上がって、遺稿や過去の資料をまとめることになった。
俺も元秘書ということで、編集を手伝うことになった。
4 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:09:11.27 ID:Vh5mQ9Ls0
政治家の遺稿って何があるんだ
5 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:10:22.84 ID:6tNq8PzA0
演説原稿、国会質問の下書き、雑誌に書いた文章、日記、録音した音声とか。
パソコンの中だけじゃなくて、段ボール何十箱分も紙が残ってた。
百日祭までに一冊出したいと言われて、俺は自宅へ資料の一部を運んで作業してた。
その晩は雨だった。
妻と子供が寝たあとも、書斎で古い原稿を読み続けてた。
気がついた時には午前二時を過ぎてた。
6 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:11:04.63 ID:6tNq8PzA0
さすがに疲れたから、窓を少し開けて煙草を吸った。
雨はほとんどやんでた。
煙を吐いたら、風もないのに同じ場所で渦を巻いた。
輪になった煙がいくつも重なって、窓の近くに止まった。
眠かったから、最初は面白い形になったくらいにしか思わなかった。
その煙の中に、人の顔が出てきた。
7 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:11:49.30 ID:d3Fy7Kc80
いきなり出たな
8 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:12:42.71 ID:6tNq8PzA0
顔だけじゃなかった。
肩、腕、スーツ、膝まで見えた。
五十歳くらいの男が、窓際の椅子に座ってた。
俺はその男を知ってた。
大崎先生の政策秘書だった、木島さんという人だった。
木島さんは政権の予算や医療政策を徹底的に調べて、大崎先生の質問を作っていた。
党内では「大崎の頭脳」と呼ばれてた。
二十五年前に死んでる。
9 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:13:28.62 ID:W2jv4Rne0
本人と会ったことはあるの?
10 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:14:31.24 ID:6tNq8PzA0
ある。
俺が事務所へ入ったばかりの頃、木島さんはまだ生きてた。
新人だった俺にも名前を覚えて声をかけてくれた。
だから写真を見て思い込んだわけじゃない。
顔も声も、木島さん本人だった。
昔とまったく変わってなかった。
木島さんは俺を見ると、
「進んでるか」
と聞いた。
普通に仕事の続きを聞くような口調だった。
11 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:15:13.15 ID:Vh5mQ9Ls0
逃げなかったのか
12 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:16:28.89 ID:6tNq8PzA0
逃げなかった。
今になれば変だけど、その時は木島さんが死んでることを疑問に思わなかった。
「まだ三分の一くらいです」
と普通に答えた。
木島さんは、大崎先生のために最後まで働いてくれてありがとう、と俺に言った。
それから、
「先生は晩年、よく私の夢を見たと言っていただろう」
と聞いた。
確かに聞いたことがあった。
大崎先生は時々、
「昨夜も木島君が来た」
「木島君なら、今の党をどう見るだろう」
と話してた。
13 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:17:35.61 ID:6tNq8PzA0
木島さんは、
「あれは夢じゃない。私はずっと先生のそばにいた」
と言った。
大崎先生が亡くなったから、自分もようやく行くべき場所へ行けるらしい。
でも、その前に話しておかなければならないことがある。
そう言って、俺の机の上にあった古い写真を見た。
木島さんが亡くなる少し前、事務所の全員で撮った写真だった。
14 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:18:12.03 ID:X7sK0hTp0
死因の話か
15 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:19:23.87 ID:6tNq8PzA0
そうだった。
木島さんは、国立の医療法人が運営する大きな病院で死んだ。
もともと胃潰瘍があって、国会が休みに入った時期に検査も兼ねて入院した。
本人も五日くらいで退院するつもりだった。
入院して三日目、突然大量に出血した。
俺が病院へ着いた時には、もう亡くなってた。
ベッドの横に血の入った吸引容器が置かれていたのを覚えてる。
16 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:20:29.34 ID:6tNq8PzA0
大崎先生は旅先から戻ってきて、病理解剖を求めた。
でも遺族は、これ以上体を傷つけたくないと言った。
病院側も、胃潰瘍からの大量出血で説明できると主張した。
結局、解剖はされなかった。
ただ、事務所ではずっと噂があった。
木島さんは当時、政権と大手医療法人の間にある不透明な資金の流れを調べていた。
次の国会で資料を出す予定だった。
17 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:21:04.76 ID:d3Fy7Kc80
消されたってこと?
18 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:22:33.28 ID:6tNq8PzA0
木島さんは、そうだと言った。
入院中、点滴に抗凝固薬を混ぜられた。
胃に出血しやすい部分があることを分かった上で、大量出血を起こさせたらしい。
指示したのは当時の与党幹部二人。
実行したのは病院長だった。
カルテには、その薬を使用した記録は残されていなかった。
病院長は数年後、政府の医療政策会議の委員になった。
その後、勲章も受けた。
19 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:23:20.18 ID:W2jv4Rne0
幽霊の証言だけじゃどうにもならんな
20 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:24:06.83 ID:6tNq8PzA0
俺もそう思った。
でもその時は、反論も質問もできなかった。
木島さんの話を黙って聞いてた。
木島さんは、死んですぐ病院長を殺そうと思ったらしい。
ただ、本人をそのまま殺すだけでは足りないと思った。
病院長には息子が二人いた。
二人とも大学を出て、一人は大企業へ、もう一人は医師になった。
病院長は息子たちの将来だけを楽しみにしていた。
だから木島さんは、二人が成功するまで待った。
21 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:24:45.52 ID:Vh5mQ9Ls0
息子関係ないだろ
22 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:25:58.90 ID:6tNq8PzA0
俺もそう思う。
木島さん自身も、最後には同じことを言った。
でも、その時は病院長を一番苦しめることしか考えてなかったらしい。
長男は総合商社へ入り、海外勤務を重ねて、シンガポール支社の責任者になった。
真面目で、仕事にも厳しい人だった。
木島さんは、その長男を現地の舞台女優と知り合わせた。
23 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:27:03.17 ID:6tNq8PzA0
女優には、もっと若い恋人がいた。
長男と付き合ったのは金のためだった。
高級ホテルの部屋、ブランド品、海外旅行。
長男は女に求められるたびに金を出した。
給料だけでは足りなくなって、部下に勧められた投資へ手を出した。
最初は個人の金だった。
損失を取り戻そうとして、最後には会社の資金まで動かした。
損失は六千万円を超えた。
24 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:27:39.34 ID:X7sK0hTp0
幽霊がどこまでやったんだよ
25 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:28:51.97 ID:6tNq8PzA0
女と出会わせた。
部下が投資の話をするように仕向けた。
長男が女のことを考えている時だけ、損失の数字を小さく見せた。
そう言ってた。
会社に不正が発覚して、日本へ戻るよう命令が出た。
長男は帰国する前の夜、女の泊まっているホテルへ行った。
部屋のドアが少し開いていた。
中には女と若い男がいた。
26 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:30:03.40 ID:6tNq8PzA0
女は、長男が勝手に入ってきたと怒った。
泥棒みたいに忍び込んだ、気持ち悪い、二度と来るなと言った。
長男は言い返せず、部屋を出た。
エレベーターを待っている時、廊下の鏡に木島さんの顔が映った。
長男は木島さんを知らない。
目を閉じても、顔は消えなかった。
鏡の中から出てきて、自分の後ろへ立ったように見えたらしい。
長男は非常階段を駆け下り、そのままホテルの外へ出た。
道路へ飛び出して、配送トラックにはねられた。
二日後に亡くなった。
27 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:30:49.58 ID:d3Fy7Kc80
それ新聞に出た?
28 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:31:46.21 ID:6tNq8PzA0
小さく出た。
大手商社の海外支社幹部が交通事故で死亡した、という記事だった。
会社資金の件は、その時点では公表されなかった。
俺も記事を読んだ記憶があった。
ただ、病院長の息子だとは知らなかった。
29 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:32:39.83 ID:W2jv4Rne0
もう一人は?
30 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:33:54.08 ID:6tNq8PzA0
次男は医師になり、父親の病院で副院長をしていた。
妻と五歳の娘がいた。
病院長はその孫娘を溺愛してた。
木島さんは最初に、その子を狙った。
春の午後、娘が二階の部屋で一人になった時、ベランダの外に赤い風船を見せた。
風船は手を伸ばせば届きそうな位置に浮かんでた。
娘は椅子を運んで、手すりの近くへ置いた。
31 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:34:28.76 ID:Vh5mQ9Ls0
子供はやめろ
32 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:35:37.53 ID:6tNq8PzA0
娘は椅子の上に立って、風船へ手を伸ばした。
風船が少し遠ざかった。
娘は手すりへ上った。
そのまま下へ落ちた。
庭には赤い風船なんかなかった。
防犯カメラにも映ってなかった。
娘だけが、何もない空中へ手を伸ばしていた。
33 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:36:19.64 ID:X7sK0hTp0
完全に殺人じゃねえか
34 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:37:33.12 ID:6tNq8PzA0
そうだ。
その頃から、次男の精神状態がおかしくなった。
夜中に目を覚ますと、隣で寝ていたはずの妻がいない。
廊下へ出ると、院長が使っている病院の特別室から、妻の笑い声が聞こえる。
近づくと、声は消える。
寝室へ戻ると、妻はずっとベッドで寝ている。
最初は娘を亡くしたせいで、幻聴が起きていると思ったらしい。
35 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:38:44.07 ID:6tNq8PzA0
数日後、次男が車で病院から帰っていると、前を父親の車が走っていた。
後部座席のスモークガラスが少し下がって、妻の顔が見えた。
隣には父親がいた。
次男は車を追いかけた。
信号で追いついて中を見たら、乗っていたのは父親と運転手だけだった。
妻はその時間、別の場所にいた。
それでも次男は、妻と父親が関係していると思うようになった。
36 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:39:28.51 ID:d3Fy7Kc80
幽霊が幻覚見せてるのか
37 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:40:35.80 ID:6tNq8PzA0
そう言ってた。
声も姿も、全部木島さんが見せていた。
ある夜、次男は病院の宿直室で目を覚ました。
妻がいなかった。
廊下の奥にある院長専用の特別室から、二人の声が聞こえた。
次男は一度自分の部屋へ戻り、白衣を着た。
それから医療器具を入れたケースを持って、特別室へ向かった。
38 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:41:52.16 ID:6tNq8PzA0
部屋の中には、妻と父親がいるように見えた。
次男は二人へ向かって、持っていたメスを振り回した。
騒ぎを聞いて警備員と看護師が来た。
実際の部屋には誰もいなかった。
防犯カメラには、次男が一人で部屋へ入り、誰もいないベッドへ話しかけ、何度も切りつけている姿だけが映っていた。
次男は取り押さえられて、そのまま自分の病院の精神科病棟へ入れられた。
39 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:42:43.92 ID:W2jv4Rne0
父親は生きてるのか
40 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:43:52.30 ID:6tNq8PzA0
その時はまだ生きてた。
長男が事故で死んで、孫娘が転落して、次男が精神科へ入院した。
病院長は急に弱って、ほとんど人前へ出なくなった。
木島さんは、
「これで復讐は終わった」
と言った。
でも、うれしそうには見えなかった。
しばらく黙ってから、
「子供には気の毒なことをした」
と言った。
41 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:44:39.78 ID:Vh5mQ9Ls0
今さら気の毒とか言われてもな
42 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:45:28.75 ID:X7sK0hTp0
殺された被害者だったのに自分も同じ側に行ったんだな
43 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:46:41.08 ID:6tNq8PzA0
木島さんも、それが分かってたんだと思う。
「敵とはいえ、あの家族もかわいそうだった」
「もう私が残っている理由はない」
と言った。
俺は何か聞かなきゃいけないと思った。
与党幹部の名前をもう一度確認しようとした。
病院長が何を使って殺したのか、証拠がどこかに残ってないのかも聞きたかった。
でも声が出なかった。
44 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:47:50.17 ID:6tNq8PzA0
木島さんは立ち上がった。
「大崎先生の本を頼む」
と言って、書斎のドアを開けた。
廊下へ出ていく後ろ姿を見た。
俺も立ち上がって、あとを追ったはずなんだけど、そこから記憶がない。
気がついた時には、机に伏して寝てた。
窓の外が明るくなってた。
灰皿には途中まで吸った煙草が一本残ってた。
45 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:48:36.69 ID:d3Fy7Kc80
夢オチ?
46 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:49:41.22 ID:6tNq8PzA0
俺も夢だと思った。
疲れてたし、昔の資料を読み続けてたから、知ってる人や事件をつなげて夢を見たんだろうと考えた。
朝食の時、妻が、
「昨日のお客さん、ずいぶん遅くまでいたね」
と言った。
俺が何のことか聞くと、
「男の人と書斎で話してたでしょう」
と答えた。
47 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:50:37.53 ID:6tNq8PzA0
妻は相手の声までは聞き取れなかった。
でも俺とは別の、低い男の声がしていた。
午前三時過ぎまで話していたらしい。
そのあと玄関のドアが開く音がして、俺が、
「長い間、お疲れさまでした」
と言った。
ドアが閉まり、鍵をかける音も聞いた。
妻は仕事の関係者だと思って、そのまま寝た。
48 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:51:18.26 ID:W2jv4Rne0
防犯カメラとかないの?
49 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:52:30.91 ID:6tNq8PzA0
玄関にカメラがあった。
確認した。
午前三時十二分、俺が一人で書斎から出てきた。
玄関の鍵を開けて、ドアを外側へ大きく開けた。
誰も映ってない。
でも俺は、誰かが通り過ぎるのを待つように、しばらくドアを押さえてた。
それから外へ向かって深く頭を下げた。
「長い間、お疲れさまでした」
と音声も入ってた。
50 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:53:15.08 ID:Vh5mQ9Ls0
動画上げろ
51 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:54:29.60 ID:6tNq8PzA0
家族の顔も家の中も映ってるから上げない。
信じてもらえなくてもいい。
その後、遺稿の中から大崎先生の古い手帳が見つかった。
木島さんが亡くなった日のページに、
「投薬記録にない抗凝固剤の空容器を看護師が見た。院長は否定。看護師は翌月退職」
と書いてあった。
看護師の名前もあったけど、連絡先までは分からなかった。
52 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:55:18.34 ID:X7sK0hTp0
告発しなかったのか
53 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:56:27.81 ID:6tNq8PzA0
できなかった。
手帳の一行と、死者から聞いた話だけではどうにもならない。
関係者のほとんどはもう亡くなってた。
病院長も、俺が木島さんを見た翌年に死んだ。
次男は今も入院していると聞いた。
大崎先生の遺稿集は予定より遅れたけど出版された。
木島さんの話は載せてない。
54 :本当にあった怖い名無し:2026/07/22(水) 21:57:48.15 ID:6tNq8PzA0
最後に一つだけ。
遺稿集が完成した夜、編集を手伝った何人かで大崎先生の墓へ報告に行った。
墓の隣に、木島さんの名前が小さく彫られた慰霊碑がある。
そこへ煙草を一本供えた。
火はつけてない。
全員で手を合わせていると、煙草の先から細い煙が上がった。
風のない日だった。
煙はしばらく人の形になって、大崎先生の墓のほうへ歩くみたいに流れて、消えた。
今度こそ、二人で行ったんだと思う。




