表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
洒落怖・閲覧注意まとめ  作者: はまゆう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
131/154

第130話 ヨウム

1 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:14:08.62 ID:7Kf3mQpA0


兄貴と、昔うちで飼ってたオウムの話。


身内は今も生きてるから、地名と名前は変える。七年くらい前、埼玉県北部であったことだ。


俺も全部を直接見たわけじゃない。親から聞いた部分もある。


釣りだと思うなら、それでいい。


2 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:15:31.44 ID:bY8d2Lr60


聞こう


3 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:16:02.19 ID:7Kf3mQpA0


兄貴は当時三十五歳。


小さい製本会社で働いてた。無口だけど仕事は真面目で、同じ会社に十年以上いた。


ただ、人の冗談を本気にするところがあった。


適当に言われたことを、そのまま受け取る。それで昔から同級生にからかわれてた。


兄貴の左手には、生まれつき六本目の指があった。


小指の外側についてる小さい指で、骨も爪もあった。


4 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:17:18.51 ID:G1vn0zu70


多指症か


5 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:18:04.77 ID:7Kf3mQpA0


そう。


子供の頃に手術する話も出たらしいけど、生活に支障がなかったから、そのままになってた。


兄貴はかなり気にしてた。


写真を撮る時は左手を隠すし、夏でも手が見えにくい服を着てた。


その頃、兄貴の同級生が、地元の商工会がやってる婚活イベントに兄貴を連れていった。


そこで有名だったのが、仮に美咲さんとするけど、地元で不動産会社と介護施設を経営してる家の娘だった。


会社の広報にも顔を出してたから、地元ではわりと知られてた。


6 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:19:11.22 ID:p4XqC9s20


地方の名士の娘ってやつか


7 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:20:06.39 ID:7Kf3mQpA0


そんな感じ。


兄貴は美咲さんとまともに話せなかった。


遠くから見ただけで顔を真っ赤にして、会場の外へ出たらしい。


それを見た同級生が面白がった。


その中の一人が美咲さんの親戚と知り合いで、「あいつが美咲さんを気に入ってる」と話した。


それが本人にも伝わった。


美咲さんは冗談で、


「左手の余った指を取ったら、一度くらいお茶してもいい」


と言ったらしい。


本人は兄貴にそのまま伝わると思ってなかったそうだ。


でも同級生は、面白がって兄貴に伝えた。


8 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:21:13.90 ID:ay6GfPjL0


嫌な予感しかしない


9 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:22:07.51 ID:7Kf3mQpA0


兄貴はその翌週、一人で病院へ行った。


家族には何も言ってなかった。


形成外科で診てもらって、何度か検査を受けて、切除手術の日まで決めてきた。


母親が知ったのは、病院から説明書や同意書を持って帰ってきた時だった。


なんで急に手術する気になったのかと聞いても、兄貴は、


「前から邪魔だったから」


としか言わなかった。


俺は婚活イベントの話を聞いてたから、たぶん美咲さんの言葉を本気にしたんだろうと思った。


10 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:23:15.83 ID:G1vn0zu70


病院で取るなら別にいいんじゃないの


11 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:24:38.21 ID:7Kf3mQpA0


俺たちもそう思ってた。


成人してから自分で決めたことだし、手術自体も難しいものじゃないと説明された。


でも手術中、兄貴はアナフィラキシーショックを起こした。


何の薬が原因だったのかは、その時点では分からなかった。


家族には「麻酔が合わなかったようです」と説明された。


あとで書類を見たら、術中に使った薬剤によるアナフィラキシーショックと書いてあった。


血圧が急激に下がって、一時はかなり危険な状態だったらしい。


12 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:25:20.16 ID:Wu9e6br30


それは普通に死にかけてるな


13 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:26:42.68 ID:7Kf3mQpA0


手術そのものは終わってた。


左手の指は五本になってた。


兄貴は集中治療室へ移されたけど、次の日になっても意識が戻らなかった。


呼吸はしてたし、医者からも状態は安定してると言われた。


その日の夜、母親がベッドの横にいた。


兄貴は目を閉じたまま、小さい声で、


「俺、今、美咲さんの家にいる」


と言った。


母親は最初、薬のせいで変な夢を見てるんだと思ったらしい。


14 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:27:18.84 ID:bY8d2Lr60


そこからか


15 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:28:39.17 ID:7Kf3mQpA0


母親が「何が見えるの」と聞いた。


兄貴は目を開けないまま、


「白い棚がある」


「棚の上にガラスの鳥が二羽いる」


「机の下に青い箱がある」


「洗面台の右下のタイルが割れてる」


「鏡の前に赤い布が置いてある」


と言った。


母親が呼びかけても、それ以上は答えなかった。


翌朝になっても兄貴の意識は戻らなかった。


16 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:29:31.82 ID:yt5K3AMO0


美咲さんの部屋って確認したの?


17 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:30:58.46 ID:7Kf3mQpA0


した。


母親が、以前もらった名刺を見て美咲さんの会社に電話した。


最初は取り次いでもらえなかった。


兄貴が手術中に倒れて、意識が戻らないことと、美咲さんの部屋にいると言ってることを伝えた。


しばらくして、美咲さん本人から折り返しがあった。


白い棚も、ガラスの鳥も、青い箱も、割れたタイルも本当にあった。


赤い布というのは、化粧台に置いてあったシュシュだった。


その部屋の写真をネットに出したことはないし、兄貴を家に入れたこともないと言ってた。


18 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:31:43.26 ID:p4XqC9s20


兄貴がどこかで写真見たとかは?


19 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:32:58.77 ID:7Kf3mQpA0


ないと思う。


少なくとも割れたタイルのことまで知る方法はなかった。


美咲さんは、兄貴が手術を受けた理由を聞いて、かなりショックを受けてた。


それと、兄貴の手術があった夜から同じ夢を見てた。


自分の部屋の隅に兄貴が立って、何も言わずに見てる夢だったらしい。


二日続けて同じ夢を見たから、寝る時は部屋の電気を消せなかったと言ってた。


20 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:34:07.61 ID:nM2wH8q50


生霊というか幽体離脱か


21 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:35:24.33 ID:7Kf3mQpA0


美咲さんはその日の午後、病院まで来た。


集中治療室には入れなかったから、病室へ移ってから兄貴の名前を呼んだ。


何度呼んでも反応はなかった。


美咲さんはベッドの横で謝った。


それから最後に、


「もう私の部屋から帰ってください」


と言った。


その時、兄貴の左手が少し動いた。


夜になって、兄貴は目を覚ました。


22 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:36:08.93 ID:G1vn0zu70


戻ってきたのか


23 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:37:11.24 ID:7Kf3mQpA0


兄貴は、どうして病院にいるのかすぐには分からなかった。


母親が美咲さんの部屋の話を聞いたけど、ほとんど答えなかった。


ただ、


「帰り道が分からなかった」


と言った。


そのあと兄貴は回復して、二週間くらいで退院した。


美咲さんは責任を感じてたんだと思う。


退院後、時々兄貴に連絡するようになった。


兄貴は電話じゃほとんど話せないから、短いメッセージを送り合ってた。


24 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:38:20.08 ID:ay6GfPjL0


女のほうも怖かっただろうな


25 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:39:44.65 ID:7Kf3mQpA0


うちには当時、灰色の大きなオウムがいた。


正確にはヨウムって種類らしい。十年以上飼ってて、名前はハイだった。


ハイは兄貴に一番懐いてた。


兄貴の声を真似して、


「ただいま」


「母さん、お茶」


とか言ってた。


その頃から「美咲さん」とも言うようになった。


兄貴が病院から戻ってから、何度も名前を口にしてたから覚えたんだと思う。


26 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:40:13.29 ID:Wu9e6br30


鳥が関係あるのか


27 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:41:52.84 ID:7Kf3mQpA0


手術から半年くらいたった翌年の四月、近所の川沿いで桜まつりがあった。


兄貴は同級生に誘われて出かけた。


美咲さんは、家が経営してる介護施設のテントを手伝ってた。


髪を後ろでまとめて、赤いシュシュをつけてたらしい。


兄貴は桜並木の向こうに美咲さんを見つけると、その場で動かなくなった。


同級生が肩を叩いても返事をしない。


美咲さんがテントを離れて見えなくなるまで、ずっと同じ場所に立ってたそうだ。


28 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:43:06.38 ID:7Kf3mQpA0


帰ってきた兄貴は、服も着替えずに自分の部屋へ入った。


夕飯になっても起きてこないから、母親が見に行った。


手術の時と同じだった。


目は開いてるのに、何を聞いても答えない。


救急車で運ばれたけど、脳にも血液にも異常はなかった。


今回は手術も薬も使ってない。


なのに前とまったく同じ状態になった。


29 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:44:03.51 ID:bY8d2Lr60


また女の家に行ったのか


30 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:45:28.73 ID:7Kf3mQpA0


たぶん。


救急車を呼んでる最中、ハイが鳥籠の中で急に暴れ始めた。


何度も籠に体をぶつけながら、兄貴の声で、


「行く」


「行く」


と繰り返した。


それから止まり木から落ちた。


ハイは動かなくなった。


父親がタオルを敷いた箱に入れて、鳥籠の横へ置いた。


兄貴のことで家の中がバタバタしてたから、病院から戻ったら庭に埋めようということになった。


31 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:46:16.12 ID:p4XqC9s20


嫌な流れだな


32 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:47:38.55 ID:7Kf3mQpA0


兄貴はそのまま入院した。


明け方、父親が一度家へ帰った。


そしたら、箱の中からハイがいなくなってた。


玄関も窓も閉まってた。


箱の中には灰色の羽が何枚か残ってるだけだった。


俺も最初は、父親がどこかへ動かしたんだと思った。


でも、見つけた父親本人が一番混乱してた。


33 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:48:22.04 ID:G1vn0zu70


猫とかに持っていかれたんじゃないの


34 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:49:49.92 ID:7Kf3mQpA0


箱は家の中にあった。


猫も飼ってない。


その日の午前十時過ぎ、美咲さんから母親の携帯に電話が来た。


灰色のオウムが、自宅二階のベランダにいると言ってた。


窓を開けたら逃げるどころか、美咲さんの腕に乗ってきたらしい。


それで兄貴の声で、


「美咲さん」


「俺だよ」


と言った。


35 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:50:17.38 ID:yt5K3AMO0


足環は確認した?


36 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:51:42.19 ID:7Kf3mQpA0


した。


ハイの右足には、買った店の番号が入った銀色の足環がついてた。


美咲さんが写真を送ってきた。


番号は同じだった。左足の爪が一本だけ白いところも同じだった。


うちから美咲さんの家までは、直線なら二キロもない。


生きてる鳥が飛んでいっただけなら、別におかしくない。


ただ、父親が箱に入れた時、ハイの体は冷たくなってた。


37 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:52:16.08 ID:nM2wH8q50


兄貴はその間どうしてた


38 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:53:44.87 ID:7Kf3mQpA0


病院で寝たまま。


美咲さんが餌をやると、ハイは食べた。


でも他の家族が手を出すと、くちばしで追い払ったらしい。


美咲さんが座ると膝に乗る。


部屋を出ると後を追う。


夜は美咲さんの枕元で寝た。


その時の動画は俺も見た。


ハイは美咲さんの肩に乗って、兄貴の声で、


「帰りたくない」


と言ってた。


39 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:54:19.52 ID:ay6GfPjL0


兄貴が乗り移ってたってことか?


40 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:55:52.34 ID:7Kf3mQpA0


美咲さんはそう思ったらしい。


三日目の朝、ハイに向かって、


「もし本当にあなたなら、自分の体へ戻ってください」


と言った。


それから、


「戻ってきたら、今度は逃げないでちゃんと話します」


とも言った。


ハイはしばらく首を傾けてた。


そのあと化粧台まで飛んで、赤いシュシュをくわえた。


桜まつりの日につけてたものだった。


美咲さんが取ろうとしたら、そのまま窓から飛び出した。


41 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:56:37.25 ID:p4XqC9s20


家に戻ったのか


42 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:57:58.91 ID:7Kf3mQpA0


昼過ぎ、父親が家の裏で何かが落ちる音を聞いた。


勝手口を開けたら、ハイがコンクリートの上に倒れてた。


くちばしに赤いシュシュが引っかかってた。


父親が抱き上げた時には、もう動かなかった。


その何分か後、病院にいた母親から電話が来た。


兄貴が目を覚ました、と。


俺たちが病室に入った時、兄貴はまだぼんやりしてた。


父親はシュシュを袋に入れて持ってたけど、まだ見せてなかった。


兄貴は父親の顔を見るなり、


「赤いの、ちゃんと持って帰ってきた?」


と言った。


43 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:58:33.64 ID:Wu9e6br30


鳥は今度こそ死んでたの?


44 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 21:59:48.16 ID:7Kf3mQpA0


死んでた。


その日の夕方、動物病院にも連れていった。


父親が庭に埋めた。


赤いシュシュは美咲さんに返そうとしたけど、受け取らなかった。


「それは、あの人が持って帰ったものだから」


と言ったらしい。


45 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 22:00:35.80 ID:G1vn0zu70


兄本人は鳥だった時の記憶あったのか?


46 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 22:01:57.13 ID:7Kf3mQpA0


詳しくは話さなかった。


でも美咲さんの家で何を食べたか、どの窓から出たか、帰る途中でどこの屋根に降りたかは覚えてた。


美咲さんが撮った動画を見る前から言ってた。


兄貴は退院してから、美咲さんと会った。


二人だけだと会話が続かないから、最初は俺も一緒にいた。


美咲さんが、


「どうして私だったんですか」


と聞いた。


兄貴はかなり長いこと黙ってから、


「分からない。見た時には、もうそっちにいた」


と答えた。


47 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 22:02:28.42 ID:bY8d2Lr60


その後どうなった


48 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 22:03:53.26 ID:7Kf3mQpA0


三年後に結婚した。


美咲さんの親は最後まで反対してたけど、美咲さんが実家を出た。


兄貴は今も同じ製本会社で働いてる。


夫婦仲は悪くないと思う。


ただ、兄貴たちの家では鳥を飼ってない。


美咲さんが、鳥籠だけは家の中に置きたくないらしい。


49 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 22:04:19.61 ID:nM2wH8q50


まあそうなるわな


50 :本当にあった怖い名無し:2026/07/20(月) 22:05:42.88 ID:7Kf3mQpA0


これで最後。


去年、兄貴たちの家に泊まった。


夜中にトイレへ行った時、暗い廊下で兄貴とすれ違った。


「どうした」と聞いたら、兄貴は首を少し横に傾けた。


ハイが人の話を聞く時と、まったく同じ動きだった。


それから兄貴の声で、


「帰りたくない」


と言った。


次の日の朝、兄貴に聞いたけど、何も覚えてなかった。


美咲さんだけ黙ってた。


俺が帰る時、玄関まで見送りに来て、小さい声で言った。


「たまにあるの。でも、あの人には言わないで」


赤いシュシュは、今も兄貴の机の引き出しに入ってる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ