第129話 豪雨
612 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 21:13:44.81 ID:Qx7mA4kF0
昔、道路維持管理の仕事をしてた頃の話。
山奥の旧道を点検することが多かったんだけど、
一度だけ妙な体験をした。
613 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 21:15:02.76 ID:Jd8m2yVq0
山系?
614 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 21:15:48.53 ID:Qx7mA4kF0
>>613
うん。
県境の山。
場所は今も仕事で通ることがあるから勘弁して。
615 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 21:18:21.94 ID:Qx7mA4kF0
九月だった。
線状降水帯が来てて、
会社から
「旧道に異常がないか見てきてくれ」
って無線が入った。
616 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 21:19:57.44 ID:8PtVv5Ne0
フラグ立ったなw
617 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 21:21:03.88 ID:Qx7mA4kF0
俺も嫌だった。
あそこは昔から事故が多い。
地元の人も夜は通らない。
618 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 21:22:14.73 ID:hY2mLrX60
旧道あるある
619 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 21:24:11.08 ID:Qx7mA4kF0
山へ入った頃には、
ワイパーが意味をなさないくらい雨が降ってた。
携帯は圏外。
無線もノイズだけ。
620 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 21:25:40.33 ID:Qx7mA4kF0
しばらく走ってると、
「ゴゴゴ……」
って低い音が聞こえた。
最初は雷だと思った。
でも違った。
621 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 21:27:52.16 ID:Qx7mA4kF0
山が崩れた音だった。
バックしようとした瞬間、
後輪が側溝にはまった。
何度アクセルを踏んでも空転しかしない。
622 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 21:29:15.04 ID:Lw7pDc810
詰んだ……
623 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 21:31:08.77 ID:Qx7mA4kF0
会社へ連絡しようにも圏外。
車を置いて歩くしかなかった。
624 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 21:32:26.81 ID:3KqvW0m90
豪雨の山を歩くとか無理だろ…
625 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 21:34:02.49 ID:Qx7mA4kF0
無理だった。
でも車にいても土砂崩れに巻き込まれる。
だからライトだけ点けたまま歩き出した。
626 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 21:36:17.15 ID:Qx7mA4kF0
10分くらい歩いたと思う。
雨で前なんかほとんど見えない。
その時だった。
遠くに明かりが見えた。
627 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 21:37:54.90 ID:eL5MZw4x0
民家?
628 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 21:39:41.23 ID:Qx7mA4kF0
古い平屋だった。
灯りが漏れていて、
玄関先には軽トラまで停まってた。
正直、助かったと思った。
629 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 21:41:06.18 ID:Qx7mA4kF0
すみません!
そう声を掛けると、
六十代くらいのお母さんが出てきた。
630 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 21:42:51.92 ID:Qx7mA4kF0
事情を話すと、
「あらまあ、大変だったねぇ」
って、まるで近所の人みたいに笑って家へ入れてくれた。
631 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 21:44:03.10 ID:Jd8m2yVq0
優しいな
632 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 21:45:38.94 ID:Qx7mA4kF0
家には娘さんもいた。
二十代半ばくらい。
無口だったけど、
ずぶ濡れのタオルを持ってきてくれて、
「風邪ひきますから」
って一言だけ言った。
633 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 21:47:20.66 ID:Qx7mA4kF0
着替えまで貸してもらった。
作業服はストーブの前。
囲炉裏じゃなくて石油ストーブ。
テレビでは県内各地の避難情報が流れてた。
634 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 21:49:01.14 ID:bN8aWl7P0
ちゃんと現代だなw
635 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 21:50:55.91 ID:Qx7mA4kF0
夕飯までご馳走になった。
山菜の煮物と味噌汁。
それと炊きたてのご飯。
本当に普通の家庭だった。
だから、この時は何も疑わなかった。
636 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 21:53:37.62 ID:Qx7mA4kF0
飯を食い終わった頃には雨も少し弱くなってた。
「今日は泊まっていきなさい」
そう言われた。
正直、その方がありがたかった。
637 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 21:54:58.41 ID:kN6vQ2Rw0
こんなん断れんわ
638 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 21:56:44.17 ID:Qx7mA4kF0
布団を敷いてもらって横になると、
娘さんがお茶を持ってきてくれた。
「夜は窓を開けないでくださいね」
そう言った。
639 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 21:57:18.70 ID:2GtV5pLb0
なんで?
640 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 21:59:06.15 ID:Qx7mA4kF0
理由を聞こうとしたけど、
娘さんは少し笑っただけで部屋を出ていった。
641 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 22:03:29.80 ID:Qx7mA4kF0
夜中。
目が覚めた。
雨音が止んでたからだと思う。
代わりに、
家の外から誰かが歩く音が聞こえた。
ジャリ……
ジャリ……
642 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 22:04:51.26 ID:9MnVg4QF0
やっと洒落怖っぽくなってきた
643 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 22:06:37.11 ID:Qx7mA4kF0
一人じゃない。
何人もいる。
ゆっくり家の周りを歩いてる。
誰も喋らない。
足音だけ。
644 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 22:08:22.44 ID:Qx7mA4kF0
カーテンを開けようとした瞬間、
後ろから小さな声がした。
「見ないでください。」
娘さんだった。
645 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 22:09:58.73 ID:Qx7mA4kF0
振り返ると、
廊下に立っていた。
いつの間に来たのか全然分からなかった。
646 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 22:11:42.35 ID:Qx7mA4kF0
「今夜だけです。」
「朝になれば、もう大丈夫です。」
そう言って、
娘さんは静かに障子を閉めた。
647 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 22:12:40.55 ID:w8Ke3bE60
外に何がいるんだよ……
648 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 22:15:09.62 ID:Qx7mA4kF0
そのまま朝まで眠れなかった。
足音は夜明け近くまで続いてた。
649 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 22:16:58.37 ID:R4yLpM1N0
動物じゃないの?
650 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 22:19:14.73 ID:Qx7mA4kF0
>>649
俺もそう思った。
でも、人が長靴で歩く音だった。
一定の速さで、
家の周りをぐるぐる回ってた。
651 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 22:22:01.47 ID:Qx7mA4kF0
朝になると嘘みたいに晴れてた。
652 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 22:23:36.88 ID:Qx7mA4kF0
母親が弁当を持たせてくれた。
「車のところまで送るよ。」
そう言って二人で歩き始めた。
653 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 22:25:02.14 ID:Qx7mA4kF0
娘さんも一緒だった。
昨日と変わらず無口だったけど、
俺の少し前を歩いてくれた。
654 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 22:27:48.51 ID:Qx7mA4kF0
車の近くまで来た時、
思わず振り返った。
「本当にありがとうございました。」
そう頭を下げた。
655 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 22:28:31.77 ID:Qx7mA4kF0
母親は笑って、
「困った時はお互いさまだから。」
と言った。
656 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 22:30:46.98 ID:Qx7mA4kF0
娘さんは最後に一言だけ。
「もう、この道は夜に来ないでください。」
657 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 22:31:55.23 ID:q8XkFa5F0
フラグやめろw
658 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 22:34:20.84 ID:Qx7mA4kF0
会社へ戻ると、
みんな妙な顔をした。
659 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 22:35:41.17 ID:Qx7mA4kF0
「生きてたか。」
最初に言われた言葉がそれだった。
660 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 22:37:29.81 ID:Qx7mA4kF0
俺が帰らなかったから、
朝一番で消防と警察に連絡して、
救助隊まで出てたらしい。
661 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 22:39:18.02 ID:Qx7mA4kF0
俺は
「近くの家に泊めてもらった。」
って説明した。
662 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 22:40:56.47 ID:7wYmHkM90
それで?
663 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 22:42:18.53 ID:Qx7mA4kF0
全員黙った。
664 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 22:43:33.60 ID:Qx7mA4kF0
所長が地図を広げて、
「この辺か?」
って聞いてきた。
俺は迷わず指を差した。
665 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 22:45:01.14 ID:Qx7mA4kF0
所長が首を振った。
「あそこに家はない。」
666 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 22:46:39.22 ID:Qx7mA4kF0
俺は笑った。
「いや、ありますよ。」
「軽トラも停まってたし。」
667 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 22:48:10.93 ID:Qx7mA4kF0
所長は何も言わず、
昔からいる班長を見た。
668 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 22:49:33.40 ID:Zk5hLqY90
嫌な流れ…
669 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 22:51:04.55 ID:Qx7mA4kF0
班長が口を開いた。
「あそこは二十年以上前に空き家になった。」
670 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 22:52:48.21 ID:Qx7mA4kF0
「土砂崩れで道が変わってから、
誰も住んどらん。」
671 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 22:54:15.86 ID:Qx7mA4kF0
そんなはずない。
昨日の味噌汁の味まで覚えてる。
ストーブの灯油の匂いも。
貸してもらったジャージだって着て帰ってきた。
672 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 22:55:36.91 ID:8nJr0TwQ0
そのジャージは?
673 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 22:57:02.11 ID:Qx7mA4kF0
会社で着替える時に返そうと思って袋を開けた。
入っていたのは、
昨夜乾かしたはずの自分の作業着だけだった。
674 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 22:58:48.93 ID:h6QbMvL10
お約束だけど怖い…
675 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 23:00:19.80 ID:Qx7mA4kF0
弁当もなくなっていた。
確かに助手席へ置いたはずなのに。
676 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 23:02:14.17 ID:Qx7mA4kF0
俺は意地になった。
休みの日、一人であの場所へ戻った。
677 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 23:03:28.65 ID:dP3mK2XW0
やめろwww
678 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 23:05:57.02 ID:Qx7mA4kF0
昼間だった。
晴れていた。
679 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 23:07:16.44 ID:Qx7mA4kF0
家があるはずの場所には、
石垣だけが残っていた。
680 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 23:08:49.11 ID:Qx7mA4kF0
庭だった場所には、
背丈ほどの笹が生えていた。
人が住んでいる気配なんて、
どこにもなかった。
681 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 23:10:18.27 ID:f7GxNnA80
鳥肌立った
682 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 23:12:07.81 ID:Qx7mA4kF0
それでも諦めきれず歩いていると、
石垣の隅に、
古びた湯飲み茶碗が一つだけ落ちていた。
683 :本当にあった怖い名無し:2026/09/18(金) 23:13:41.56 ID:Qx7mA4kF0
白地に青い花。
昨夜、
母親がお茶を入れてくれた茶碗と
まったく同じ柄だった。




