第86話 麗剣、散る。
第86話です。
楽しんでいってください!
ヴェーヴとアレクサンドル、ユーグは駐屯地の中枢部へと向かっていた。
「ねぇ、2人は早く加勢に行きたくないの?」
「早く行きたいけど、命令だからな!」
「貴様を安全なところに送り届けろ、という命令だからな。この俺に守られているのだぞ?」
ユーグは文句があるのか?、という風な圧をヴェーヴに向ける。
ヴェーヴは無言で首を振ったその時、懐かしい声が背後から響いた。
「ヴェーヴ!」
目を見開き、声の主を振り向く。
ヴェーヴはさらに目を丸くし、駆け寄ろうとした、その時――。
「お前は、魔女だな?」
「耳が尖っているな!」
アレクサンドルとユーグがヴェーヴの前に立ち、武器を構える。
ヴェーヴは2人の間から割って入り、声を震わせた。
「師匠・・・!」
「ヴェーヴ、ごめんなさい。待たせてしまったわね。」
嬉しそうに笑みを浮かべ、リリスに駆け寄ろうとしたヴェーヴを見て、アレクサンドルはわずかに目を丸くして動きを止める。
そして、ユーグは困惑するように眉を寄せ、何かを振り払うように頭を振った。
「とにかく、お前はこいつを連れていけ!アレクサンドル!」
ユーグは未だに動きを止めているアレクサンドルの背中をドンッと押し、ヴェーヴの前に出て、リリスの前に立ちはだかる。
アレクサンドルはハッと我に返り、ヴェーヴの体を担ぎ上げた。
リリスはあくまで敵対する姿勢を崩さない彼らを見て、殺気を飛ばす。
彼女の凍てつくような鋭い殺気を向けられても、2人はもう動きを止めない。
アレクサンドルはヴェーヴを担いだまま、目的地へと向かって駆けだした。
「師匠!やだ、やだよぉ。おろしてぇ・・・。」
「・・・すまないが、ヴェーヴを魔女に返すなって言われててな!」
ヴェーヴが珍しく泣きじゃくりながら足をばたつかせる。
それでも、アレクサンドルは足を止めなかったユーグの気持ちを無駄にしないために。
アレクサンドルの姿が見えなくなると、リリスはわずかに唇を噛みしめて武器を構えて自らの前に立ちふさがるユーグに視線を向ける。
「ヴェーヴを、返してもらうわ。」
ユーグは細剣を持つ手にぐっと力を入れ、リリスを正面から睨む。
「なぜだ?」
「逆に聞きたいのだけれど、なぜそんなに嫌なのかしら?ヴェーヴは嫌がっていたじゃない。」
「隊長からの命令だからだっ!」
ユーグはその言葉と同時に鋭い突きを放つ。
それを後方に跳ぶことでよけたリリスは魔力を練り、いつも通りアイビーを生み出した。
「そう。なら、なぜあなたはここに残っているのかしら。」
「この俺が最っ高に輝けると思ったからだ!」
リリスは一瞬動きを止め、ユーグを見つめる。
そして、「まあ、いいわ・・・。」とつぶやいた。
「今すぐに、そこをどいて。じゃないと、死ぬことになるわよ。」
「望むところだ!」
その瞬間、ユーグが力強く踏み込み、リリスに肉薄する。
リリスはアイビーの葉で彼の突きを受け止めた。
そして、勢いのままつっこんできた彼を蔦で拘束した。
蔦にからめとられたまま、ユーグは一瞬だけ動きを止める。
剣を持つ腕に蔦が食い込み、血がにじむ。
「・・・やはり、貴様は『翠幽』か。」
普通の兵ならば、絶望をその顔に浮かべる状況。
それでも、彼はその顔に笑みを浮かべた。
リリスはその様子を見て、わずかに目を細める。
「もう、やめて。」
静かで、どこか困ったような声をしていた。
「あなた、無茶をしそうよ。」
それを聞き、ユーグはさらに笑みを深める。
「この俺が無茶?全力で敵にぶつかることを、俺は無茶とは言わない!」
「でも、死んでしまうわよ?」
リリスはわずかに顔を伏せる。
ヴェーヴの面倒を見てくれた人を、できるだけ傷つけたくはないのだけど・・・。
2人の間に、風が通り抜ける。
その風のように、湿っぽい声はその場に響かない。
「俺だって、感動の再開の邪魔はしたくないがな。・・・あいつは――ヴェーヴは泣いていた。」
一瞬の沈黙。
リリスは小さく息を吐き、静かにつぶやく。
「・・・そう。」
優しく、けれどどこかあきらめたような声。
次の瞬間、ユーグの体が一歩前に出る。
蔦が軋み、肉が裂けても、彼は止まらない。
「俺は、6番隊副隊長、『麗剣の貴公子』だ。」
彼は自分の体ごと、前に押し出す。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
気合の声とともに、蔦がちぎれる音が響いた。
ユーグは血を散らしながらも、一直線に駆ける。
そして、再びリリスに細剣を突き出した。
先ほどとは比べ物にならぬほど、鋭く、力強い突き。
「・・・っ!」
次の瞬間、蔦がユーグの胸に刺さっていた。
細剣の切っ先はリリスの体から数ミリのところで止まっていた。
「惜しかった、わね。」
「・・・ああ。だが、悪くない。」
ふっと笑うと同時に、口から血がこぼれ落ちる。
満足げな表情で、彼は髪をかき上げた。
「この俺の最後にふさわしい、相手だった。」
「・・・ありがとう。」
リリスはわずかに顔をゆがめ、ユーグを床に横たえる。
彼はそのことを知ってかしらずか、宙を見つめて笑った。
「・・・見てるか、隊長――アルマン。これは、俺にふさわしい――俺らしい散り方だ!」
リリスはそんな彼に1歩近づく。
「とても、きれいだったわ。」
再び、2人の間に風が吹き抜ける。
リリスは髪を耳にかけ、一瞬だけ空に目を向けた。
「・・・ごめんなさい。」
彼女は小さく呟き、踵を返す。
そして、ヴェーヴの元へと駆けだした。
これからものんびり投稿していきます!
ちょこちょこ覗きに来てください!




