第114話 5日間訓練⑤
第114話です。
楽しんでいってください!
――5日目。
今日が最終日だ。
ヴェーヴはすっかり慣れた足取りで訓練場の真ん中に立つ。
その前に立ったのは、やはりアグニ=ゼルだった。
「今日は何するの?」
「最終確認だ。」
アグニ=ゼルが静かな目でヴェーヴを見つめる。
彼女の中を観察するように目を細めた。
「力を借りるな。」
「え?」
「俺を使え。」
「使う?」
ヴェーヴが首を傾げる。
精霊力は精霊に借りるものって言ってなかったっけ?
借りなかったら僕、どうやって魔法使うの!?
頭の中でぐるぐると考えていると、アグニ=ゼルが口を開く。
「やるぞ。」
「はい!」
反射的に答える。
すると、アグニ=ゼルの耳飾りが昨日よりもさらに強く輝きだした。
それと同時に、ヴェーヴの契約紋も輝き始めた。
少しずつ、少しずつその輝きが強くなっていく。
ドクン、ドクンと心臓に合わせて精霊力が脈打つ。
次の瞬間、ヴェーヴの全身に、熱い精霊力があふれ出した。
「それを回せ。」
アグニ=ゼルに言われ、慌てて全身に熱いそれを巡らせる。
心臓から下半身、心臓、そして頭。
全身にいきわたり、ぽかぽかと温かくなる。
「あったかい・・・熱い?」
「それを外に出せ。」
ヴェーヴはこくりと頷き、手に精霊力を集中させていく。
少し意識するだけで、簡単に動くそれは、まるで生命そのもののよう。
ヴェーヴはそっと集まったものを外へと押し出した。
手から火球が生み出される。
それは消えず、揺らがない。
今までのようないびつさもなく、赤々と燃え上がっていた。
「すごい・・・!」
ヴェーヴがぽつりとこぼす。
アグニ=ゼルは静かにそれを眺め、頷いた。
しばらくたっても、それが消える気配はなく、ヴェーヴは困ったように顔を上げる。
「ねぇ、これ、どうしたらいい?」
リリスが歩み寄り、少し苦笑した。
「押し出すのをやめたら、消えるわよ。」
「あ、そっか。」
ヴェーヴはそっと押し出し続けていた力を止める。
すると、火球はあっさりと霧散し、ヴェーヴの中に巡っていた炎のような精霊力も消えていった。
「お疲れ様。」
昨日と同じように差し出された水を飲み、ヴェーヴをほうっと息を吐き出す。
「とりあえず、これで十分でしょうか?」
リリスがアグニ=ゼルに尋ねる。
彼は静かに頷く。
「これを持っておけ。」
そう言って渡されたのは、透明に近い白い宝石が埋め込まれた耳飾り。
「わぁ!綺麗!」
「それがあれば、俺をいつでも呼び出せる。」
「へー。」
ヴェーヴはきらきらとした目で耳飾りを見つめる。
「ありがとう、アグニ!」
満面の笑みでそう言い、耳飾りをぎゅっと握りしめた。
それはわずかな熱を放っており、ヴェーヴは大切にしよ!と思ったのだった。
屋敷に戻ると、シャシャが応接間で待っている、とクレールに告げられる。
あわてて向かうと、彼女はソファにのんびりと腰を掛け、お茶を飲んでいた。
「あ、2人とも、訓練してたんでしょ?お疲れ様ー!」
ニコニコと笑顔を浮かべたまま、彼女はドンッと机の上に見覚えのあるカバンと、2冊の手帳のようなものを置いた。
「物資の補給と、入国許可。ちゃんととってきたからね!」
「・・・ありがとう、シャシャ。」
リリスは入国許可証を手に取り、内容を確認する。
シャシャはそっとヴェーヴに手招きした。
「あの精霊様は?」
「アグニ?訓練が終わったら、元の場所に帰っちゃったよ?」
「そうなの。ちょっと聞きたいことがあったんだけど、仕方ないかー。」
シャシャが眉を下げて笑う。
ヴェーヴは早速付けた耳飾りに手を当て、口を開いた。
「呼ぶ?」
「大丈夫!急ぎじゃないし、わざわざ呼び出すほどのことじゃないもん。」
にこっと笑い、ヴェーヴの頭をなでる。
しばらくの間撫でられ、ヴェーヴはリリスに視線で助けを求めた。
シャシャさん、長い・・・。
その視線に気づいてか、気付かずか、リリスが入国許可証から顔を上げる。
「大丈夫そうだから、明日の朝に向かうわ。・・・シャシャ、早く城に戻った方がいいわよ。」
「え?」
「お母様から、陛下がお怒りだって。」
「やばい!」
シャシャが慌てて立ち上がる。
「じゃあね、2人とも!」
そう言い残し、彼女はカラスの姿になって窓から飛び出していった。
「・・・とりあえず、お昼ご飯にしましょうか。」
そう言ったリリスの顔は呆れ半分、楽しさ半分だった。
ヴェーヴはそんなリリスを見上げ、にこっと笑みを浮かべた。
その夜。
ヴェーヴの深層意識の中では、アグニ=ゼルとエリュシアが楽しそうに会話していた。
主に楽しそうなのはエリュシアだけだが。
「ヴェーヴ、もうそんなに上達したの!?」
エリュシアが聞いたのは、この5日間の訓練の成果だ。
「ああ。思った以上に早かったな。」
「あと実践だけって感じじゃない!わたくしよりも早いなんて!」
純粋な驚愕がその顔に浮かぶ。
アグニ=ゼルは静かに頷いた。
「ああ。だが、実践とは、火が出せるだけで成り立つものではない。」
「・・・それもそうか。」
その後も2人の会話は続く。
ヴェーヴはそのことに全く気付かず、ぐっすりと眠っていたのだった。
これからものんびり投稿していきます!
ちょこちょこ覗きに来てください!




