第110話 5日間訓練①
第110話です。
楽しんでいってください!
――翌朝。
ヴェーヴはパチリと目を開いた。
時計を見ると、いつもより少し遅い時間。
急いで顔を洗い、服を着替える。
その時、コンコンコンと部屋にノックの音が響いた。
「はーい!」
ヴェーヴはぴょんっと椅子から勢いをつけて立ち上がると、扉を開いた。
「おはよう、ヴェーヴ。」
そこに立っていたのは、リリスだった。
「おはよう、師匠!」
ヴェーヴは元気に挨拶を返す。
リリスは微笑みながらうなずいた。
「朝食ができているそうよ。」
「ほんと!?」
「その前に、髪の毛を梳いてきて頂戴。」
「あっ。」
ヴェーヴは寝ぐせのついた髪をあわてて抑える。
リリスはその様子を見て少し笑った。
ダイニングルームの席に着く。
焼きたてのパンのいい香りが漂っている。
「「いただきます。」」
2人は静かに食事をとり始める。
パンとスクランブルエッグ、サラダ、スープが並んでいた。
「ねぇ師匠。アグニ=ゼル・・・さんは?」
「あら、ヴェーヴと一緒じゃないの?」
「え?」
ヴェーヴはきょとんとした顔で首を傾げる。
その時――
「ここにいる。」
ヴェーヴの背後の空間がゆがみ、昨日よりも回りほど小さい炎の門が開いた。
「あ、いた。」
「・・・一度遺跡に戻ると言っただろう。」
アグニ=ゼルが無表情でそう告げる。
「そうだっけ?」
「ああ。」
「・・・ごめんなさい。」
即座に謝るヴェーヴを見て、リリスは「ふふっ。」と笑った。
アグニ=ゼルが門から一歩踏み出す。
その姿は昨日と変わらない。
黒と赤の特徴的な服装。
白に近い白金色髪と琥珀色の瞳。
「何かあったの?」
ヴェーヴがスクランブルエッグを口に運びながら尋ねる。
「現状のままでは足手まといになるだろう。」
「ぶふっ。」
危うくスープを吹き出しそうになる。
「ひどい!」
「事実だ。」
即座に言葉を返される。
「契約したとて、精霊の力を自由に扱うことは出来ない。」
「・・・うん。」
ヴェーヴはごくりと水を飲み、背筋を伸ばす。
「練習はリリスとやらとするとよい。現在の魔法とほとんど同じものだからな。」
アグニ=ゼルがちらりとリリスに視線を向け、口を開く。
「引き受けました。」
リリスがカトラリーを置き、頷く。
「それに、私も同意見よ。」
「師匠も?」
「ええ。」
リリスは穏やかな笑みを浮かべ、頷く。
「今のヴェーヴは、自分の身を護ることができないわ。」
「でも、護身術は出来るよ?」
「魔法で攻撃された場合は?自分の身体だけで解決できる状況だけではないわ。」
彼女は指先に小さな火をともす。
「最終的に、5日間でこれくらいはできるようになってもらいたいわね。」
そう言い、火の形を次々と変化させる。
球体、三角錐、立方体――。
そして、最後に炎がふわりと花の形に変化した。
「わぁ、すごい・・・!」
ヴェーヴがきらきらと目を輝かせる。
そのままの目で、リリスを見上げる。
「僕も、できるかな!?」
「大丈夫よ。」
リリスは穏やかな笑みを浮かべた。
朝食を終え、3人は王都のはずれにある訓練場へと向かった。
普段は軍が使用する場所であり、様々な設備が整っている。
「使用許可をもらっているから、ここで訓練しましょうか。」
3人が足を踏み入れたのは、いくつかある建物の内の1つだ。
ヴェーヴとリリスが訓練場の真ん中に立ち、アグニ=ゼルは少し離れた場所に立っている。
「師匠!どうやって魔法って使ったらいいの!?」
ヴェーヴがきらきらと目を輝かせる。
リリスはそれを見てふわりと笑う。
「それじゃあ、まずは魔力を感じるところからね。」
そう言って、ヴェーヴの手を取る。
「今からヴェーヴの中に魔力を流すわね。気持ち悪かったら教えて頂戴。」
「わかった!」
ヴェーヴが大きく頷くのを確認し、リリスはそっと魔力を流し始めた。
「左手、左腕、左肩、胸、腰――」
あったかい!
ヴェーヴは自分の中をゆっくりとめぐる温かいものを追いかける。
何度かぐるぐると巡らせ、リリスは右手から魔力を自分の中に戻した。
「ヴェーヴの中をぐるぐる回っていた温かいものが魔力よ。」
「わかったよ!」
リリスがこくりと頷く。
「ヴェーヴの中にも、これと同じようなものが巡っているの。それをさっきみたいにぐるぐる回して一か所に集めると、魔法になるわ。」
「魔力とは別物だ。お前が使うのは俺たち精霊自身の力だからな。基本的に扱いは同じだ。」
アグニ=ゼルがリリスの説明を補足する。
「へー。じゃあ、それの練習するってこと?」
「ええ。まずは、自分の魔力を動かせるようにしてみましょうか。」
「うん!」
2人は再び、つなぐと自分の中に意識を向けた。
師匠と同じ、あったかいの・・・。
ヴェーヴは深く息を吸い、ゆっくりと吐き出す。
徐々に感覚が鋭くなっていくのを感じた。
「まずは、ゆっくりと。心臓のあたり――今、私の魔力がある場所に意識を集中して。」
「うん。」
「そこが魔力を作り出す場所よ。」
さらに、リリスの魔力がゆっくりと巡っていく。
「この動きを覚えて頂戴。ゆっくりと、自分の魔力の通り道を感覚でつかむの。」
何度かそれを繰り返し、右手から魔力がリリスの中に戻っていった。
「それじゃあ、あとは練習あるのみよ。自分の中にある魔力を動かしてみましょうか。」
「はい!」
ヴェーヴは静かに目を閉じる。
先ほど感じた魔力の流れを思い出す。
胸の奥――心臓の近く。
そこに意識を向けた。
・・・あった。
ぼんやりとした光のようなものがある。
温かな何かが、そこには確かに存在していた。
「見つかった?」
「うん!」
ヴェーヴは嬉しそうに答えた。
リリスは少し目を見開き、ふっと和らげる。
「今度は、その魔力を動かしてみて頂戴。」
「こう、かな・・・?」
ヴェーヴはそっとふわふわとした光をリリスの通した道をたどるように滑らせる。
ゆっくり、ゆっくり・・・。
ヴェーヴは自分の中を温かい魔力が流れていくのを感じ、笑みを浮かべた。
一方、リリスはヴェーヴの体内を凝視している。
心臓から下半身へ。
また心臓に戻り、頭へと。
ヴェーヴの魔力は、初めてとは思えないほど滑らかに動いていた。
しばらくしてから、ヴェーヴは目を見開く。
「・・・師匠?」
「もう一度やってみてくれる?」
「うん!」
ヴェーヴは元気に返事をし、先ほどと同じように魔力を動かす。
するすると面白いように滑っていく魔力を追う。
普通なら、流れが途切れたり、魔力が暴走したりしてしまうことが少なからずある。
しかし、まるで初めから通るべき場所を知っているかのように迷いなく魔力が流れていた。
アグニ=ゼルはその様を見て、わずかに目を細めた。
「どう?」
ヴェーヴが目を開くと、リリスは小さく息を吐き出す。
「予想以上ね。」
「・・・?」
ヴェーヴが首を傾げる。
今度はアグニ=ゼルが口を開いた。
「お前はすでに契約者。その時点で、ある程度の素養はある。」
それでもまだよくわからない、といった顔をしているヴェーヴを見て、リリスはクスリと笑みをこぼす。
「まだまだ改善する所はたくさんあるわ。頑張りましょうね。」
「はい!」
こうして、訓練初日。
ヴェーヴは精霊の力を扱うための第一歩を踏み出したのだった。
これからものんびり投稿していきます!
ちょこちょこ覗きに来てください!




