第109話 蒼涙の遺跡で待つ
第109話です。
楽しんでいってください!
ゴーン、ゴーン・・・
遠くで、鐘の鳴る音が聞こえる。
ヴェーヴは静かに目を開いた。
「お疲れさまー。」
どこか疲れた声が背後から聞こえる。
ヴェーヴが振り返ると、そこにはエリュシアが立っていた。
「次の行き先ちょっと伝えたいことがあるから・・・。」
「へ?」
ヴェーヴは思わず目を見開く。
「なんか、急に真面目になった・・・?」
「失礼ね!わたくしは元から真面目!」
むっとした顔で言葉を返すエリュシア。
先ほどよりもいくらか生気が戻り、ヴェーヴはほっと胸をなでおろす。
「それで、何を聞いといたらいいの?」
「アグニに説明してもらって!」
そう言いながら彼女が振り返る。
その陰から顔を出すと、そこには確かに、アグニ=ゼルが立っていた。
「えっ、なんでアグニ=ゼル・・・さん?がいるの?」
ヴェーヴがきょとんとした顔で彼を見つめる。
「契約紋を通してお前の心に干渉している。」
アグニ=ゼルが無表情で答える。
「ええ・・・そんなことできるの・・・?」
ヴェーヴがぽかんと口を開ける。
「ああ。本来なら不可能だが、お前は少々特殊でな。」
「特殊?」
「・・・気にするな。」
淡々と言葉を紡ぐアグニ=ゼルに、ヴェーヴは不満げな声を漏らす。
そんな様子を見たエリュシアが噴き出した。
「ぷっ・・・ふふふ、相変わらず、大事なことは言わないんだ?」
「笑い事じゃない・・・。」
ヴェーヴが頬を膨らませえる。
だが、その柔らかな空気は長く続かなかった。
「本題に入る。」
アグニ=ゼルが淡々と口を開く。
その場の空気がピンと張りつめた。
「蒼涙の遺跡は海底神殿だ。」
「うん。」
ヴェーヴがこくりと頷く。
「だが、それは大した問題じゃない。」
アグニ=ゼルの琥珀色の瞳がヴェーヴをまっすぐに見つめる。
「そこにいる精霊が問題だ。」
「精霊?」
ヴェーヴが首を傾げる。
「あー・・・。」とエリュシアは気まずげに視線をそらした。
「な、なに?」
「いや、その・・・。」
始めて見せる歯切れの悪さにヴェーヴはいやな予感を覚える。
「ラクリマ、ちょっと・・・いや、かなり重いの。」
「重い?」
「重い。」
即答だった。
アグニ=ゼルも静かに頷く。
「何が?」
「えっと、愛が?」
「へ?」
「愛。」
「・・・へ?」
ヴェーヴは思わず二度聞き直す。
愛が重いって何・・・?
精霊に愛ってあるの?
ちらりと2人を見ると、どちらも真剣な表情でヴェーヴを見つめ返す。
「ラクリマ=ディエルは執着心が強い。気に入ったものは、手放さない。」
「へぇ。」
そのまま、アグニ=ゼルの説明が続く。
「800年ほど前、エリュシアが3日ほど姿を消したことがあった。」
「うん。」
「ラクリマ=ディエルは半狂乱になって世界中を探し回った。」
「うん?」
「結果、海が荒れて孤島のいくつかが飲み込まれた。」
「うん???」
ヴェーヴはきょとんとした顔でエリュシアを見上げる。
彼女は遠くを見て、つぶやいた。
「いやー、大変だった・・・。」
「他人事だな。」
「だって、わたくし、悪くないじゃない?」
「・・・。」
2人のやり取りを聞き、ヴェーヴは恐る恐る尋ねる。
「怖い人ってこと?」
「いや、あれは優しいだろう。」
「優しいわね。」
「面倒見もいい。」
「ええ。」
「仲間思いだ。」
「そうそう。」
2人の評価を聞いて、ヴェーヴは再び首を傾げる。
「じゃあ、大丈夫じゃない?」
すると、今度は微妙そうな顔をしてエリュシアが口を開く。
「大丈夫、ではないわ・・・。」
ヴェーヴは混乱し、声を上げる。
「どっち!?」
エリュシアが、今度は真面目な顔になる。
「もしあなたが怪我をしたら、リリスは心配するでしょう?」
「すると思う。」
「ラクリマもする。」
「うん。」
「もしあなたが危険な目に遭っていたら、リリスは助けようとする。」
「うん。」
「ラクリマもそうする。」
「うん。」
そこで一拍置き、エリュシアがいつもの煽情的な笑みを浮かべる。
「その後、もう二度と危険な場所に近づけないようにする。」
「え?」
「部屋から出さずに閉じ込める。」
「へ?」
「ずっと守る。」
「・・・どれくらい?」
「10年?」
「長いよ!」
ヴェーヴが目を見開く。
エリュシアは肩をすくめた。
「まあ、さすがに冗談よ。・・・たぶん。」
「たぶん!?」
ヴェーヴは再び声を上げた。
アグニ=ゼルがまっすぐにヴェーヴの目を見据える。
「お前は、エリュシアと同じく気に入られる可能性が高いだろう。」
「なんで?」
「エリュシアの後継者だからだ。」
エリュシアは苦笑気味だった顔を少し緩めた。
「ラクリマはね。」
静かな口調。
「待ってくれているの。」
ヴェーヴが目を瞬かせる。
エリュシアは小さく笑って言葉を続けた。
「本当は、待つ必要なんてなかった。」
青空のような瞳が静かに伏せられる。
「わたくしが頼んだから。・・・彼女を800年もあの神殿に縛り付けたのは、わたくし。」
気の遠くなるような時間。
たった一つの願いをかなえ続けた。
そんな愛の思い精霊のことを思い出したエリュシアは困ったように笑みを浮かべる。
「わたくしが思い出したのは、今日だけれど、早く会いたいわね。」
今度の笑みは、冗談を言うような、楽し気な笑みだった。
「あんまり待たせたって言ったらだめだからね?」
「なんで?」
「泣くから。」
「えぇ・・・。」
「本当に。海が荒れる・・・。」
エリュシアが再び遠くに視線を向けたとき、どこからかゴーン、という鐘の音が響いた。
「まあ、会えばわかるでしょ。」
彼女はくるりとヴェーヴに視線を戻す。
「きっと、ラクリマは喜ぶ。だって、ヴェーヴは、あの子が好きそうなタイプだもの!」
「それ、どういう意味!?」
ヴェーヴの悲鳴が響く。
しかし、その答えを聞く前にヴェーヴの意識は暗転した。
これからものんびり投稿していきます!
ちょこちょこ覗きに来てください!




