第107話 下山
第107話です。
楽しんでいってください!
「終わりの鐘を鳴らす者をな。」
アグニ=ゼルの声が響いた瞬間、ヴェーヴは目をぱちりと瞬かせた。
「・・・それ、僕のこと?」
「違う。」
即答。
「今のお前ではない。」
「じゃあ誰?」
「まだいない存在だ。」
ヴェーヴはますます分からなくなって首を傾げる。
「なにそれ、変なの。」
「お前は、まだ詳しく知らなくていい。」
アグニ=ゼルはそう言うと、黒扉へ視線を向けたまま一歩下がった。
その瞬間――ギギッ、と扉がわずかに震える。
しかし、それ以上は開かなかった。
まるで「今はここまで」、そう線を引かれたように。
リリスが小さく息を吐いた。
「・・・今日はここまで、ね。」
「だな。」
アグニ=ゼルもあっさりと同意する。
ヴェーヴは不満そうに黒扉を見つめた。
「えー・・・ここまで来たのに?」
「欲張るな。」
「むー・・・。」
頬を膨らませるヴェーヴの肩にリリスがポン、と手を置いた。
「帰りましょうか。まだ契約したばかりでしょう?」
「はーい・・・。」
ヴェーヴは名残惜しそうな声を上げた。
その時だった。
ヴェーヴの胸元の虹色の光が、ふっと落ち着くように弱まる。
「・・・あれ?」
「安定したな。」
アグニ=ゼルが静かに言う。
「今の衝撃で、遺跡はお前を記録した。」
「記録?」
「そうだ。お前はもう、この場所にとって無関係ではない存在になった。」
リリスの表情が少しだけ引き締まる。
「今は戻れ。」
アグニ=ゼルはそれだけ言うと、踵を返した。
アグニ=ゼルが正面に手をかざすと、炎の扉が目の前に現れた。
それがゆっくりと開く。
黒い部屋に日が差し込み、ヴェーヴは目を細めた。
「外だ!」
「はしゃぐな。」
「だって、遺跡暗かったんだもん!」
ヴェーヴがぴょんっと飛び跳ねるように門を通り抜ける。
リリスは苦笑しながら、アグニ=ゼルは相変わらずの無表情でその後に続いた。
ヴェーヴたちは見覚えのある遺跡の正面に立っていた。
風が穏やかに吹き抜け、3人の髪を揺らす。
ヴェーヴは大きく伸びをした。
「・・・お腹すいた。」
「ふふっ。山を下りたらごはんにしましょうか。」
リリスが笑う。
アグニ=ゼルは静かに彼女らの様子をじっと見つめていた。
3人は歩き出す。
リリスは足場を確認するように、先行して山を下り始めた。
ヴェーヴとアグニ=ゼルが並んで歩く。
「覚えておけ。」
ヴェーヴが振り返る。
アグニ=ゼルは一瞬だけ、こちらを見た。
「鐘は、壊すためのものではない。」
「え?」
しかし、次の瞬間にはもう視線を外している。
「それだけだ。」
目をそらしたその横顔は、どこか憂いを帯びていた。
山を下り、さっそく食事の支度を始めた。
「アグニ=ゼル・・・さん?、は何か食べる?」
ヴェーヴが焚火の準備をしながら背後を振り返る。
「不要だ。」
ヴェーヴはむー、とほおを膨らませる。
「でも、食べないと元気でないよ?」
「精霊は、食事をしなくても生きられる。」
「しなくてもってことは、食べれるんだよね!じゃあ、準備しちゃうね!」
ヴェーヴはにこっと笑みを浮かべ、食材の準備をしているリリスに駆け寄った。
「・・・。」
アグニ=ゼルは無言でその様子を見つめていた。
『まーた、アグニは食べないつもり?』
長い金髪が揺れる。
アグニ=ゼルは静かに彼女の青い瞳を見返した。
『不要だ。』
『みんな食べているのに・・・。』
彼女が振り返った方には、自身と同じ、彼女と契約している精霊たちが楽し気に笑い声をあげて食事をしている。
それでも、食べる、とは言わないアグニ=ゼルを見おろして、女性ははぁ、と息を吐いた。
『わたくしの作ったものが食べられないっていうの!?』
そう言って彼女はグイっと彼の腕をひく。
・・・不要だから食べないだけなのだが。
アグニ=ゼルは無感情に女性を見上げた。
それと同時に目に入ったのは、彼女の瞳と同じ真っ青な空。
『ほら、食べなさい!』
座らされ、渡された食べ物を渋々口に運ぶ。
そんな彼を見て、仲間たちは楽し気な笑い声をあげた。
これからものんびり投稿していきます!
ちょこちょこ覗きに来てください!




