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ステファニーは、ブラッドリーやアイリッシュとまったく話さなくなった。まわりのクラスメイトにケンカをしたのかと尋ねられたが、いつも笑ってごまかした。
アイリッシュやブラッドリーが話しかけようとすると、ステファニーは逃げるようにその場を離れた。それが繰り返されると二人はステファニーに話しかけるのを諦めるようになった。
しかし、二人が話しかけなくても、ステファニーには挨拶をしてくれるようなクラスメイトは何人もいた。だから、ステファニーは最初は寂しさは感じなかった。しかも、自分の友達は、二人だけじゃなかったと思うと少し嬉しかった。
(やっぱり、私は間違ってなかったわ。だって挨拶してくれたり、仲良くしてくれる友達を失わなくて済んだんだもの。)
ステファニーが教室に入るとステファニーの近くの女の子達が何かこそこそ話していた。
「おはようございます、ステファニー様」
「おはようございます。何のお話してましたの?」
「泣き虫ジェニちゃんのことです。」
それは、同じクラスメイトのジェニファーのことだった。
ジェニファーは、青い瞳のおとなしい女の子だった。人と話すのが苦手でいつも目を伏せていた。
「今日も、ジェニちゃんに挨拶しても返ってこないんですのよ。本当に感じが悪い。」
「ジェニちゃんが挨拶するのは、キャロライン様だけじゃないですか。ねくらの癖に私達をばかにしてるんですよ。」
「本当にやな感じですわ。ステファニー様もそう思いません。」
女の子達は、ジェニファーを嫌って悪口ばかり言っていた。
しかし、ステファニーは、昔の自分に似ているジェニファーを他の女の子のように思うことは無かった。むしろ、ジェニファーが人の視線を怖がって挨拶が出来ない気持ちが分かり、その辛さを思うと力になってあげたいと思っていた。しかし、実際にそれを行動に移す事はなかった。しかも、その気持ちを今の友達に話すことは出来なかった。
「ステファニー様、どうしました?」
「いえ、何でもありませんわ。確かにいい印象はありませんわね。」
ステファニーは、違う意見を言うことで仲間外れにされるのではないかと恐れいつも自分の気持ちを隠し相手に同意していた。
「ステファニー様、見て。アイリッシュ様はまた懲りずに挨拶して話しかけてるわ。ほっとけばいいのに。」
アイリッシュは、例え返事が返って来なくても他の人と変わらず笑顔で接していた。まるで昔のステファニーとアイリッシュのようだった。ステファニーは、そんな様子をただ眺めているしか出来なかった。アイリッシュがこっちを向いた時、ステファニーはあわてて目をそらした。
そんなことがあった日は、必ずあの黒い球体の夢を見た。そして、夢の中では女の子が大きくなったと喜んでいた。




