第八説 ご飯
「…これが…レイルーン内部の世界…か」
今までの住んでいた世界とは全く違う、もう一つの世界。初めて目にするその光景に、レイラは立ち止まって周囲を食い入るように観察する。
まず町の規模が桁違いに広い、私が場所の数倍の面積はあるのではないだろうか。人々の溢れかえった様子から人口密度も高そうだ。建築された個々の建物も一つ一つに独特な個性があってそれなりに大きい。
そんな街並みをしばしば観光気分で堪能し、不意に香ばしい匂いが私の嗅覚を刺激する。クンクンと鼻を嗅ぎ、匂いを頼りに歩を進めていく。
匂いのした目的地に到着、其処はやはりというか当たり前というか、食堂と書かれ立てかけられた看板を目にして一息の空気を吐き出す。
「そういえばさっきからお腹が減ったからなぁ…お腹いっぱいになるまで食べたい…美味しいもの食べたい…」
空腹によって一層に研ぎ澄まされた嗅覚は、食欲を満たす為に食という在りかを求め敏感に匂いを拾う。
分かる…私には分かるわ…ッ!! こんがりと香ばしいこの匂いは……お肉…! そう、正真正銘のお肉! 熱した鉄板の上でジュワジュワと溢れ出た油が音を立て、分厚いお肉がしっかりと中に火が通るまで焼かれている…ッ!
レイラは口元にだらしなく垂れたヨダレをじゅるりと吸い上げ拭う。ハッとして首を横に振り、持ってきた手荷物を確認する。
糞爺曰く、トラゼウスから支給された幾らばかりの金貨。それを一枚手に取ると、ジィっと凝視して眉を顰める。貰ったはいいものの、果たしてこの町でもこの金貨は物々交換の役割を担ってくれるのであろうか。
「……まあ、それほど離れ離れな町同士ってわけでもないし、通貨として成り立ってるだろうけど…一応…ね。確認を取ってから食べないと下手をすれば喰い逃げとかになっちゃうし…」
まあ、食べる前にそこの店の店主にでも尋ねれば早いか。何はともあれ極限の空腹によって、お腹が萎んで前と後ろがピッタリとくっついてしまいそうだ。
意識し始めると、もう止まらない。お腹の虫がずっと鳴りっぱなし。ヨダレが口の中に充満していく。
「あぁ~…ご飯…ごはぁんん~…!!」
キラキラと瞳を輝かせ、ヨタヨタと食堂に近づく。扉に手を掛け、ついに開門。
店主と思しき人物が近づいてきたところで、手に持っていた一枚の金貨が使えるかの確認。店主は笑顔で頷いて大丈夫との返答が。レイラもそれに安堵してニッコリ笑顔。となればもはや怖いものは何もない。
「さぁ…お腹いっぱい食べるぞぉお~!!」
冒険を初めてから数日の間の中で、ここ一番にレイラの笑顔が光り輝いた瞬間だった。
意気揚々として、料理はまだかまだかと待ち望む。と、段々と香ばしい匂いが近づいてきた。恐らくは私が頼んだお料理だろう。足音が近づいてきている。あと10歩……5、4、3、2、1…0!!
「お待たせ致しました。此方が本日のおすすめ料理『ギリッフューニのゴロゴロステーキ』でございます」
「はぁい!」
差し出された料理を見つめる。ゴロゴロと分厚くカットされたお肉が黒いソースの中に浸っている。肉の周りを囲うようにして様々な野菜が散りばめられており、真っ白な雪のような米が別皿で出される。もう一つ個別に置かれたものは果物か。
料理は全て出そろった。既に口の中はダムが決壊し続け洪水だ。早く料理を口の中に運び、再びダムを建築させねば。
「ふふ、なんてね…冗談はともあれとっても美味しそう…!」
フォークでお肉を抑える、そしてナイフでお肉の上に置く…と、力を全く込めてもいなかったというのに、乗せただけで簡単に切れてしまった。
「…や、柔らかい…」
一口サイズに切り取ったお肉をフォークに刺し、黒いソースをたっぷり付けると、持ち上げて口の中へと運んでいく。
「それじゃあ、いっただっきまーーー!!」
「ふざけんじゃねぇぞこの野郎!!」
――キィン!!
突如として店内から上がった怒声、それとほぼ同時に何かがレイラの目の前を通り過ぎ、口に運ぼうとしていたフォークが弾かれお肉と共に吹っ飛んだ。
「………」
レイラは無言のまま、顔だけを横に、声のした方向にずらす。するとどうやら少し離れた隣の席で揉め事が起きたらしい。酒に酔った二人の男が何やら言い合いをしている。
とはいえ、私にしては何の関係も無い事である。特に気にも止めず新しいフォークを取り出すと、再び柔らかいお肉を一口大に裂き、最後に口の中へとお肉を運んでいく。
「今度こそ、いっただっきまーーー!!」
「あんだてめぇ!? やるかぁ!?」
――キィン!!
再び何かがレイラの目の前を横切り、口に運ぼうとしていたフォークが弾かれお肉と共に吹っ飛んだ。
「………」
レイラは無言のまま、今度は何が飛んできたのか飛んで行った方向に顔を向ける。するとどうやら飛んできたその物体は酒瓶のようだった。壁にあたった衝撃で瓶は粉々に砕け、中に残っていた酒が床を濡らしている。
あんなものが目の前を剛速球で二度も通り過ぎたのかと思うと、普通はゾっとして背筋を凍らす話ではあるのだが、しかし現時点のレイラからすればそんな事よりも今は空腹を満たす方が一大事であった。
その為、レイラは三度として新しいフォークを取り出し、柔らかい肉を裂き、そして今度は若干隣を気にして横目で確認する。
遂には男二人が取っ組み合いをしてバタンバタンとやかましい…が、テーブルに乗っている物を見たところ先ほどのように物体が飛んでくる事はなさそうだと安堵に胸を撫でおろす。
フォークを一口大に切った肉に刺し、そして口に向かってその手を動かそうとした瞬間。
「やろぉおおおおおお!!!」
「このやろぉおおおお!!!」
――ガッシャァアアアアン!!
「………」
取っ組み合いをしていた二人の男がレイラの居るテーブルに向かってダイブ。当然の如く全ての料理が床に散乱し揉みくちゃに。
………――ッビキィ!!
その様子をしばらく沈黙したまま眺めていたレイラであったが、何かが切れた音を鳴らした。
「あんたらわぁああああああ!!! 私に恨みでもあんのかぁあああああああ!?!?」
怒声を張り上げ、二人の乱闘にレイラも参戦。
「あぁ!? 何だてめぇ!?」
「関係ねー奴は引っ込んでろ!」
「はぁあん!? 先にちょっかい出してきたのはあんたらでしょうがぁあ!!」
「あんだぁ!? ガキが何舐めた口の利き方してやがんだ!?」
「泣かすぞコラ!?」
その言葉にレイラは再び怒声を上げる。
「もう既に泣いてるわぁああ!! 半泣きだわぁあああ!! こっちはお腹減ってるのぉお! 減ってたのぉおお! それをさぁ、なんでさぁ! 邪魔するのかなぁあああ!!!」
「た、たかが料理一品くれーでピーピー喚くんじゃねぇ!」
「し、死にたくなかったら、さっさと退けや!!」
その言葉にレイラは拳を握ると全力でテーブルを叩く。
「もう既に瀕死なんだよ!! 腹が減り過ぎてぇえ!! だから悪いと思うなら少し静かにしてくれるかなぁあ!?」
「う、うるせぇな!ど、何処に町中で腹が減り過ぎて死にそうになる奴がいるんだよ!!」
「あ、ああ! そ、それに俺らに喧嘩売った事を後悔するぞ! なんたって俺とコイツは互いに数字二桁!! 数か月という魔族との闘いの果て、死に物狂いで11Lvという強さを手にしてんだ!!」
そういって、男二人は興奮したレイラを一旦落ち着かせようと、取り押さえる事を試みるも、しかし止められず。
「私わぁああ!! 最初から現時点に至るまで、全力で死に物狂いだわぁああ!!!」
冒険を初めてから数日の間の中で、ここ一番にレイラは悲壮に塗れた顔をした瞬間だった。
アルマ・レイラ LV24( 瀕死 )
種族 : 勇者
スキル
陽炎LV8
効果反転LV11
治癒魔法LV24
異常回復LV20
特殊効果付与(身体強化 スキル強化 属性付与)LV12
危機回避LV24
魔力感知LV5
解明LV極
固有スキル
勇者の加護
能力補正(LV÷スキルLV-スキル+?)
称号 : 最弱の勇者 解き明かし 時を知る者




