第七説 聖塔【レイルーン】
聖塔【レイルーン】
それは数百もの昔、古来より建築され今なお健在の都市。強大、そして一言、率直にいって巨大な壁が通るものその全ての者に立ちふさがる、圧倒的な岩壁。
これまで幾度なく魔物に襲撃されたという文書が残されているが、その全てはまるで絵日記のように他人事。ただありのままを記したのであろうが、何もかもが簡潔にこう言って終わっている。
『今日も異常は無かった』
手抜きと言えば手抜き。率直と言えば率直。ふざけて書いただけだろうと最初は読むもの全てが笑って見せるも、読み進めていくとある者ある者は顔を顰めて文書を投げ出す。
人々は、その理由を後に知る事になった。
彼らが文書を投げ出したのは呆れたのではない、怒ったのではない、それは悪ふざけでも何でもなく、ありのままの事実だったからである。
ある日の事、それは僅か数年前の出来事である。【レイルーン】に巨大な魔族が接近した。その名は【岩竜】と呼ばれる岩のような硬い肌を持つ、巨大なドラゴンだ。
何処までも、目視では延々と縦にも横にも広がる絶壁に、あくまでも予想ではあるが不満か何かを感じたのだろう。突如として目の前の壁に体当たりを行ったという。
証言者は外の警備として巡回を行っていた青年兵士。不意に岩竜の存在に気が付き、咄嗟に傍の林に身を潜めて隠れていた最中に起きた出来事だったと証言している。しばらく岩を見つめ、体当たり。それまでの間に不自然な動作は見られなかったらしい。
話によると、体当たりによる衝撃は凄まじかったとの事だ。近くで身を潜めていた兵士の鼓膜が破れかける程、それでいて衝撃波だけでダメージを負ったと話している。
初めは虚言とされた作り話とされていたが、兵士の証言通りの場所に向かった人々は皆、目の前の光景を目の当たりにして頬を強張らせたという。
その竜は、話で聞いていたよりもとてつもなく巨大だったのだ。軽く大人数百人分の大きさがあるだろう。そして、その竜が何故か死体となって発見された。
何故という死因の謎は未だ明かされていないが、兵士の話を鵜呑みにするのであれば、驚くべきことに岩竜は【レイルーン】の岩壁にぶつかり続けて死んだとされる。
しかし、再び謎が。【レイルーン】の岩壁には傷一つとしてぶつかったような形跡は見られず、かといって青年兵士は当時15Lvとおよそ平均の強さ。とても一人で倒し、ホラを吹けるような所業はできず、その利点も無い事から事実とされた。
尚、そこで発見された死体である岩竜であるが、過去を見ても【レイルーン】付近での目撃例は無く、又、LVが220と過去を見ない異例な数値が判明されたものの、平均LVは40、大きさもこれ程に肥大ではないらしい。
ある学者の証言では、岩竜の肌に一筋の線が一本だけ入っていたとの事だが、当時の現国王、その側近である国内最強とされた勇者【ミリ・ミリウム】のLvは74。到底適うはずもなく、それも一撃で倒せるものなど存在しない事からそもそもLV自体がガセとされた。
死体は既に処分され、結局真相は永久に謎のまま。
しかし、事実であれば【レイルーン】の壁はLV220の怪物にも耐えられる強度があるとされ、最強の守護壁を持つ国と言われている。
「ふんふん、成程、そりゃ凄い」
やっとの思いで辿り着いた初めての記念の国、その名も【レイルーン】の門前へと到着したレイラは、長々と刻まれた看板を見つめ、その隣で意気揚々と語る兵士の言葉を聞き流しながら相槌を打っていた。
「わー、凄かったワー。色々な情報アリガトネー。ってことで、そろそろ中に入れてちょーだい」
一言だけでもいいから大声で言わせて欲しい。なげーーーーよボォゥケェエ!!
「…でよー!さらに凄いのがさー!」
やっと一段落付いたと思ったら、此方の話など一切聞く耳持たずに兵士の自慢スイッチが発動、再び延々とした一方的会話が再開される。
無論、私としてはこれ以上に付き合うつもりはない。さっさとイイネと感想を述べて、パッパと町の中に侵入したいのだ。
「いや、もう分かったって。凄いね。うん。凄い。だから入れて?」
「だろぉ!?ほんとスゲーよな!この話を聞いてさ、俺感極まってよー、こんな偉大な国に生まれて感激だ!」
「アー、ウンウン、感激感激、ナキソー」
もはやヤル気も気力も聞く耳も無い棒読み、そして半眼でただ只管に話を合わせる。
こんな状態を、かれこれ4週目なのだ。ヘトヘトな状態でやっと入口にありついたと思ったら、そっから二時間もの間、この男の会話のお付き合い。
万が一にでも機嫌を損ねて入国禁止にされるのも嫌だったので、出会い頭にコミュニケーションと称した会話を持ちかけたのがいけなかった。
これならいっそ、堂々と門の前を通って入国禁止にされた方が楽だった。
「まだまだあるんだけどさー」
ああ…まだまだあるのね…。
「アアー、ホントスゴイナー、ナキソー」
本当に泣きそうになってきた。
お腹減った、足痛い、お風呂に入りたい。誰かタスケテ。
映らな瞳で空を見つめ、ただ会話という拷問が終わるのも只管待つ。
「…っと、随分と長話しちまったな…悪い。こうも平和過ぎると暇で暇でしょうがなくてな…」
「…あ…はい…それは…良かったデス…」
じゃあもう通っていいよねと、そのまま扉に向かって歩き出すと、兵士が呼び止めてきた。
「あー、待って。それはそうとだけど、えーーー…っと…その…お、お嬢さんはこの【レイルーン】は初めてなんだよね?」
オイゴラァ、何で今そんなに溜めが入った。どっからどーみてもプリティで可愛い女の子だろうがぁ!!
という気持ちが湧き上がるが、ここで切れて入国拒否も嫌なので、頬をぐにぐにと解して笑顔で振り返る。
「はぁ~い。初めて……ダトオモウンデスケド☆」
道を知っていたので、本当に初めてなのかちょっと自信というか、確証がなく言葉を濁す。
「それなら、おすすめの店を教えてあげるよ。いっぱいあるから、一から話すとなると、5時間くらいかか」
「あー、それならいいですこれ以上迷惑はかけられませんからねハハハハハ!!」
最後まで話を聞くことなく、乾いた笑い声を発しながらハキハキと受け答えすると、真っすぐと扉に向かって歩き出す。
「んじゃー、一つだけー。ここの勇者様にあってくるといいよー!とっても優しくて、強くて…むっちゃ可愛い女の子だから!!」
背後から聞こえた、可愛いを強調したハキハキした兵士の言葉に、私は自分の顔が今どうなっているか分からないが、殺意だけはハッキリと覚えながら【レイルーン】へと踏み入れた。
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【レイルーン】北部
中心部から僅かに離れた居酒屋、そこではある乱闘が起きていた。
部外者、野次馬が周りで状況を観戦。一見では酒に溺れて勢いにでも乗っていたのだろう。乱闘によって数人の大男が横たわり、そして荒い息をぜぇはぁと漏らし、冷や汗を浮かべながら拳を構える男の姿が一人。
「て、てめぇ…ッ! ふざけんじゃねぇぞ…!! 俺らが一体全体、お前に何をしたっていうんだよ!?」
もはや酒による酔いは冷めてしまっているのか、怒りを露わにした様子でギラギラと瞼を見開き、自分たちは被害者だと訴えながらガチガチと歯を鳴らす。が、男が瞬きせずに凝視するその先には、年端も行かぬであろう少女が一人佇んでいるだけだ。
周囲からすれば首を傾げてしまうような光景。まるで、その辺に無造作に横たわる大男達は、彼女の手によって撃沈されたと言わんばかりの形相。
「ゥ…ウオオオオオオオ!! くそったれがぁああ!!」
しかし何の間違いか、突如として男は怒声を発し、懐から隠していた短剣を取り出すと少女に向けて斬りかかる。
「…はぁ…さっきからぎゃぁぎゃぁウルサイわよ?」
そういうと、少女はため息交じりにその場から一歩も動くことなく、振りかぶった男の腕を掴んだ。動作はそれ以上もそれ以下もなく。少女は冷ややかな眼差しを斬りかかってきた男に向ける。
「…っが!? く!? こ、この…う、動けねぇ!! な、何しやがったてめぇ!?」
「何って…見ての通りアンタの腕を掴んだだけじゃないの。それ以外に何があるっていうのよ」
少女は呆れた様子でそう述べたのだが、男は信じられないとばかりに声を上げ、納得がいかないのか、それとも逃れようとしているのか。その掴んでくる腕を振りほどこうとクネクネと身体を動かす。
それは周囲から見ても不思議な光景としか思えない。一回りも二回りも体格の違う男に対して面を向かって欠伸を漏らし、少女の腕の二倍、三倍は太いであろう腕を片手で静止ているのだから。
「ふ、ふざけた事いってんじゃねぇぞ…!? こ、この俺様を誰だと思ってやがる!! 魔族討伐ランク実績【B】!最高Lv討伐は【42LV】! この辺では名の知れたハンタ―、『ウィデアム・グレイス』様だぞ!?」
「ラ、ランク【B】って…一体どれだけの魔族を倒したらそうなるんだ…」
「い、いらそれよりもLv42って…冗談だろ…あんなバケモンを一人で倒せるっていうのか…」
「ウ…ウィデアム…だとッ!?」
「生還者0とされた依頼で見事生還してきたと噂の…」
男が叫んだその内容に、野次馬が一斉にざわつく。ヒソヒソと小さい声で会話をするものがチラホラ見られ、微かに耳元へ届く会話は、確かに剛腕として名を馳せているプロハンターのようだ。
「ああそうだ! 俺様が正真正銘のウィデアムだ! 脅威から人々を守る誇り高きハンターだ!! それなのにこの糞ガキ…ッ! 人が気分よく酒を飲んでいたらいきなりウルサイから出ていけなどと食って掛かってきやがって…! どんなせこい手を使っているのか分からねーが、俺様をコケにしたこの落とし前、どうなるかわかってんだろうなぁ!? あぁ!?」
男の正体がウィデアムと分かった途端、周囲に居る野次馬の面々の顔色が真っ青となる。ウィデアムの威圧に誰一人として口を閉ざし、少女から皆、視線を反らした。
見れば、少女は顔を俯かせ、小刻みに肩を震わせている。無理も無い。離れている者たちでさえ怖気づいているのだ、目の前で重圧を掛けられたら、少し気の強い程度では耐えられるはずもない。
「っけ! 今更びびったっておせーんだよ! たっぷりと可愛がってやるから覚悟しや…が……れ?」
だが、ただ一人、少女はむしろそんな発言を高らかに宣言して見せたウィデアムを、まるで傑作だと馬鹿にするように笑えるのを堪えていた。
「ップ」
しかし、それも束の間。これ以上堪え切れずに頬に溜めていた空気を放出。堪えていたものも一気に周囲へと放たれた。
「あーっはっはっはっは!! くく、ひ、ひひ! ぷーー!! く、あ、あは! ケラケラケラ!!」
「な、な、な、な、何笑ってやがる!?」
「ご、ごめ…ごめん…な…さい! い、いや…まさか…そ、そう…確かに…くく、強いわねアンタ…思っていたよりも…ね」
尚も笑いが収まりきらないのか、少女はしばらくの間クスクスと時々小さな笑いを漏らし、お腹が痛いと目じりに溜まった涙を拭きとる。
「じゃあアンタ…LV45とか…そんくらい?」
「あぁん!? LV49だ!」
「へぇ…凄いじゃん。あと1LVで50なのね」
「あ、ああ! そうだ! ビビったか!?」
そういわれ、少女は満足気に頷くと、背伸びして男の顔に軽く握った拳を向ける。
「……? 何の真似だ」
「えっと、ウィデアム…っていったっけ」
ウィデアムの反応に対して何も答えず、少女は不意にウィデアムを名前で呼ぶ。
「…あ? さっきからそういってんだろうが」
「アンタ、私の下に付いて働く気は無い?」
突如として告げられた発言に、ウィデアムは困惑しつつも受け答えする。
「…は、はぁ? 何とち狂った事ほざいてんだてめぇ? 誰がてめぇみてーなちんちくりんなガキの下に付くか、俺は自分より強いと認めた奴の下にしかつかねーんだよ」
「あ、そうなんだ。なら良かった。これから宜しくね? ウィデアム」
その一言を最後に少女はニッコリとほほ笑むと、疑問に眉を顰めていたウィデアムが突如として宙を舞い、大きな音を立てて地面に横たわっていた。
頭部を思い切り鈍器で殴られたような衝撃に、ウィデアムは何が起こったのか理解できず、強烈な脳震盪によって起き上がれないまま震え様に口だけを動かす。
「なぁ、なぁにぃおぉお…し、しぃやがったぁ~??」
「何って、そんなの見てたんだから分かるでしょ?」
そういって、少女はウィデアムのその言葉にクスリと再び微笑む。
「ただの、デコピンよ」
ウィデアム・グレイス LV49
種族 : ハンター
スキル
気合の一撃LV55
身体強化LV30
剛力LV70
ヤケクソLV40
爆斬LV22
投岩LV44
乱撃LV45
固有スキル
ハンターの匠
ハンターのカリスマ
ハンターの意地
称号 : プロハンター カリスマ 筋肉馬鹿 酒乱
少女 LV???
種族 : ???
スキル
???LV???
???LV???
???LV???
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???LV???
???LV???
固有スキル
???
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称号 : ???




