第六説 新たなる舞台
見上げれば、空は青色で広がっていた。雲ひとつ無く晴れ渡る、それは澄み切った蒼が瞳に映り込む。草木が生い茂り、木はゆっくりと成長し、果物は潤った実りを宿し、滴が葉を伝い落ちては地面を潤す。
汚れの無い自然の新鮮な空気がとても美味しい。私は大きな深呼吸を繰り返し、美味しい空気を肺イッパイになるまで吸い込んで満たす。そしてその充実感を十分に堪能したことで、再び前に向かって歩み出した。
すると、そんな私の足取りを後押しするかのように優しいそよ風が辺りにはなびいた。風は木々を揺らし、森周辺は喜ぶように様々な木霊を鳴らす。
私にはハッキリと聞こえる。森の唄が、その声が。瞼を閉じて耳を澄ます。すると木々はそよ風に沿って揺らめき、森は私に行くべき方向を示してくれた。それは偶然か否か、風によって草木はなびき、まるで私が通れるような道が現れた。
人が一人通れるくらいの、それも私が丁度通れるくらいの草根っこの分かれ方。まるで人が日々この道を通るかのような、まさに普段誰かが通ってでもいなければ、これ程までに綺麗な道は築けないような道筋。
信じがたい現象が起きたことで、私は高揚するとともに目を見張ったまま次の行動を戸惑ってしまった。
これは夢なのか、それとも……ううん。これはきっと、神様が与えてくれた道しるべなのだ。
私は晴れやかな気分で前へと進みだす。足取りはとても軽い。十分に熟睡した後のような爽やかな気分。足に取り付けられた枷が外れたかのよう。
ああ…冒険って…なんて素晴らしいのでしょう。
段々と先へ進むごとに、一筋の光が差し込んでくる。
まさかあれは、出口なのか。
私は無我夢中になって光の差す方向へと歩を進めていく。
そして、やっと私は辿り着いた。大きな一歩を踏み出し、ついに目的地に辿りついたのだ。
一度深呼吸をして、瞼を閉じる。ああ、とても長かった。そして辛かった。ここに来るまで、どれだけこの森の中を彷徨ったことか。
意を決して閉じていた瞼を見開く。そして瞳の中に映り込んだ光景に、私は固唾を飲み、そして一言元気よく言い放つ。
「っはいぃ。知ってましたぁ。知ってましたともぉおおおお。そんな都合のいい話ある訳ないよねぇーー!」
まるで誰かさんが意図的に木々へ刻み付けたであろう切り傷を目視。
不思議だね、その誰かさんが容易に分かる、というか心当たりがある、ていうよりも本人が目の当たりにしているのだから当然よね。
あっはっはー。と私は思わず乾いた笑い声を漏らす。
遭難三日目、私は冒険初日に辿り着いた地点へと戻ってきていた。
「いやー、まさか三日も彷徨って、未だにスタートラインにすら立てていないなんて…驚きだわほんと」
これが方向音痴の性か。そりゃそうよね。だって一度たりとも町の外に出たことが無かったんですもの。迷うに決まっている。むしろ道に迷わないでこんな密林の中をスラスラと通れる方がおかしいのよ。
それにまだ、ほんのちょっと。ギリギリ道に迷っちゃったかな?程度で済むはず。
まだね、遭難とかそういう類にまでは至ってないはず。うん、大丈夫まだ頑張れる、もう少しだけ頑張るのよ私。
とりあえずカッツポーズを作り、気合を入れる素振りをしてみる。あくまでも素振り身振りの話だけだけどね。
「…しかしすっごいわね、ここまで冒険って難易度高いものだったのね…舐めてた、油断していたわ…」
あれから何匹の魔物を刈ったことか。もはや恐れることなかれと大分調子に乗って倒した気がする。
ただ、何事にも侮るなかれっていうけど、まさに今、成程と全力で納得して頷ける自信がある。いくらでも首を縦に振って上げれるわ。
だってまさにその通りだから。ある程度なら大丈夫だと思って高をくくっていたし、その証拠にこれだ。手荷物身軽で、食糧無し。
ある程度までなら自給自足できるけど、そろそろ普通の食事にありつけたい。
もうね、今更だけど冷静に考えて、いや考えなくてもわかるくらいに馬鹿。途方も無く愚かだわ。用意に越したことは無かったのよ。なのに何で持ってこなかったのかなー。不思議だわー。
いくら身軽とはいっても、何で食べるものくらいは用意しとかなかったかなぁ~。
でも、逆に手荷物が多いと持ち運びが面倒だから仕方がなかったのよね。疲れちゃうし、しょうがなかったのよね。
うん、しょうがなかった。悔い改めた。二度と同じ過ちは繰り返さない。これでよし、何事もポジティブにいくのよ私、
なんだかんだいって凌げているのだから、人間やればどうにでもなるという証明になっているし、これはこれでアリだと考えればあんまり苦には………なるけど大丈夫な気がしないでもないような気がするだけなんだけどね実際。
「さて…帰るか…」
冒険も堪能できたことだし、もう帰ってもいいよね。
んで再び読書を満喫しよう。なんかトラゼウスの引く付いた顔が目に浮かぶけど、ばれなければ問題ないだろうし。
「っても、その帰り道がどっちだかも分からなくなっちゃったんだけどねー」
はぁああああああああ~~。
なんか冒険してからため息ばっかりついている気がするわ。
「このため息もうんざりするし、そろそろこの迷路の糸口を探らないと駄目そうね~」
何時まで経っても森の中を彷徨うとか、魔物でもあるまいし。
そろそろおいしい食事にありつけたい、お風呂に入って汗だくになった身体を洗い流したい。ふかふかなベッドの上で安眠したい。
そう、今の私には休息が必要なのだ。
「この鴉魔とかいう剣で、一直線にひたすら道しるべを作るというのも手だけど…」
そういって、鴉魔に手を掛ける。
一応はある程度の道しるべを作ってしまっているし、再び魔物に襲われて場所を移動することがあれば、何がどの印なのか判断できなくなって、多分無意味に近い。むしろ余計にややこしくなりそう。
「うん…じゃあどうしろっていう話よね…」
始まりは終わりなき遭難。誰か迷子のお知らせでもして探しにきてくれないかな。
なんともやるせない気分になって、額に手のひらを付くと再び深い溜息を漏らす。
「…日没になる前には、今日こそここを旅立ちたいところだけど……ん?」
そこまで言って、違和感を覚えた。
周辺が、一瞬にして音が止んだ、ように感じた。
いや、感じている。無音、それでいて、何もかもが空虚な程に動きを止めている。
「…え?え?何これ?え?」
あまりに唐突過ぎる現象に困惑する。何の前触れも無しに時が止まったような錯覚に陥ったのだから無理もない。
「異常状態にでもかかった…?でも魔物なんて何処にも…」
居なかった。じゃあ、この現象は一体何?
何の問題も無いのに、自分以外の時が止まる?それで終わり?……なるはずがない。
「とりあえずやばそうなのは分かったけど…どうすればいいのこれ…」
鴉魔を手に掛けて構えるも、それ以外に何も変化は起こらない。
襲ってくる気配もなければ、視野で確認できる限り魔物もいない。
「…ッつぅ!? い、痛い…!? …頭の中に…何かが…ッ!!」
鋭い痛みが走り、脳裏に何かが一斉に流れ込んでくる。
見たことの無い光景、知らない人物、何時も一緒に旅をする……黒い男の人。
目の前が激しくぶれる。
「…これ…は…? 何がどうなって…!」
何時の光景だろう、流れ込む記憶の中で、以前私はこの場を彷徨っていた。
確かに私はこの森で数日の間彷徨ったが、この記憶とは何か違う。
もっと怯えていて、それに、持っている剣も鴉魔ではなく、何処にでもあるような…普通の鋼の剣だ。
「嘘…どうして…!? ここに来るのは初めてなはずよ…!」
初めて、そう、初めてなはず。だって、もう数年とすら屋敷の中に籠っていたも同然だったのだから。
それに、レベルだって初期のままだった。だから、この記憶はありえない。あるはずがない。
なのに、この流れ込んでくる景色は、世界は一体何!?
「ぁ…ぅう! や、止めて…! 頭が…ッ!」
痛みに耐えかねて鴉魔から手を放す。額を抑え、落ち着かせようと一度座り込む。
「っはぁ…っはぁ…! ッ……はぁ…は…ぁ……ふぅ…」
すると頭痛が止む。流れ込む記憶が遮断される。
どうしてか分からない、何でかは分からない。
「……この…剣が…鴉魔が見せた…とでもいうの…?」
鴉魔を手にしてから、この現象が急に起こった。今までは何とも無かったのに、ついさっき手を掛けた時から異変が起きた。
それも、咄嗟に手放した途端に、この不可思議な現象が止んだ。
「……い、いや…考えすぎ…よね…」
そういいつつも、恐る恐る落とした鴉魔に指先を近づける。
何度か突くが、先ほどのような現象は無い。
「……ッ! ……や、やっぱ…思い過し…だよね…」
意を決して柄を掴んだが、やはり変化は無い。
何だ……と、緊張を解くよう肺に溜まった息を大きく吐き出す。
「…ま、幻…そ、そうよ、これはきっと、幻か何か…昨日、ちょっと緑色のブツブツした、若干怪しいキノコでも食ったからよ、それに違いないわ」
とはいっても、グロテスクな見た目とは裏腹に濃厚な蜜の味がして美味しかったし…。『解明』で調べてみた時も、人体には特に有害な影響は無いと判断されたはずだったけど…。
「ま、まあ…何事も起きずに済んだことだし…再びこの場をどうやって切り抜けるか考えないと…」
そこまでいって、おかしな事に気が付く。
「…あ…れ? この道を真っすぐ通れば…次の町に…辿りつけ…る…?」
道がハッキリと分かる。見えるのではなくて、まるで通ったことがあるかのように、何処を通ればこの森を出れるのか覚えている。
「あ、あは? お、おっかしーなぁ…? え、だ、だって…さっきまで何処が何処だか分からなくて…だから三日間も彷徨ったはずなのに…」
まさか、そんなはずはないと頬を引きつらす。
「いやいや…て、適当に想像した幻想…よ…」
そういいながら、冗談半分でその記憶に従ってみる。
草木を掻き分けて歩を進める毎に、何故か草木一本すら変わらない記憶通りの光景が見えてくる。
歩く足取りが段々と早くなる。
道が不安定で足場が悪いというのに、何処でこけてしまうかも分かるからか、足元を意識せずとも前だけ見て駆け出す。
「…っはぁ…っはぁ!」
それから数十分立たずに、疑心に溢れた足取りがいつの間にか確信へと変わっていた。
周辺には目もくれず、ただただ真っすぐを見つめて。光の差す方向へと進み、最後に見えた茂みを掻き分ける。
そこから見えた光景に私は絶句した。
「…………」
まだ私からは程遠い場所に、ハッキリとした巨大な壁が立ち並んでいる。
「はは……本当に…あった…」
ここから歩いてあと数時間は要するかもしれないが、それでも遠くから一目見ただけでも分かる。その聳えたつ物体の巨大さだけでも、私が住んでいた【イステリア】を遥かに凌駕した町が。
「……ここが…」
来た事も無い。見たことも無い。それなのに知っている。
「……聖塔…【レイルーン】」
無意識に口から零れ落ちた、私の知らない地名。
腰に掛けた鴉魔に視線を落とし、苦笑いを浮かべる。
「……どうやら…私が思っている以上に面白い冒険になりそうね」
そういって、私は【レイルーン】へと向かって再び歩を進め始めた。
アルマ・レイラ LV12
種族 : 勇者
スキル
陽炎LV1
効果反転LV2
治癒魔法LV8
異常回復LV10
特殊効果付与(身体強化 スキル強化 属性付与)LV5
危機回避LV12
解明LV極
固有スキル
勇者の加護
能力補正(LV÷スキルLV-スキル+?)
称号 : 最弱の勇者 解き明かし 時を知る者




