第5章 巨大ロボがあったら、警察はどうする?
巨大ロボットが本当に社会に普及したら、どうなるだろう。
建設現場や港湾作業、危険な場所での作業にまで使われるようになれば、当然それを犯罪に使う人間も出てくる。
だったら警察側にも、それに対応できる装備が必要になる。
こうして考えていくと、『機動警察パトレイバー』の発想はものすごく分かりやすい。
この世界では、人型の作業機械「レイバー」が社会に普及している。
レイバーそのものは、正義のヒーローが乗るために作られた特別なロボットではない。基本的には仕事をするための機械である。
工事現場にも企業にもあり、街の中でも使われている。
だから事故も起きるし、犯罪にも使われる。
そこで警察にもレイバーが配備される。
これだけ聞くと、本当に単純な話だ。
でも、それまでの巨大ロボット作品と比べると、かなり変わった発想だったと思う。
巨大ロボットが存在する理由を「敵と戦うため」から逆算していない。
先に社会があり、そこへ大型作業機械が普及し、その結果として犯罪が起きた。
だから警察用の機体が必要になった。
順番が逆なのだ。
もちろん、巨大ロボットが格好いいからロボット作品になっているわけで、最初から現実の警察行政だけを真面目に考えて生まれたわけではないだろう。
(この辺の実際の企画意図まで言い切ると、俺が勝手に話を作ることになるのでやめておく)
ただ、作品の見せ方としては「巨大ロボットがいる社会」を先に成立させている。
俺はここが面白い。
警察用レイバーのイングラムも、世界を救うための唯一無二のスーパーロボットではない。
警視庁の装備である。
つまり、税金で買われた機械だ。
となれば、当然それを動かす組織があり、整備する人間がいて、輸送する車両も必要になる。
出動する時には道路を使い、壊れれば修理しなければならない。予算だって無限ではないし、パイロットが勝手に好き放題やっていいわけでもない。
巨大ロボットが警察組織の一部になった瞬間、それまでロボットアニメでは背景になりがちだった部分が、急に物語へ入り込んでくる。
たとえば「ロボットはどうやって現場まで行くんだ?」という、ごく当たり前の問題まで出てくる。
普通のロボットアニメなら、基地から発進して現場へ飛んでいけばいい。
でも警察用の大型機械なら、そう簡単でもない。
移動にも手間がかかるし、現場へ着くまでに時間もかかる。街中で動かせば周囲への被害も考えなければならない。
戦って敵を倒せば終わり、というわけにもいかない。
犯人は逮捕しなければならないし、壊した物があれば後始末も残る。
考えてみれば当たり前のことばかりだが、巨大ロボットものでは、その「当たり前」をわざわざ描かないことの方が多かった。
なぜなら、巨大ロボットの魅力はそこではなかったからだ。
格好よく出撃し、敵と戦い、勝つ。
まず、それを見せる。
『パトレイバー』は、その周りにあった「普通なら省略する部分」を面白さに変えてしまった。
警察という組織や上司と部下、予算、整備、訓練、出動、交通、市民、報道。
巨大ロボットそのものより、巨大ロボットがあることで変わった日常を描いている。
これは第2章で触れた『魔女の宅急便』にも少し似ている。
空を飛べるなら荷物を運べる。
巨大な人型機械があるなら工事に使える。
工事に使われるほど普及すれば犯罪にも使われる。
犯罪に使われるなら、警察も対策する。
異能や架空技術を一つ置いて、そこから社会がどう変わるかを順番に考えていく。
そうすると、ただの設定だったものが生活になっていく。
ここまで来ると、ロボットそのものに現実味があるかどうかは、あまり重要ではなくなる。
人型巨大ロボットという存在自体は、かなり嘘っぽい。
でも、それが普及した社会の反応には妙なリアリティがある。
だから見ている側も、「こんな世界があったら、本当にこうなるかもしれない」と感じる。
今回考えているリアリティは、やっぱりこの辺にある気がする。
現実に存在するかどうかではない。
嘘を一つ置いたあと、その嘘に周囲の世界がちゃんと反応しているかどうかだ。
『パトレイバー』は、その「じゃあ社会はどうする?」を作品そのものにした。
そして、この発想は今見るとかなり現代的でもある。
ダンジョンがあるなら探索者制度ができる。魔法があるなら仕事になる。特殊能力者がいるなら、それを管理する組織ができる。怪物が出るなら、それに対応する専門部隊が作られる。
こういう発想自体は最近生まれたものではない。
『パトレイバー』のような作品は、かなり前からそれをやっていた。
だから「昔は社会のことなんて考えず、最近になってリアルになった」と言ってしまうと、やっぱり雑すぎる。
昔から、そこを面白がる作品はあった。
ただ、昔はそれ自体が作品の個性になっていたものが、今ではかなり普通の発想として広がっているように見える。
そして、巨大ロボットよりさらに厄介なものを社会に置いてみると、この話はもっと大きくなる。
怪獣だ。




