横道④ でも全部説明したら、話が進まない
ここまで、「昔なら省略していたところを、今はちゃんと描くようになった」という話をしてきた。
では、気になるところを全部説明すれば、作品はもっと良くなるのか。
たぶん、そんなに簡単ではない。
俺はWeb小説をかなり読むけれど、読んでいてよく思うことがある。
「そこ、そんなに説明しなくていいから早く進んでくれ」
設定を丁寧に作り、世界観も考え、能力の仕組みや主人公の考えまできちんと書いてある。
作者としては、読者に「ここはちゃんと考えています」と伝えたいのだと思う。その気持ちは分かるし、設定が雑で「なんでそうなるんだ」と引っ掛かる作品を読んだ直後なら、ちゃんと説明してくれる方がありがたい。
でも、それが続くと今度は別の問題が出てくる。
話が進まない。
新しい能力を覚えれば、その原理や使い方、制限まで説明し、本人がどう理解したのかを描いて、さらに実際に試してみる。そこで失敗すれば、もう一度理屈を整理する。
丁寧ではある。
ただ、それが何話も続くと、俺は途中で「分かったから、そろそろ次に行こう」と思ってしまう。
もちろん、能力の仕組みそのものを楽しむ作品なら、それでいい。魔法体系を考えることが面白さの中心になっている作品もあるし、戦闘でそのルールが重要になるなら、きちんと説明しておかないと後で困る。
問題は、説明が物語を支えるためのものなのか、説明すること自体が目的になっているのか、読んでいて分からなくなってくる時だ。
これは能力だけではない。
町へ向かう道中を描き、宿を探し、料金を確認し、部屋へ入り、飯を食い、翌日の準備をして、装備まで確認する。
主人公が実際にやっていることではある。
でも、その全部を同じ密度で描く必要があるかと言われると、俺はそうは思わない。
「三日後、目的の町へ着いた」
それでいいこともある。
以前読んだ作品で、アルバムを作るとかライブをするとか、普通なら準備だけで何話も使えそうな出来事を、かなり大胆に飛ばしていくものがあった。
作中では一か月、二か月と経っている。でも、その間の細かい準備を全部見せるわけではない。
必要なところだけ描いて、次の大きな出来事へ進む。
俺はそれがものすごく読みやすかった。
逆に、設定やストーリー自体はかなり好きなのに、移動や修行や説明を一つずつ丁寧に描きすぎて、読むのがしんどくなった作品もある。
ここが難しい。
説明不足だと「なんで?」となるし、説明しすぎると「まだ?」となる。
読者とは面倒なものである。当然、俺も含まれる。
ただ、これは単なる読者のわがままでもないと思う。
物語には、詳しく見たいところと、飛ばしてほしいところがある。そこを見極めるのも、作品を作る技術の一つなのだと思う。
第4章では、設定を細かく説明するほど、その設定が作者自身の約束になるという話をした。
ここでは、もう一つ別の問題がある。
単純に、全部説明していたら話が進まない。
たとえばダンジョンが存在する現代日本を描くとして、法律を全部説明しなくてもいい。
探索者が受付で身分証を見せ、素材買取所があり、救急隊が待機していて、配信に関する注意書きが貼ってある。
そんな場面を少し見せるだけで、「この社会なりの仕組みがあるんだな」と分かる。
一から十まで説明する必要はない。
読者に想像できる材料だけ渡して、残りは任せることもできる。
『魔女の宅急便』で、魔女に関する法律を全部説明しなくても世界が成立していたのと同じだ。
『ルリドラゴン』なら、ドラゴンの生態を百科事典みたいに説明する必要はない。
ルリが学校でどう過ごすのかが分かればいい。
『パトレイバー』なら、レイバーに関する法律を条文まで全部読む必要はない。
警察がどう運用しているかを見せればいい。
『シン・ゴジラ』だって、日本の行政制度を教科書のように解説しているわけではない。必要な場面で必要な手続きが見えるから、それらしく感じる。
つまり、現代作品の上手さは「どれだけリアルにしたか」ではなく、**どこを説明して、どこを飛ばしたか**にあるのかもしれない。
俺はWeb小説を読んでいて、説明不足に文句を言う。その数話後には「説明長いよ」と文句を言う。
我ながら勝手なものだと思う。
でも、その両方を感じるからこそ、今回の結論も少し見えてきた。
読者が欲しいのは、何もかも説明された世界ではない。
「ここは気になる」という場所だけ、ちゃんと納得させてほしい。それ以外は、思い切って飛ばしてくれていい。
リアリティとは、説明の量ではない。
どこに説明を置くか。
そして、どこで堂々と嘘をつくか。
最後は、そこへ戻ってくる。




