神殿と魔法
「こんにちは。神官、いらっしゃいますか?」
神殿の扉を開け、中を覗く。
この町の建物はゴルトオーク製が多い。つまり木造だ。しかし、神殿には結構石材が使われている。様式美というか、統一感というか、要するに何処でも同じ建物を作りたいのだろう。
そして、神殿は常に万人に開かれている。そういう建前だ。信心深い人は、毎週開かれるお祈りや季節の祭事に来ているようだが、ウチはそれほど熱心ではないので、まず来ることはない。お祭りのときに冷やかすくらいだ。
「こんにちは。お祈りですか?」
神官のヨアキムが中央の祭壇の前にいた。白を基調とした神官服に身を包んだ、細身の中年男性だ。いつも微笑んでいる印象があるが、そういう奴ほど何を考えているのかわからない、というのが前世での経験則だ。『ミオ』は特に悪い印象を持っていないようだったが、こういう奴は前世でも神殿や宮廷でごまんと見た。警戒しておくに越したことはない。
祭壇の左右には、それぞれ四体の神像が並んでいる。以前の世界とは若干意匠が異なっているが、大きくは変わらない。向かって左側が光の神々、右側が闇の神々だ。最も祭壇に近いのが光の神ルーメナウスと、闇の神ノクスニゲラ。
……その節は、お世話になりました。今後ともよろしくお願いいたします。
神々のあの感じだと、本格的に祈りを捧げられるのは嫌がるだろう。挨拶くらいが丁度いい。
祭壇に向かって心の中で祈りを捧げ、ヨアキムに向き直る。
「お祈りは終わったので、神官に聞きたいことがあるのですが」
「早いですね。お祈りの作法は覚えていますか?」
「あ、いえ、大丈夫です。心の中に神々はいらっしゃいますから」
「覚えていないのですね……言っていることは的を射ているのですが……」
残念な子を見る目でヨアキムが見つめてくる。私は端から信仰などどうでもいい。神々も『人々の信仰に違和感がある』と言っていたのだから問題ない。
「形はいいんです。それより、魔法について教えていただきたいのですが」
「魔法ですか? 魔法は、領都の魔法学院でないと修められませんよ」
ヨアキムが聞き分けの無い子を諭すように、建前を口にする。田舎とはいえ、この町は流通の拠点でもある。その程度の情報は、子供でも知っている。
「ええ。ですが、民間でも使える方はいますよね? 神官も確か使えたかと。基礎的な部分で良いので、何か資料でもないかと思いまして」
「確かに私は使えます。学院で学びましたからね」
こいつ、学院出なのか。神官で魔法を使えるのは珍しいとは思っていたが……正規の教育まで受けているとはな。確か、領都の神殿から派遣されて来ていたはずだから、領都の富裕層出身じゃないかとは思っていた。魔法を習った後で、教会に転向したのかもしれない。
「使える方が民間にもいるのは、使える親戚などに教わっているからです。私の立場では、そういった正道ではない覚え方を推奨することはできません。ですので、私から直接お教えすることはできないのですが……」
そこで言葉を切ると、少し考えてヨアキムは小声で教えてくれる。
「とはいえ、基礎に関しては、学院に入る人たちも事前に習得してきます。そして、この神殿の資料室は、一般に公開されています。もちろん貴重な資料ですから持ち出しはできませんし、使用中は監視が付きます」
……資料室? 監視の有無はどうでもいいが、魔法の資料はあるのか?
「その中に、魔法の基礎を記したものがあります。基礎だけですし、教授してくれる人もいませんから自力で読み解かなければなりませんが」
おお、それならいけるか。私が知りたいのは、まさしくその基礎なのだ。
「資料室を使わせていただいて良いですか? その、監視というのは……」
「……そうですね……任せて良いですか?」
一瞬だけ意外そうな顔をして、近くにいた別の若い神官にヨアキムが話しかけている。彼が案内してくれるのか?
「行きましょうか」
そのまま振り返って、ヨアキムが歩き出す。
「よろしくお願いします」
お前かよ。若い神官の方に祭壇を任せるのか。優先順位がおかしくないか?
ヨアキムに案内された資料室は、祭壇の奥、右手の方にあった。闇の神々の神像の裏にあたる。しっかりと施錠されていて、公開しているという割に厳重に管理しているようだ。
中は、広くはないが、綺麗に整頓され使いやすくなっていた。木の板や、紙を束ねたもの、羊皮紙で書かれた巻物もあるが、本も数点並んでいる。本はこちらの世界でも貴重品だろう。これなら確かに監視を付けなければならない。
「どうぞ。私はここにいますね」
ヨアキムは入り口の脇にあったスツールに腰掛ける。監視人用だろう。ヨアキムには、私に教えようという気はないらしい。資料を読むだけならかまわないということだろう。
「ありがとうございます。……これかな?」
とりあえず、近くにあるものに目を通す。この町の歴史を記したものや、この辺りの地図、周辺の植生に関する資料、近年の収穫に関する資料まである。目的のものは、やはり本だろうか。本が並ぶ一角に向かい、一冊を手に取る。
これは……聖典の写し、かな。こっちは……お、それっぽい。
表紙には、『魔法の~~~~について』と書かれている。一部読めない単語があるが、これで間違いなさそうだ。資料室の椅子を借りて、頁を開く。
うん、これだな。図解されている。これなら単語も内容から推測できる。
前世の知識と照らし合わせながら読み進めていく。前の世界と文法は変わらないし、単語も似ている。マリーが勉強した資料でそれはわかっていたので、推測も簡単だ。
「……読めるのですか?」
ヨアキムが話しかけてきた。なんとも不思議そうな顔をしている。
「まあ、ある程度。図解もされていますから、意味は分かりますよ」
「貴女、お歳は?」
「女性の歳を聞きますか」
「これは、失礼しました。……いえ、その、貴女くらいの歳の子がそれを読み解けるとは思わなかったもので」
こいつ……読めないと高を括っていたか。だから自分が付いてきたのか。こっちの方が面白そうだとか思っていたな、多分。
「読めない部分もあります。ですが、そもそもが基礎なので、概要が掴めれば十分かと」
「それはそうですが……元々魔法を知っていましたか?」
「在るということを知っている、という程度です。使えはしませんよ」
ヨアキムは腑に落ちないという顔をしているが、こんなのにかまっている場合ではない。持ち出せないのだから、できる限り覚えるのだ。
ふむ……やはり、基本属性は八つか。あっちに無かったのは……うん。神々が言っていたとおりだな。この世界には属性の歪みがない、ということは、『命』属性を直接生み出すのは無理だ。八つの属性を融合していった先にあるのだろう。無かった属性を考えれば、自ずと答えは出る。難易度はともかく、道筋は見えるな。八つか……色々やれそうだ。早速試してみないとな……
「そろそろいいですか? 昼になりますよ」
本に没頭していると、ヨアキムが肩を叩いた。結構時間が経ったみたいだ。おかげで、この本はだいたい読めた。ついでに、単語をかなり習得できた。
「ああ、もうそんな時間でしたか。ありがとうございました。有意義な時間でした」
「貴女は……いえ、何でもありません。また必要ならいらっしゃい。神殿は、万人に開かれています」
うん、知ってる。形式どおりの言葉だ。
「この本はだいたい読めました。また相談があったら来ますね」
「貴女に神々の祝福があらんことを。今度は正しいお祈りをお教えしますね」
それはお断りします。声に出さずに笑顔だけで返し、神殿を後にする。
広場に出ていた露店で野菜を仕入れ、家に戻る。週に一回の市以外にも、少ないが新鮮な野菜を露店で売っていることがある。露店が出ていなければ、宿屋の隣にある食料品店で買えばいい。顔見知りなので、町人価格で売ってくれる。
家に着くと、すでにアベルやマリーも戻っていた。
アベルは、自宅に併設している工房で仕事をしている。刃物を専門に扱う鍛冶師だが、柄には木を使うので、木工も得意なようだ。
マリーは友達と遊んできたらしい。その友達も、私がいないことに驚いていたそうだ。我がことながら、恥ずかしいやら居たたまれないやら。
「ヴィムもね、驚いてたよ。今日はゆっくりできるって。少し手加減した方がいいんじゃない?」
ヴィムは、『ミオ』が毎日のように引きずり回している友人だ。昨日も、ハンスとの試合の審判を強引にさせられていた。誰も見向きもしていなかったが。
「そうね、そうする。昨日のアレはちょっと酷かったわね……」
「何を他人事みたいに。ミオがさせてたんじゃない」
今度会ったら謝っておくか。誰か審判が必要だからと言って、剣術に興味のないヴィムに押し付けたのはまずかった。審判なんかできないってわかっているのに。形式上いてくれれば良かったのだが、真面目にやろうとしていた。さすがに申し訳ないことをしたな……
ヴィムはあまり体を動かすことが得意ではないが、かくれんぼの時など、どこに誰が隠れているか推察するのが恐ろしく上手い。友達連中の行動分析や心理を読むのに長けている。頭脳労働専門な感じだ。今となっては興味深い。
「お昼からはどうするの? 遊びに行く?」
「そうね、ちょっと森に行こうかな。そろそろ季節の変わる時期じゃない?」
夏が近づいている。今くらいだと、春の終わりに採れる山菜から、夏のものに変わってきているはずだ。ゴルトオークの植林地域は、林業に携わる者以外はあまり近づいてはいけないが、それ以外の場所は問題ない。猟師は森の奥で猟をするから、町に近い方なら誰でも入って山菜を採っていいことになっている。
「森か……あたしはこの間行ってきたからいいかな。美味しそうなのあったら採ってきてね」
「うん。任せて」
『ミオ』は山菜採りも上手かった。山菜がまるで浮かび上がっているかのように見えるのだ。秋なら茸や木の実も旨い。森は大好きだ。
そして、森は身を隠すにはうってつけだ。何箇所か目立たない場所の目星は付く。そこで魔法の実験をしようと考えている。以前は使えなかった属性が使えるはずだ。
昼食を終えて、皆それぞれの仕事や遊びに戻っていく。
「それじゃ、行ってくるね」
「暗くならないうちに帰ってくるのよ」
「はーい」
適当に返事をして家を出る。本当に頑健な体だ。多少出かけたところで全く疲労感がない。床に臥せっていた頃が懐かしい。
私は、町の北西にある森に向けて走っていった。
――うん。この辺りでいいかな。
薬師のフィンが営む薬屋を過ぎ、いくつも並んだ炭焼き小屋を横目に、森へと入っていく。鬱蒼と茂る森の中に、ちょっとした広場のような空間がある。周囲からは木々が隠してくれていて、程よく開けている。倒木などで偶然広場のようになったのだろうが、こういった場所がいくつかある。森に入ってからここに来るまで誰にも会わなかったし、周囲に人の気配もない。
「念のため、と」
簡単な魔法陣を木の枝で地面に描く。ちょっとした認識阻害の術だ。広場の四方に描いておけば、この空間を気に留める者はいないだろう。出来上がった魔法陣に魔力を注いでおく。
「さて、やるか」
ひとまず、以前も使えた属性を出してみる。『土』、『水』、『火』、『風』。手の上に、それぞれの素因が浮かんでくる。小さな球体のようなそれらは、手の上でそれぞれに渦巻いている。
ここまでは、ただの確認。生み出した四つの素因を脇にどけ、集中力を高める。午前中に読んだ本を参考に、想像を膨らませていく。魔法は、想像力の産物だ。想像できないものは無いも同じ。それが『在る』のだと思い込む。そうすれば……手の上に、先ほどと似たような四つの素因が浮かび上がる。
「よし、いけた」
『光』と『闇』、『木』と『金』の素因だ。『光』と『闇』は、白い光と黒い霧のようなもの。実際に神々に出会ったことで感触が掴めていた。『木』は、木の枝が絡まりあうようなもの。森の中だけに出しやすい。『金』は、金属の塊のようなもの。これも、鍛冶屋という実家が功を奏した。どれも想像しやすい。様々なものに感謝を捧げ、感嘆のため息をつく。
「……うん、大丈夫。八つ全部同時に出せるね」
ちゃんと八つの属性がある。本当に、あった。神々と関係があるのではと思い、神学を学んではみたものの、神官たちは胡散臭いし好機の目で見てくるし。結局、属性は作れないしで散々だった。まあ、他のことで役には立ったから、学んだ甲斐はあったが。
あとは、これの組み合わせだ。前世での知識を頼りに、いくつかの組み合わせを試してみる。組み合わせて融合させることで、違った属性に変化するのだ。その組み合わせも、相性が良かったり悪かったりするので、色々試してみないと分からない。
『火』と『風』を手の上に移動させ、近づけていく。この組み合わせは相性がいい。以前の世界でもできたものだ。
ある程度近づいたところで、お互いから魔力が流れ出し、中間点で混ざり合っていく。素因の全てが混ざり……僅かに光って、変化を終える。
よし、大丈夫。以前と同じ『熱』だ。同じ要領で、以前にもできた組み合わせを試していく。……全部問題なくできる。ここまでは同じ法則だ。
今度は、前世では無かった四属性を絡めた組み合わせを試していく。
……ああ、『木』と『金』は相性が悪いか。近づけると、反発して霧散してしまった。しかし、『命』は『光』と『闇』、『木』と『金』の四つを融合させたもののはず。前世ではそれが無かったのだから。『光』と『闇』も上手くいかない。これ、どうしてたんだ?
『命』という属性を直接作り出せるようにした魔術士を、神々は『才覚は素晴らしい』と言っていた。結構な難易度だ、ということだろう。望むところだ。必要となる属性は分かっているのだから、条件を変えて試してみるだけ。
以前もできた組み合わせは、同じように融合させることができた。ならば、何らかの方法があるということだ。あるいは法則、か。基本属性が揃ったことで、何となく規則性が見えてくる。地面にメモを取りながら、色々と試していく。
「『水』と『火』、『風』と『土』は相性が悪い。これは分かっていた。さらに『木』と『金』も。神々のことを考えれば、『光』に属するのは、『火』と『風』、『金』。『闇』は『土』、『水』、『木』。相性がいいのは……」
私は前世で独り言がとにかく多かった。声に出した方が考えがまとまりやすいのだ。
「うん。まとまってきた。『光』と『闇』はやっぱり別枠だね。他の属性と組み合わせても性質が変化しない。融合させた属性の強化と弱化に特化してる。それ以外の六属性で一定の法則がある感じ。二つの組み合わせはこんなとこかな。三つは……同系統しかない? いや、相性の悪くない組み合わせはある、か。う~ん」
――がさっ
不意に、微かな物音と何かの気配。……集中し過ぎたか。舌打ちをしながら、周囲を警戒する。いつでも攻撃できるように、『風』の素因を生み出しておく。
「……ミオ。ミオじゃないのか? そこにいるの」
「――ヴィム」
警戒を解く。『風』の素因も空中に霧散していく。そこにいたのは、昨日審判を押し付けた友人だ。少し赤っぽい茶の髪、薄い赤の瞳。
どうやってここを見つけたのか。認識阻害の魔法陣はそのまま機能している。
「どうしてここに? 午後からはゆっくりしているんじゃなかったの?」
マリーがそんなことを言っていた気がする。
「いや、俺がゆっくりするっていったら森だよ。家は騒がしいし、町中は……だいたいミオに連れまわされるじゃないか」
「……そうだったね」
私が原因の一端を担っていた。ヴィムの日常には、平穏がもっと必要なようだ。
「森で歩いてたら、遠くにミオが見えたから。ミオ、山菜採り上手いだろ? いっぱいあるところに行くのかなって。そしたら、いきなりいなくなったから、慌てて捜してたんだ。見つけたと思ったら……ミオ、さっきの、魔法か?」
見られてたか。多分、魔法陣を発動させた時に見失ったんだろう。あれはそんなに強い効果じゃない。そこに誰かがいると分かっていたら、突破するのも難しくはない。加えて、私は魔法の実験に夢中だった。物音がするまで全く気配に気づかなかった。新しく使えるようになった属性があるとはいえ……まだまだ未熟だ。
「……見られてたのなら、仕方ないね。そう、魔法だよ。基礎の魔法だけど、それで色々実験してたんだ」
「やっぱり……何時から使えたんだ? 遊んでる時は使ってなかったよな?」
「うん。さっき使えるようになった、ってのが正しいかな。午前中に神殿に行ってね、魔法に関する基礎の本を読ませてもらったんだよ。それを練習しに森に来たんだけど……」
見つかってしまった。どうするか。別に悪いことではないのだが……面倒だな。ヴィムの反応によっては、夢だったと思ってもらうしかないか。
「そっか……あれ? ミオ、文字読めたっけ?」
「読めるように勉強したの。魔法に興味が出てきたから、どうにかできないかなって。確か神官が魔法使えたから、神殿に何か資料があるんじゃないかと思ってね。資料読むなら、文字は読めないとでしょ?」
「それは……いつものことだけど、何かやるときの集中力は凄いな」
それが裏目に出た。実験に集中しすぎたな……
前世でもそうだったけれど、ミオもそういう性格になっていた。目覚めていなかったが、何か影響があったのかもしれない。
「ミオ、俺にも魔法、使えるかな」
「興味あるの? これって、教えていいのかな」
民間での口伝伝承は、ヨアキムは良い顔をしていなかった。基礎は教えてもよさそうな感じではあったが、民間伝承の時にも何か決まりがあるのかもしれない。
「私は、誰でも読んでいい本を見てそれをやってみただけだから、特に問題にはならないと思うけど、それを教えていいかどうかは……」
「じゃあ、その本を読んだら俺にもできるかな?」
それは無理だ。全くの初心者では、自分の中の魔力『オド』を動かすところからやらなければならない。想像力以前の問題だ。感覚的にオドが在るということを掴むのが最初の難関なのだ。
「うーん……難しいと思うよ。私の場合は、本を読む前に自分の魔力を自覚できたからやれたんだし。ヴィム、自分の中の魔力って分かる?」
「自分の中? よく分からないな……ミオはどうやったんだ?」
「遊んでる時になんとなく、としか。感覚的なことなんだよね。わかる人はわかると思うんだけど」
嘘ではない。感覚的に自力でオドを感じ取れる人はいる。極めて珍しいが。そして、前世の私はそんな珍しい存在だった。特段何かの才があったわけではなかったが、基礎的な部分は器用だったのだ。
「それじゃあ、使える人に聞いてみるよ。教えて問題ないかどうか。確かテオさんが使える人だから、魔法を教わった時に何か決まり事があったか聞いてみるね」
「ありがとう、ミオ! 魔法って、教わる機会が全くないから……」
ヴィムが私の手を掴んで振り回す。普段は大人しい印象の彼にはない勢いだ。ちゃんと子供らしい動きができるじゃないか。
「いいから、手を放して。あまり期待はしないでおいてね。教えちゃいけないってなる可能性もあるから」
「それでもいいよ。今まできっかけも何もなかったんだから」
ヴィムが納得したところで、私も家に帰ることにする。地面に書いた覚え書きを消して、ささっと山菜を採って帰り支度をする。
あそこまでまとめられれば、あとは自宅で紙にでも書きつけておけばいい。
家族にも魔法の事を教えておくか。隠していても、いつかはばれる。なら最初から正直に話しておいた方がいい。私は研究がしたいのだ。家で隠れてなんて、できるものではない。
「ヴィム、帰るよ」
「うん。今日は大漁だな」
ヴィムが山菜を山盛り持って、ホクホクだ。特殊能力なんじゃないか、この山菜見つけるの。本当に茂みの中とかに浮かんで見える。
晩春の味覚に涎が出そうになりながら森を後にする。森を出ると、日が傾いてきているのが分かった。夕日に赤く照らされる町に、ヴィムと二人で帰って行く。
魔法、教えられればいいんだけどな――




