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7-7 逃亡撃

 追い詰められた状況から脱却するために、あろうことか仲間であるはずの幸助を人質に取り、取引を持ち掛けたラン。

 だが今しがた仲間を撃退され、何も出来なかった転移者達にとっては、ランのこの行動は火に油を注ぐ行為に他ならなかった。


「貴様!」

「化けの皮が剝がれたか!」

「魔物に与する裏切り者が!」


 兵士だけにのみならず、転移者達も次々とランを睨みつける。殺気が一斉に自分に集中するのを感じ取ったランは、頃合いとみて口を開いた。


「脅しに屈せず、攻撃的な意識ばかりだな。面倒な事になる前にトンズラするか」


 ランは兵士が間合いに入った途端、空いていた片手にいつの間にか持っていたカプセルを放り投げる。

 直後、広間全体を真っ白な煙幕が包み込んだ。投げたカプセルの正体は煙玉だったのだ。


「メッセージは伝えた。こっちは頼むぞ」

「メッセージ? それって……オイ、ラン!」


 幸助がランが小声で伝えて来た言葉に疑問を浮かべて質問しようとするも、既にランは幸助の元から離れ、周りが目をくらましている間に犬耳の少女の近くにまで来ていた。

 ランはここでまた小声になり、少女にだけ聞こえる台詞を口にする。


「貴方!」

「もう一回逃がしてやる。その代わり俺の脱出を手伝え」


 ランは少女の傍の兵士を的確に気絶させ、彼女の手錠にブレスレットを変形させた鍵を嵌め、解放した。


「手錠が!」

「お前、名前は?」

「『ニタン』!」

「よしニタン。煙玉の攪乱はすぐに終わる。急ぐぞ」


 ランの指示に従い、少女ことニタンは彼の後ろについて広間を後にした。ファムは煙を吸って咳き込みつつも、すぐに呼吸を整えて指示を出す。


「すぐに将星ランを追ってください! 捕らえることが出来なければ、その場で始末を!」


 兵士達と怒りが収まらない転移者達はファムの指示を聞き入れ、煙が晴れて来た広間を次々に移動してランとニタンを追いかけていった。

 ファムも兵士の一人によって避難させられ、ものの一分ほどで広間には幸助が一人取り残されてしまった。


「ランの奴、一体何を……」


 幸助は、ランが何を考えているのか理解が追い付かずに立ち往生していた。


 一方のラン。ニタン一人を引き連れているにもかかわらず、その足取りは実に滑らかなものだった。

 音を聞き分けて人が集まり切れていない道を選択することはもちろん、時に周辺の装飾すらも足場や手掴みに使い、猿の様に城の中を縦横無尽に動いていた。


「凄い、よくこんな道なき道を」


 後ろでついてきながら感心するニタンに対し、ランは動きを止めないままに事情を口にした。


「こういう城の中を勝手に動き回んのは、ガキの頃からやってたからな。最も、その時の城はここより色々ハイテクだったが」

「ハイテク?」

「こっちの話だ、今は逃げることに集中しろ」


 ランは話を切り上げて城を抜け出ようと進んでいたが、流石にそう都合良く事は進んでくれない。二人がしばらく進んで開けた所に出ると、そこにはばらけていた転移者の姿があった。


「いたぞ!」

「裏切り者!」

「やっぱそう上手くはいかないか」


 今まさに攻撃を放ってこようとしてくる転移者達に、ランは飛び降りながら武器を構えた。着地と同時に戦闘に入るかに思われた。

 だがランが床に着地したその時、転移者達は横から飛んで来た光線らしきものを受けてしまい、吹き飛ばされてしまった。


「な!」

「これは、俺の……」


 転移者は何かに驚いた様子を浮かべるも、言葉にし切る前に 


「マジか」

「この人達、どうして倒れて」


 続けて着地したニタンと共に驚くラン。しかし彼の目はすぐに前方方向に定まると、二人が口を開くよりも先に向こうから声が聞こえて来た。


「やっぱりここに現れた。先回りして正解だったな」


 姿を見せたのは、以前ランと幸助と共に、サラガが生成した転移で城に帰った仲間であるあの青年だ。前回と違い、彼の手には鞭のようなものが握られている。

 ランは一度見て以降一切姿を見せなかった青年が突然現れた事に、驚き以上に警戒が強まった。


「どういうつもりだ? これは明らかな俺への手助け、あの王女にとっちゃ裏切り行為だぞ」


 ランからの質問に、青年は小さな微笑みを崩さずに回答する。


「手助けは当然だ。俺はお前と一緒に、ここから出るために来たからな」

「何だと?」


 疑問に更なる疑問が重なるラン。青年はランの調子を何となく察しつつ話を続ける。


「俺はお前の仲間になりに来た。その方が良いと出たからな」

「出たって何だよ。大体お前、何者だ?」


 ランの質問に対し、青年は初めて自分が自己紹介をしていない事に気が付いた。


「そういえば名前も名乗っていなかったな。『平塚(ひらつか) 博也(ひろや)』、占い師だ」

「占い師? さっき()()って言ってのは、占いの結果か」

「そう、お前と同じだ将星ラン。俺も、勇者じゃないのにこの世界に転移させられた異分子だ」


 博也と名乗った青年の自己紹介に、嘘か真実化はさておいてとりあえずの納得が浮かぶラン。


「なるほどな。自分が異分子とバレて、最悪俺のようになる前にトンズラをこきたいと。だがそれなら一人で逃げたらいいものを、わざわざ俺について来る理由は何だ?」

「そこまで深い理由はない。言っただろう、その方が良いと出た」

「占いの事か? まさか、お前の占いは絶対当たるなんてベタな事言うんじゃないだろうな?」


 ランの続いての問いかけに、博也はおもむろにマッチ箱を取り出し、中のマッチ一本に火を付けた。燃える炎をじっと見ている博也に、待ってはいられないとランとニタンは彼を追い抜いて駆け出した。

 博也はそんな二人を目で追う事はなかったが、ランに対し口ずさんでいた。


「この後、お前は城の兵士と戦闘する事になる。数は三人、最もお前の相手にはならないようだがな」


 随分と具体的な台詞。ランはまさかと思いつつも聞き流し、足を急がせた。

 そして走り出して数分後、二人は物陰の先にいる兵士の姿を発見した。


「あんな所に見張りが!」

「ここを通らなければ城は抜けられない。手早く潰すしかないか」


 ランは足音を消して近付くと、甲冑の隙間を縫って兵士の首筋を打ち込み、気絶させた。

 それで終われば事は楽だったのだが、甲冑の兵士を倒れさせた際にはどうしても音が鳴ってしまう。この音に、近くにいた近くにいた別の兵士二人がこれに気付いて近付いて来た。


「何事だ?」

「まさか、裏切り者があそこに!」

「自分が行く。お前は仲間に報告を」


 兵士の一人が現場の調査。もう一人が仲間に知らせようと場所を移動しようとする。訓練された兵士という事もあり、その動きは転移者達よりも的確なものがあった。

 最も聴力の良いランがこれに気付かない訳がない。ローブ内に忍ばせていた麻酔針を飛ばし、的確に睨視の肌に命中、昏倒させた。


「兵士が三人。これ、さっきの人が言っていた通り……」


 兵士が倒れた事で物陰から姿を現したニタンが博也の占い通りになっている現状に驚いている中、ランは


(他に付近に音はしない。いや、こっちに近付いてくる足音が一つ。コイツは……)


 ランは警戒はしつつも、やって来ている人物が誰なのかを察していた。


「どうだ。これで少しは信用してくれるか?」


 姿を見せたのは、先程別れたはずの博也だ。


「どうしてここに来れた?」

「ここに来る。そう占いに出ていた」


 普通ならば何の根拠も感じないが、さっきの状況を的確に言い当てた事は事実。偶然にしても情報が詳細過ぎる。


「俺と一緒にいた方が、余計な騒動に遭わないと思うんだが、一緒に動いてはくれないのか?」


 博也の占いに根拠なんてない。だがこのランがファムから逃げ出したこの短時間で、博也がここまでの転移者や兵士達と組んで配置したとはより考えづらかった。

 なにより、これ以上博也に付きまとわれ、余計な警戒をするよりはましだと判断した。


「分かった。お前も一緒でいい」


 半ば諦めのような態度で溜め息交じりにランが許可を出すと、博也は口角を上げて再びマッチに火を付けてじっと見た。


「この先の道は俺が案内する。上手くいけば、兵士や転移者達とエンカウントすることはもうないだろう」

「占いの結果が良ければな。ま、あまり期待しないでおく」






博也は手を差し伸べて来た。


「よろしく頼む」


 ランは向けて来た手を握り、渋々ながら握手を交わした。すると博也の目が大きく開き、一瞬だけ固まった。


「どうした?」

「……」

「また占いか?」

「ん? あぁ……」


 ランから再び声をかけられたことで我に返った博也。手を放しつつもランの質問の内容を理解し、自分の中で勝手に納得して口角を上げた。


「意図的に起こすこともあれば、突然頭に浮かんでくるときもあるんだ。ピンチの時にはこれが役に立つ」

「ほお、それで何と出たんだ?」


 ランからの興味本位の問いかけに、博也は一度間を置いて印象付けるように口にした。


「この後、お前は俺達と共に無事この国を抜け出せる。その先で、新たな出会いがあるだろう」

「新たな出会い、か……良い事だといいが」


 その後の逃走は、博也の加入によってかなり円滑に進んでいった。曲がり角や分かれ道に来る度に彼が率先して占いをし始め、それを全て的中させていったためだ。


 博也の占いの仕方は様々だ。出会った時はマッチに火を付けるというある意味如何にもと言ったような占い方法をしていた。

 しかし途中から段々と雑になり、今ではもはやそこいらで拾った棒を使った棒占いを行っていた。それでも全て当てるのだから恐ろしい。


「これはこれで完全にチートだろ。隠していたのは何か事情があるのか?」


 走りながらふと質問をして来るランに、博也は上がっていた口角を下げ、少しテンションが下がったように答えて来た。


「あると言えばあるか……この国みたいな連中に、使い潰されたくないだけだ」


 脇に見えた博也の顔に、ランは何か抱えているものを感じさせた。だが抱えているものがあるのはお互い様、余計な詮索は避けようと、ランはこれ以上問い詰めることはしなかった。


 そうこうしている間に、ニタンを含めた三人は城はおろか、町の人にすら見つかることなく国問に到着。そのまま国外にまで脱出してしまったのだった。

 終わってしまえば呆気なさ過ぎる逃亡撃。少女はほっとしているようだったが、ランは拍子抜けな部分を感じていた。


「こうも簡単に抜け出せちまうとはな。何人かとばとって蹴散らす構えだったってのに」

「顔と違って荒っぽい思考をしているな」

「ガキの頃からの癖だ。基本周りが敵に見える。ま、そんなことはどうでもいいとして、これからどうするかだ」


 ランの指摘は最もだ。国から逃げ切れたとはいえ、こ子から何処に行けばいいのか宛がなかったのだ。

 もちろん野宿も視野に入れていたランだったが、そこにニタンが手を上げて声を出した。


「あの!」

「ん?」

「よかったら、私の行く場所に一緒に行きませんか?」


 博也が口に新たな出会い。占いの内容はまたしてもすぐ当たりそうになっていた。

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