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7-6 チートでない異分子

 突如として現れた転移者達を次々と撃退した強敵の存在。この世界に来て初めての撤退を余儀なくされた一行。

 名目上は殿を務めたランと幸助は、回収したミノティラ達のカプセルを片付けつつ話をしていた。


「咄嗟だったが上手くいったな」

「ヒトテツ達を魔物に見立てて恐怖心を煽るなんてね。良く咄嗟にあんなことを思いつくよ、一歩間違えたら攻撃されてただろ」

「混乱しているところに、目に見えるデカいものを出せば人はそこに注目する。元々ビビってるタイミングに目の前でピンチになれば、大概の奴は戦意を失いだろう」

「やり口が悪役のそれじゃねえか」


 幸助がランの説明したやり口に微妙な顔を浮かべてしまう。一方のランは、過ぎた事に関する話はここまでとばかりに話を切り替えて来た。


「問題はこれからだ。ここまで負けなしのチート連中が一方的に撃退されていった。この事態は逃げ切れた連中の心に重く圧し掛かるだろうよ。もう戦えるかどうか」

「そんなに? いくらなんでもそこまでは酷くないんじゃ」


 幸助の反論にランの告げ口が入った。


「お前は今まで何度か負けた経験があるからな。それがあるのとないのじゃ、精神面の強さが段違いだ。

 体は無事でも、メンタルはズタボロだろうよ」


 広間に戻ってきてすぐ、ランが言っていたことが現実に起こっていた。

 静まり返った思い空気。先に戻っていた転移者達は皆顔を俯かせ、一言もしゃべらなかった。


(昨日までは転移者達で盛り上がっていたのに……ランが言っていた通り、精神的には相当参っているって事なのか……)


 声をかけようにも、今の彼等に何と言えばいいのか言葉が思いつかない幸助。そんな彼を引き連れて広間を後にしようとしたランだったが、足を進めるよりも先に広間全体に響く声が耳に入って来た。


「皆さん!」


 聞こえて来た声の正体はファムのものだった。ランや幸助は注目するも、他の面々は顔を上げないままだ。ファムはまず礼儀良く頭を下げ、お悔やみの念を伝えた。


「まずは先の戦い、多数の方々が撃退されてしまった事態をお悔やみ申し上げます。あの方々の無念の思い、私も皆さん同様、心から感じております」


 ファムは頭を上げると、優しげな表情を決意めいたものに変えて話題を変えた。


「彼等の思いを無駄にしない。だからこそこの場で伝えたい事があります!」

「伝えたい事?」


 ファムは印象付かせるためか少し間を置き、視線を一人の人物に集中させて怒りの混ざった声を出した。


「将星ラン。貴方の裏切りについて!」


 ファムから突き付けられた言葉。途端に広間に武器を構えた兵士達が、示し合わせたような動きで出現し、ランの周辺を取り囲んだ。他の転移者達が見ている中、ファムが怒声のまま説明した。


「ランさん。貴方には、城に捕えていた魔物を、故意に国外へと脱走させた容疑がかけられております」


 裏切りの内容に対し、ランの表情にこそ変化はなかったが、すぐ傍にいる幸助の方は目を丸くしていた。


(それって、まさかこの前の!)


 幸助が頭に仮説を思い浮かべていると、ランの方からファムに問い掛けていた。


「何の話だ? そもそも城に魔物がいるってこと自体初耳だぞ。魔物を恐れている国が、なんでそんなもん捕えてんだ?」


 困惑を装いつつも、下手に自分の無実を強調せず話の話題をすり替えようとするラン。ファムはランの質問に対し、まずは素直に説明した。


「確かに、我々は人を襲う魔物の存在がお恐ろしいです。だからこそ、その討伐の手掛かりとなる情報は貴重。そのため、数体の魔物を情報を吐かせるため、城に捕えております」

「魔物が、本当に……」


 ファムの説明に反応する何人かの転移者達。ファムは彼等に再び頭を下げ、謝罪した。


「お伝えしていなかったことを謝罪します。お優しい皆さまが知れば、その場所へ行くかもしれない。黙っておりました。

 魔物は邪悪です。牢で貴方方と会えば、言葉巧みに貴方方を騙し、脱走することもあったかもしれない。そうなれば、何人の被害が出るか分からないのです」


 ファムの言葉から、彼女が人民はもちろん、転移者達が被害を受けることも心配している様子が見て取れた。転移者達はこれに優しさを感じ、文句を言う者はいなかった。

 場が再び静かになった広間で、ファムはランが誤魔化そうとした話を円滑な流れで戻していった。


「だからこそ、捕えている魔物は決して逃がしてはならないのです。その行為を故意にするなど、まさしく裏切りの証!」

「証だと? 確証もない癖に証もくそもあるか」

「確証ならあります!」


 ランの強気な姿勢に、ファムは反論を告げつつ横に視線を向ける。彼女のアイコンタクトを受けた兵士は一度広間の外にまで移動し、何かを引き連れて再び現れた。


 ランは表情にはあまり出なかったものの、内心ではかなり驚かされた。

 兵士が壇上に連れて来たのは、ランが王都から逃がしたあの少女。それも鎖で身体を拘束されている姿だった。


「誰だあれ? 拘束されてる」

「犬耳? もしかして、魔物なのか!」

「じゃあ、逃げ出した魔物っていうのが、あれか?」


 転移者達が困惑して互いに噂し始める。幸助が連れてこられた少女が何者かを察していると、ファムの方から説明が入った。


「皆様のお察しの通り、この魔物こそが、魔物の情報を引き出すために捕え、脱走した個体です。

 王都外で敵襲の警戒をしている兵士が発見し、再拘束しました」


 ファムは転移者達の異能力を看破した水晶を手に持ち、少女の前に近付く。


「この水晶は、皆様の名前や能力を立体的に映し出す。その能力を応用することで、ごく一部ながら相手の記憶を映し出すことも出来ます。さあ、貴方の記憶を見せなさい」


 抵抗する少女にファムは水晶を近づけると、水晶は眩く光り輝き、上空にモニターが出現。少女の視点から見た景色が映っていた。

 そこには兵士を襲撃し、彼女の王都外への脱出を手助けするランの姿が映し出されていた。


「これで、ハッキリとしましたね」


 壇上から睨みつけて来るファム。兵士たちはもちろん、転移者達もランに睨み始めた。


「アイツ、マジだったのか!」

「女にほだされたのかよ」

「魔物を倒す勇者がこれって」

「待て皆、アイツは」


 幸助がランに悪いイメージを浮かばせていく周囲の人達に、幸助は一人反対の声を挙げるも、周りの声にかき消されてしまう。

 ランも大多数の目線に覆すのは難しいと考えつつ、ファムに問いかけた。


「誤魔化しは通じずか……それで、俺はどうなるんだ?」


 ファムはランの動じていない態度が癪に障ったのか、より眉にしわを寄せて言いつけた。


「魔物への協力、確実な王都への裏切り行為。転移者にこんな方が出るだなんて、誠に残念です」

「そんな!」


 ランよりも先に、幸助の方が大きく目を広げて反応した。ランはこの判決に目を細め、脅しとばかりの台詞を吐いた。


「ほお、そんなことを言われて、はいそうですかと言うとでも? 俺にだってここに呼び出された奴らと同じくチート能力があるんだ。

 なんならここで大暴れして城をぶっ壊すことだって」

「貴方に、そのような能力はないのは分かっております」


 ファムが突き付けた返事に、ランの眉が少し動く。


「魔物が襲来する直前。貴方は水晶にほんの微かながら手をかざしていました。その時点で水晶は魔力に反応するはずです。

 しかし貴方に対し水晶は全く光りませんでした。貴方が魔力を持っていない、異分子である証明です」


 ランの正体が露見され、周辺にもう一度動揺が走った。


「アイツ、能力なかったのか!?」

「何でそんな奴がここに?」


 ファムは周辺に始まった流れをより激しくするかのように、更に言葉を続けた。


「貴方はこの場へ召喚された際、幸助様のすぐ隣に現れた。

 つまり貴方は、幸助様の召還に巻き込まれる形でここに来ただけの人物。魔王を倒した経験もないはぐれ者。元々この場にいるべき人物ではないのです!」


 八割がた本当の事を当てた推理に、ランは下手な返答を封じられる。ここでここで自分が魔王を倒したなどと言っても、そう簡単には信じてもらえないだろう。

 だが幸助の方は違う。彼はこの場で一番憤り、広間一帯に聞こえる程の大声を叫んだ。


「待ってください! 俺のいた世界では魔王は、ランが!」

「あ~ああ! バレちまったか!」


 幸助の台詞の途中で、ランが彼以上の大声を被せて来た。転移者達への自己紹介の時といい、ランはとにかく自分が魔王を討伐したことを隠したいらしい。

 幸助が台詞を止められた中、ランは突然素直な台詞を吐いた。


「ラン?」

「これはもう言い逃れは出来ねえな」


 ランの折れた様子を見た周辺の兵士の内の二人が近づき、彼の両腕を拘束する。ランはここでファムに問い掛けた。


「極刑ってのは、いつどこで行われるんだ?」


 ランのそこまで動じていない様子に反省をしていないと感じるファムは、少し圧をかける威勢で返答した。


「もちろん、刑はこの後速やかに執行します。衛兵の皆さん、この男に正義の裁きを!」


 兵士達はファムの指示を受けて早速ランに刃を向ける。仲間を失った転移者達も皆かレニ対し敵意の籠った目つきを向け、ほとんど四面楚歌となっていた。


「待ってください!」


 迫る兵士達に対し、幸助が周囲の空気に負ける事はなく、ランの前に出て彼を庇った。


「ランは俺と一緒に旅をして、共に戦った仲間です。本当にランを罰するっていうのなら、俺が貴方達が相手でも戦う!」


 戦いの姿勢を構える幸助。ランは目の前の彼の姿を見て、彼にだけ聞こえる声で呟いた。


「全く……切り捨てるくらい判断に入れろよ……」

「え?」


 幸助がランの声に反応した直後、ランは突然幸助の首元にブレスレットを変形させた剣の刃を突き付けた。


「えぇっ!? ちょ、ラン!」

「馬鹿は単純で助かる。親しき仲だって、そいつがどんな部屋で寝てるのかもほぼ知らないんだ。俺の腹の黒さを見誤ったな」


 ランの突発的な裏切り行為。幸助が驚く中、他の面々はランが悪であることを深く認識した。


「こいつ、自分の仲間を人質に!」

「やっぱり魔物とグルだったのか! 自分がチートじゃないからって、こんな事!」

「ギャアギャアうるせぇ。こいつの首切られたくなかったら、俺をこの国から開放しろ!」


 最早ランは悪びれもせずに人質による脅しをし、完全に転移者の面々を敵に回したのだった。

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