表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

242/245

7-5 負けるはずがないのに……

 現場に行っても当の魔物がいないという事態に、肩透かしのまま帰ることになった転移者一行。ランはその中に紛れ込みつつ幸助と合流しようとしていた。

 幸いな事に探し人はすぐに見つかった。大荷物を両手に抱え息を切らした様子だったが。


「おう、これまた随分な大荷物だな。大丈夫か?」

「人をあの中に置き去りにしといて、最初の台詞がそれかよ!」


 幸助はまず謝罪して欲しいとツッコミを入れたが、次に自分の状況を説明した。


「これは、あそこにいた人達から貰ったんだ。国を救ってくれた本のお礼だって」

「へえ、随分気前がいいもんだな」

「俺だって遠慮したけど、押し付けられちゃって」

「まあ、お前の状況は分かった。次は俺の番だな。その前にいったん移動するぞ」


 二人は人目に付かない場所にまで移動し、大荷物を片付けてから情報を共有した。


「魔物の少女を助けた! 何してんのお前!?」

「ま、正義の勇者様はそう言う反応するわな」


 ランが事の顛末を詳細に説明すると、幸助の驚きは落ち着いた。


「なるほどな。城で働かされていた奴隷の可能性があると。でもそんなの、今まで俺達見た事がないぞ」

「そりゃ隠すだろ。特にお前みたいなお人好しに話してみろ、即刻強大な反対勢力の出来上がりだ。魔物の敵対が本当だとして、更に敵をを増やしかねない真似出来るか?」


 ランの説明に納得がいく幸助。同時に彼は、一つランに相談した。


「でもそれって、その子の他にも奴隷がいるはずだよな。最悪魔物の襲来が、仲間を助けるためだって事も考えられるんじゃ」

「かもな。あくまで予想の一つでしかないが」


 ランは早合点しかねない幸助に、あくまで仮説でしかない事を強調する。幸助もこれを受けて、冷静な思考を意識した。


「しかしラン、お前こそ相当突飛な行動に出たんじゃないのか?」

「突飛?」

「いくら事情があるとはいえ、この世界で敵対している魔物を逃がしたなんてこと……城の人にバレたら大事になるんじゃ」

「気持ちで動くお前じゃあるまいし。周りに人がいない事は常に確認した。ボロはない」


 ハッキリと言ってのけたラン。いつもならこれをそのまま受け入れる幸助だが、どうにも今回のランの言葉には少し嫌な予感を感じていた。


 その翌日、またしても王都圏内に侵略を仕掛けて来たとの知らせを聞きつけ、転移者一行はまたしても同じ現場に向かっていた。


「また同じところかよ。このところ数か所あるのをグルグル回ってないか?」

「散々責められてて、襲う人間もいないってのにな。連中にとって攻めやすい場所なのか、あるいは」

「あるいは?」

「その場所に目的の何かがあるかだ」


 ランの仮説に幸助は納得するも、同時に今回も先んじて出動した転移者達が既に倒して戦いが終わる。心の何処かでそう思っていた。

 二人が乗っている馬車が現場付近に到着し、幸助が先んじて馬車を降りて駆け出していく。一方のランは、妙な静けさを優れた耳に感じ取った。


(現場に到着したってのに、随分と静かだな?)


 ランが一歩遅れて馬車から降りると、彼は目の前の光景に目を丸くした。急いで駆け出して詳細に見えてきたのは、先走んで向かって行った転移者の半分以上が、何者かによって既に撃退されている様子だった。


「こいつは……」


 近くで見てみると、身体のほどんどが欠損した人物もいれば、五体満足のまま、魂だけ抜かれたかのように倒れている者、逆に全身が残っていても、泡を吹いて苦しんだ痕跡の人物もいた。


「何だ、この惨状?」


 ランは同か所で起こるにはあまりにも異様な風景に驚きつつも、理性で抑え込んで冷静に頭を回した。すると近くで座り込んで震えているサラガの姿を発見した。

 すぐに近づくと、サラガは衝撃のあまり目の焦点が定まっていないようにも見えた。

 

「何なんだよ……なんであんな!? 俺達、皆チートじゃなかったのかよ」

「何があった? おい!」

「う、うるさい!」


 問いかけるランに、気が動転したサラガは突き飛ばした。体制からしてまともな会話は無理と判断したランは、百聞は一見に如かずと現場を見に行くことにした。


 一方、仲間がやられた事態に怒りを浮かべて先んじて現場に走った幸助は、残っている転移者達が事態を飲み込めず、慌てて倒れた仲間に駆け寄っている情景を見た。

 彼等の圧倒的な実力を知っている幸助としては、何がどうなればこのような状況になるのか理解が追い付かなかった。


(全員チートスペックのはずなのに、こんな事……一体何が?)


 事態を聞こうにも他の面々は事態の混乱に飲まれ、何も聞けない様子だった。

 せめて何か分からないかと視線を集中した幸助。すると正面奥に見えたのは、これまでの巨大な魔物とは違う、複数の人間と同じシルエットだった。明らかに他の面々と違い、動揺していない。


「アイツ等が、これを?」


 幸助はもちろん、同じく怒りを浮かべていた青年達が同じ人達に意識を集中させ、飛び出した。

 近づいた先にいたのは、同じ黒いフードを被った複数人の人間。背格好はバラバラだが、微かに見えた顔の肌から幸助達とそう年齢は変わらなさそうだ。


 だが相手が何者かなんて今の転移者達にはどうでもよかった。短い期間とはいえ、共に暮らし仲良くして来た人達を殺された怒りが大きく勝っていたのだ。


 いの一番に出てった面々は武器や技の構えを準備し、先手必勝で敵グループを纏めて攻撃を仕掛けようとする。

 だがここで集団の中央にいた人物がフードに隠れている片目を少しの覗かせて彼等の姿を捉え、瞳を一瞬紫色に光らせた。

 すると転移者達は突然動きが止まり、魂が抜けてしまったかのように全員倒れてしまった。


「何が起こった!?」

「クソ、正面がダメなら!」


 正面の人物の謎の能力を警戒した別の転移者複数は、左右にばらけて挟み込む形をとった。先に左側の

青年の一人が両手を前に出し、技を放とうとする。


「喰らえ! 俺の……あれ?」


 その青年は次の瞬間に違和感を感じた。自分は技を出す意識を持っているはずなのに、火も光も手からは発生しなかったのだ。


「どうして? なんで技が!」


 その青年の近くにいた複数人、別々の技ではあるものの結果は同じだった。戸惑う彼等に、一人のフードを被った人物が近づき、右手を軽く上げて唱えた。

 

「<付与術(ふよ術) 麻痺(まひ)>」


 直後、青年達は身体が石にでも変えられたかのように全く動けなくなってしまった。


(動けない? なんで)


 心境ではより酷く動揺する青年達。するとフードの人物は上げた片手をそのままに唱えた。


「<付与術 猛毒(もうどく)>」


 唱えられら直後、青年達は腹の色が汚染されたかのように汚い色に変化していき、そのまま泡を吹いて倒れていった。


 同時刻、右側でも敵に攻撃を仕掛け、こちらでは先頭の人物がフードの一人を捉えていた。


(この相手、丸腰か? でもなんでああも堂々と……)


 すると、そのフードの人物はいつの間にか両手に銃を構え、目にも止まらぬ早撃ちで目のあえの転移者達を攻撃して来た。

 その弾丸の威力は破格であり、転移者達の防御を突き抜けて貫通していった。


「馬鹿な……」

「俺の身体は、頑丈なのに……」


 ここまで魔物を一網打尽にして来た転移者達が、軽々と撃退されていく。この異常な事態に、幸助は驚く以上に怒りを覚え、策もないままに前に向かう脚が進んでいた。

 だが幸助は会敵するよりも先に突然後頭部を鷲掴みにされ、そのまま地面に転倒させられた。


「アガッ!」


 幸助はこんな事をするのが誰なのかをすぐに察し、後ろに首を回して苛立ち気味に声をかけた。


「何するんだ、ラン!」


 幸助が目にしたランはしゃがみ込んで態勢を低くしており、視線も真っ直ぐ遠くを観察しているように見えた。


「例のごとく猪突猛進すると思った。足を速めて正解だったな」

「放せ! アイツ等倒さないと、皆が!」

「お前と同格のやつをあっさり倒す連中だぞ。馬鹿正直に突撃して勝てるか。少しは観察しろ」

「けど!」


 ランの説教を受けても尚幸助は身体を起き上がらせようとし、いよいよ力押しで頭上がったかに見えたその時、ランの鋭い聴覚は引っかかる音を拾い上げていた。


「何だ?」

「何だって何?」

「後方から聞こえてくる……足音? それも大量の?」


 ランは何かに気付いた様子で幸助の身体を引き上げると、そのまま引っ張りながら後ろに下がり始めた。


「おいおい何なんだよ!?」

「軍勢が来てる、今までの比じゃないレベルだ。この混乱時に数攻めをされれば即効アウトだ。引くぞ!」


 ランはあくまでも転移を使わないながらも、代わりに走りながら周辺にいる転移者達に向かって叫んだ。


「魔物の大軍が攻めて来る。死にたくない奴はすぐに退け!」


 だがランの叫び声も虚しく、周囲の転移者達は混乱しきったまま立ち往生、もしくは明後日の方向に走っていくばかりだった。

 このままではより多数の犠牲者が出てしまいかねないだろう。更にここに来て幸助がランの手を振り払い、一人走ってしまったのだ。


「幸助、お前!」

「分かってる! だから倒しにはいかない。でも助けには行かせてくれ!」

「宛は?」

「ない!」

「だろうな、ったくお人好しが……(だとすると手っ取り早い手は)」


 ランは手元に三つのカプセルを用意し、話しかけた。


「悪いな、連続で悪役を演じてもらって。この分は、馬鹿勇者のおごりで美味い飯食わせるって事で頼む!」


 ランは幸助がいる方向にカプセルを投げると、中に入っていたヒトテツ、ニギュウ、ミノティラの三体の巨体が飛び出し、その勢いで幸助に飛び込んできた。


「おお皆……って、なんかこっち向かってないか!?」


 幸助はニギュウのボディプレスを何とか回避すると、続けざまにミノティラの尻尾が襲い掛かった。


「ちょっ! なんで俺を襲って……」


 困惑する億助だが、ミノティラの尻尾はそんな彼のすぐ隣に激突した。まるでわざと紙一重の一撃を出して来た事に、幸助はランの意図を察した。


「なるほどな、そう言う事か!」


 そこから次に、ヒトテツが転移者達に当たらないギリギリのラインでレーザー光線を発射した。転移者達は突然の敵の援軍に驚き、戦意を喪失してしまう。


「なんでいきなり魔物が。何処かだ出て来たんだよ!」

「もう、何なんだ!」


 パニックこそそのままだが、ランの目論見通り転移者達の意識がヒトテツ達に集中した。ここで幸助が飛び出し、次の弱く撃たれたヒトテツの光線を魔術で防ぐ。

 周囲全員の目が幸助に向いた。幸助はここでハッキリ告げた。


「皆! この敵は今までと違って強い! 一度引いて、体勢を立て直すんだ!」


 この言葉は転移者達の耳に入る。戦士を喪失していたところに聞こえて来た逃走してもいい許可の合図は、自らの意志では逃げられなかった者達の足を動かした。


 我先にと様々な方法で現場を離れていく転移者達。敵側の大きな音が近づく中、ランと幸助は周囲を確認、何とか転移者達の逃亡を確認した上でヒトテツ達をカプセルに戻し、退避に成功するのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ