6-27 RAIDER PANIC
ランとユリがRAIDERの基地に向かっている道中、先に到着した幸助達四人は基地の中に入る事に少し躊躇していた。
四人共、目の前の光景に体の内から戦慄してしまっていたのだ。
「おいおい、なんやこの感じ……入る前からヒシヒシ伝わってくる気色悪い感覚は」
最初に言及した大吾の台詞に、残りの面々は自分の感じてる感覚が人だけのものではないと確認出来た。
「やっぱりこの中に、だよね」
「不気味……何かおかしい……」
南と零名も肌に伝わる嫌な感触に一歩前に出ることを躊躇ってしまう。そんな中、幸助は一番感じるものが少なかったのか三人よりも前に出た。
「俺も感じる。だけどそれで動かなかったら始まらない。入らないと」
「……それもそうやな。んじゃ手早く突入して」
大吾が幸助の勢いに敢えて便乗してビル内に入ろうと足を進めかけたその時、目の前の自動ドアが開くよりも先になにかがぶつかり、破壊された。
「何だ!?」
動揺する幸助を咄嗟に後ろに引き下げる大吾。揃って四人で数歩後退りつつ、一番前にいた幸助が扉を破壊した物体の正体を見た。
「ナッ!」
「ん? どうした幸助。何を……!」
幸助に続き物体を見た大吾も絶句した。二人の様子から何があったのか気になる女子二人が視線を向けると男性陣と同じく、特に南が衝撃を受けた。
「これ……」
南は戦慄した。自動ドアを破壊したのは、全身から出血し体の一部を欠損した死体だったのだ。
思わず吐き気を感じてしまう南に咄嗟に零名が寄り添う。
「大丈夫……息をして……深呼吸……」
零名の指示に従って南は深呼吸をし、気持ちを落ち着かせる。完全には青い顔を戻すことは出来なかったが、どうにか現実を受け止めることが出来た。
「どうしていきなり、こんなのが飛び出して来たんだろう?」
「分からない。だけどビルの中から出てきたことは確かだ」
更にビルの中に突入することに躊躇が出来てしまう四人。だが直後、突き破られたビルの中から複数人の視線が向けられる。
大吾が鋭くこれに気が付くと、相手側は普通では考えられない勢いで空いた穴からビルを飛び出し、彼等に襲い掛かって来た。
「おいおいおいおい!」
前方にいた男性陣がこれに襲われかけるも、咄嗟に大吾が幸助の身をより引き下げ、もう一方の手で印を組んで構えた。
「<圧気>」
大吾が発動した術によって襲撃をかけた人達は揃って動けない程度に空気圧に押し潰された。前方に警戒を残しつつ少し足を進めた大吾は、襲撃者の格好を見て分析していた。
襲って来た人達の服装はスーツに作業服、機動隊の制服までと個人個人にバラバラだ。だが揃って全身から出血し、機動隊員の銃口が煙を上げているのはもちろん、清掃員のモップですら血まみれになっている。
「なんやこいつら、触手も背格好もバラバラ。まるで乱戦でもしていたかのような……」
大吾が抑えている中でも手足が千切れんとばかりに暴れる人達。目付きからもまるで敵味方も判別もついているように思えない錯乱状態だ。
「こいつら、まさか誰かの異能力で操られているのか?」
推理の最中、倒した人の一人が更に暴れて身体を傷付ける。奇妙に思えた足が動かなかった大吾は、ここで何かに勘付いて全員に叫んだ。
「何かで顔を覆え! 毒物や!」
この指示に彼の相棒たる零名が真っ先に反応し、服の中に隠していた薄い物体を複数取り出して幸助と南の顔面にぶつけた。
驚く二人だが、張り付けられた物体は零名の異能力が解けた事でガスマスクに変形し、鼻と口を覆った。
動揺する二人を余所に零名は自分にもガスマスクを取り付けると、最後に大吾に同じものを手渡した。
「大吾……平気?」
第五はガスマスクを取りつけつつ返答する。
「アホ、この程度の時間耐えられるよう鍛えられとるわ。そんなことより目の前のこれや」
大吾が最近癖を確信した理由。目の前に倒れていた人達が、全員揃って既に死亡していたのだ。
「相当強力な毒物……いや、細菌かウイルスの類かもな。それも感染してしばらくは、思考を放り捨てて暴れまわる。色んな異能力を見て来たけど、ここまで危なっかしいのは初めてや」
「てことは……中も……」
「まあ蔓延しとるやろうな。こんなもんを広める理由……連中はこの組織を切り捨てにかかっとるみたいやな」
「切り捨てる?」
大吾の推測に幸助が反応する。これだけだと大吾は無視し様としたのだが、彼の隣にいる南も疑問を浮かべていたのを横目に見た途端に説明を始めた。
「南ちゃんたちがたまたま聞いた会話で、赤服はここの組織のボスと関係を切る手前やったんやってな?
連中、はなから切り捨てるつもりやったんやろう。んで準備が整って実行したってとこか」
仮説を述べる大吾に零名は彼に進言する。
「どうにしろ……時間、ない……」
「やな。連中がここを潰すつもりなら欲しいものを即刻かっぱらうやろうて。急がんと結晶は行方不明になるな」
首だけ回して後方を見つつ台詞を吐く大吾。幸助と南はこれにすぐに反応しそれぞれが組む相手の隣に入る。
「こうなりゃ二人組で分かれるのは変わらんけど、入ってからの探し物は見つけ次第回収やな」
「了解……南、行こう」
「俺達もな。降りかかってくる奴は気絶させてくぞ。ランへの連絡は俺からしとくんで」
話を聞いた三人は顎を引いて気合を入れつつ、揃ってビル内に突入した。
ビルに入ってすぐ、四人はロビーの異様な状況が目に飛び込んできた。その場にいるスタッフ、清掃員に至るまで全員が狂ったように辺り一帯の者を武器にして目の前に相手に暴力を振るっていた。
乱闘し合う人たちは出血しようと骨が折れようとお構いなし。本当にとにかく相手を攻撃する事しか意識がないように思えた。
「これ、ビル中に広がってるの?」
戦慄する南に零名が手を握って落ちつかせてくれる。一方で幸助は南も気になっていた事を大吾に問いかけた。
「あの人達も、さっきの人達と同じって事は……」
「まあ、ある程度暴走したら全滅やろうな」
「この異能力使い、はやく止めないと! 放っておいたら本当にビル内の人が全滅する」
「そやな。次警隊としても情報を掴んでそうなやつを確保しておきたいし、急ぐか」
大吾の台詞を合図に四人は男女でそれぞれ分かれて駆け出した。道中、狂暴化したスタッフ達が幸助達をも攻撃対象と認識し、スマートフォンやファイルですら狂気にして襲い掛かって来た。
「来た!」
声を挙げる幸助に反して大吾は普段のふざけた態度を落ち着かせて右手を銃の形に構え、襲ってくる人に標準を合わせた。
「<凪詰 豆鉄砲>」
大吾はそこで見えない空気弾を発射し、襲って来る相手にピンポイントで命中させて倒れさせた。
「お前何を!」
「慌てんな、目覚めても支障ない程度に気絶させただけや。次々襲い掛かる奴らをいちいち相手しとったらキリないからな」
「大吾、お前……仕事出来るんだな」
「誉めてんの? けなされてんの?」
幸助はランが大吾の腕を信頼している理由をここに来て初めて少し分かった気がした。幸助が関心を向ける中、大吾は自身のデバイスの画面を見て眉を動かした。
「結晶が近い! てかこっちに近付いてねえか?」
「近付いている? 誰かが持ち去っているって事?」
第五に近付いて幸助が彼のデバイ図の画面を見ると、方角から気が付いた事があった。
「そこ、資料館じゃ!」
「結晶取ってから移動? これが赤服やねんやったらわざわざ戻って来た事になんで。んなことなんで」
走りながら二人揃って仮説が浮かんで来た。
「俺と南ちゃんが取って来た分!」
「ありえるな。咄嗟やったしこの短時間、見つからんのを改めて探しに来たか、監視カメラの映像を確認しに行ったかやな」
「どうにしろ、結晶は資料館にある。行く道は決まったな」
幸助と大吾は足を速めて資料館に向かっていった。
一方で女子二人の動向も、隊員としては先輩である零名が前に出て襲い掛かる人たちを次々気絶させていった。大吾のような忍術は使えない彼女だが、子供の小柄なによるすばしっこい動きによって優位に戦えていた。
「零名ちゃん、凄い!」
「油断、大敵……」
「はい!」
零名の冷静な返しに南は気合を入れ直して走り続ける。程なくしてまた前方から人が出現する。零名はすぐに対応しようと間合いに入ったが、ここで想定外の事態が起こった。
今度の清掃員は零名の素早い動きに対応し、振り回したモップを彼女に当てたのだ。
零名は軽い身体が吹き飛ばされ、南がこれを受け止めた。
「大丈夫!」
「平気……けど……」
零名の顔つきがより険しいものに変わった。
「こいつら、強い……」
「強いって、この人達もこのビルのスタッフなんじゃ」
「大吾言ってた……細菌、ウイルスの類での暴走。もし吸う量、増えて、強くなったなら……」
南は零名の言いたいことを理解して彼女が口を開くよりも先に言及した。
「毒物使いがこの近くにいる!」
仮説が立ったところに攻めて来る感染者達。零名は再び自分で対応しようとしたが、今度は彼女を庇うように南が前に出た。
「南!」
「任せて! 僕だって、守られるばかりじゃないから」
南は零名に返事をしつつ両拳を引いて構えた。
「<夕空流格闘術 十二式 改 山羊乱 鎮静>」
南は技名を口ずさむとともに両拳をタイミングをずらして繰り出した。直後、鋭く動く拳が感染者達に激突したが、その全員が拳によって一切傷付けることなく気絶し、倒れていった。
「南……」
「応用、少しずつだけど出来るようになってきた」
今の南の攻撃は、自身の力を弱めつつ的確に相手に当てて効果を出す技。相手を出来るだけ殺さない南なりの考えた技だ。
「僕はみんなと違って相手を殺す覚悟は持てない。それでも、命を奪わずとも勝ちたいから」
南の持論に零名は否定しなかった。何処か優しげな顔つきとなり、ふと南に呟く。
「南、それ、大変な選択……でも、零名、優しい、嫌いじゃない」
零名の認めたともとれる返事に南も心の何処かで少しホッとした。だが二人共すぐに気持ちを切り替える。
「急ぐ……本丸、近くにいる」
「何が目的だろうと、こんな事、絶対にやめさせる!」
女性陣二人も近くにいるであろう強敵に向かって足を速めていった。




