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6-26 似てる二人 ユリとリコル

 リコルの告白した情報。ユリはふと目にした震えているリコルの腕に、彼女がそれだけ思いを溜め込んでいたのかと考えてしまう。

 何とか話し終えたリコルは、次に自分を責めるような台詞を吐き始めた。


「こうして振り返ってみると馬鹿だよね。こんな事をしていたって、誰も救われる訳じゃない。むしろいつこうなってもおかしくなかったのに……

 私は目先の事ばかりで、結局ジネス君を助けることが出来なかった! その上、私だけこうして残って!」

「馬鹿なんかじゃないです……」


 リコルは事故非難に陥る中で隣から小さく聞こえてきた声に反応する。するとユリは彼女の両手を握り、もう一度今度は強く心に響くように彼女に告げた。


「リコルさんは馬鹿なんかじゃないです! 絶対!」


 ユリのあまりに真っ直ぐな言葉に零れていた涙が引っ込んで驚き顔で固まってしまうリコル。

 ユリはリコルが何も今ない隙に自分の言い分をとにかく続けた。


「リコルさんは、自分に出来ることを精一杯やっていただけです! ジネスさんを助けるためにやっていたんだから!」


 ユリの熱意ある言い分を受け止めるリコル。だが精神が疲弊した今の彼女には、それでも自分を責める事しか出来なかった。


「ありがとう。でも実際、私のやったことは誰も救われなかった。単なる私の自己満足でしかなかったの。」

「自己満足……それの何がいけないんですか!」


 ユリからの開き直ったような返答にリコルは思わず困惑してしまった。口が止まってしまったリコルに対し、ユリは畳みかけるように自分の言い分を口にする。


「自己満足、だから何だっていうんですか! 勝手に同情するだけして何もしないよりよっぽどいいです! 動かなきゃ、本当に誰の助けにもならないんだから……」


 ユリの脳裏に浮かぶ過去の光景。子供の頃からずっと見てきたランの姿が思い返されていた。


 ある理由が為に強くなろうとするランの日々の努力を見ていたユリは、どうにかして彼を支えることが出来ないかと模索した。

 そうして自分なりに彼のために出来ることを努力した結果、彼女は今三番隊の縁の下の力持ちになれている。


「何か動く事が大切なんだと、私は思います。

 例えそれが大切な人に嘘をつくことになったとしても、例えそれが何者かに悪用される立場だったとしても……何もしない事より、一つでも何かすることは絶対に意味があるんです!」


 思い返されるユリの努力の日々。とある日に手に入れた赤服のブレスレットを解析し、ランの手数の多い戦い方に合うように改良していった時の事。

 試作型を渡してはランを酷い目に遭わせてしまい、その度に今度こそはと色んな方法を試した。


 なんども挑戦して完成した今の装備品を与えたとき、自分はもちろんの事、使っていたランが何処か嬉しそうだったことを覚えている。

 そんなユリだからこそ、今のリコルに対して何処か自分に重なるものを感じていたのだ。


「だから、貴方のやっていた事が馬鹿だなんてこと、絶対にないです!」


 単なる即興の出任せではない、言葉の裏にそれに見合う重みを含ませる台詞。リコルはユリの声に圧倒された。


「ユリさん……貴方は一体……」


 リコルが呆然と問いかけた言葉に、ユリは堂々とした態度、明るい笑顔を見せて答えてみせた。


「ただの、ドドドドド天才美少女です!」

「ど、ドドドド?」


 ここに来てのユリの子供臭い台詞にせっかく惹かれかけた心境が止まり、微妙な顔を浮かべて冷や汗を流してしまった。

 しかし目の前でそんな視線を向けられているにも関わらず、ユリの態度は全く変わらずもう一度胸を張って自称した。


「ドドドドド天才美少女です! 人妻の」

「人妻!?」


 リコルはユリが語尾に付けるようにしれっと言った単語に目玉が飛び出る勢いで仰天した。


「え! ユリさん、あの人の彼女さんじゃなくて……奥さんだったんですか!?」

「そんな訳がないだろう!」

「えぇ!?」


 女性人二人の話が盛り上がって来た時に割り込んでくる男声。外野で待っていたスフェーが、ユリの言った台詞に我慢の限界を迎えて飛び出してしまったのだ。


「認めない! 私は断じて認めていないぞ! このような可愛く美しく宝石のようなわが妹が、あんな泥塵塗れの礼儀のかけらもないような奴と所帯を持つなど! 私は断じて認めてはいない!」

「落ち着け」


 声を荒げるスフェーの後ろからジト目になって呆れたランが出現し、彼の肩を掴んで歩みを止める。スフェーは首を回して丸く開き血走った瞳をランに向ける。


「貴様、何を止める。私は兄として当然のことをしているだけだ」

「そんな血走った気色の悪い目で出来る『当然の事』なんてないだろ」


 近くに見えるイケメンが台無しのスフェーの表情に多少の気持ち悪さすら感じたラン。彼は顔付を戻しつつ真面目な風を装ってスフェーとの話を続けた。


「いいから退け。お前は本当いい加減少しは妹離れをしろ」

「妹離れだと! 貴様、私とマリーナの仲をこれ以上引き裂こうというのか! そんなことが赤の他人に許される訳がないだろう!」


 スフェーは体も後ろに回転させて肩を掴んでいたランの腕を振り払うと、血走った眼玉の中に闇の深い瞳を見せながらランに指を差して一方的な長台詞を吐き出した。


「貴様は高々気まぐれで家を出ていたマリーナに拾われただけの身分だろう! 高々それだけの仲だ!

 だが私達は兄妹! 生まれてすぐの時からずっと一緒にいる! そばにいる!

 だからお前などよりずっと幼い時から傍で見てきたのだ! 我が妹の可愛い笑顔を! 仕草を! 声を! その全てをこの胸に、写真に、映像に残して来たのだ! 当然私の部屋にもたくさん宝物として残してある。

 お前は何だ! 最初はマリーナの優しに対し無下にする態度を取り続けていたくせに、掌返しで一変させおって! もとはと言えばお前のせいでマリーナは結晶を飲み込んでしまい、姫の身分を差し引いても狙われる存在にしたんだぞ! 貴様のような紳士感のかけらもない薄っぺらいお前が、何が旦那だ、何が夫婦だ!

 そんなものが私達の兄弟の絆に敵うとでも思っているのか! 私のマリーナを思う心からの気持ちに敵うとでも思っているのか!

 そんなことはない! 決してありえない!

 マリーナはお前などには勿体ないなどという言葉すらおこがましいほどに共にいるのがありえない至高の存在なのだ!

 そう! つまり! すなわち! 彼女の事を一番思っているのは! 彼女のためを思い最善の行動を取る事が出来るのは!

 この私、何よりもこの兄である『スフェー ルド ユリアーヌ』を置いて他に存在しない! 男子手存在しないのだ!!」


「ユリ、話はもう大丈夫そうか?」

「ええ、ごめんね時間を取って貰っちゃって」

「マリーナ!?」


 自身の心からの熱い語り(長いのでめんどくさかったら読まなくて結構ですw)を聞こうともせずにランとの会話をしているユリ。スフェーはいましたが言った台詞が即刻否定されている現場に唖然となってしまう。


 一方でユリはランに対して一言謝ると、彼女の隣にいるリコルもまたランに対して謝罪した。


「ごめんなさい。私のせいで」

「いいんだよ。俺はユリの頼みを聞いただけだ。一応『旦那』なんだ。家内のわがままを聞く器量くらい持ち合わせているさ」


 軽い言葉だが普通の人なら何処か気恥しくなりそうなセリフを堂々と口にするランに、リコルは内心で思った。


(この人達、本当にお互いの事を大切に思い合っているんだ)


 するとリコルは自分でも知らない内に顔の口角が少しだけ上がり、ほんの小さいものながら笑みを浮かべていた。ユリはこれを見てすぐに反応する。


「ようやく笑顔になってくれたわね、リコルさん」

「え?」

「貴方、ジネスさんの事を思って落ち込んでいるばかりだったから。ほんの少しでも気持ちが明るくなったみたいでよかったわ」

「貴方、そんなことまで考えて」


 リコルが目の前の少女の配慮に感心させられる。ユリはランの隣にまで移動すると、振り返って励ます笑顔をリコルに見せながら宣言した。


「安心して。ジネスさんは、私達が絶対に助けるから!」

「ユリさん!」


 心の何処かに暖かさを感じるリコル。ランは今のユリの台詞に同調するように口を開く。


「ま、結晶がある場所と同じ場所にいることは明白だし、個人的にアイツにはこの世界で色々縁が出来たからな。ここまで来て放っておくのは、少々後味が悪い」


 あくまで自分の為という風に誤魔化すランに、ユリは『素直じゃないんだから』とでも言いたげな顔つきで彼を見た。

 すぐにランとユリは幸助達に合流するべくリコルと反対を向く。だが歩き出してすぐ、スフェーが立ち塞がった。


「待て貴様、マリーナを連れて激戦地に突入していくつもりか!」

「それがどうかしたか?」

「ダメだ! マリーナはここで私が」


 ここに来てユリの動向に強く反対するスフェー。彼が自分の意見を語り続ける中、いい加減聞いてられないとランが反論しかけたが、そこでランよりも先にユリが前に出た。


「ユリ?」

「お兄様。さっきのお話あんまり聞いてなかったんだけど、自室の中に私の写真があるんですって? まさか、壁にデカデカ張り付けていたりとか?」

「ん? ああもちろんだ。今は仕事のため出来ていないがそうでなければ毎日愛でて……」

「キモい……」


 ユリから小さく零れた言葉に一瞬空気がピリ付く。スフェーがユリの声をしっかり聞こうと笑顔のまま口を閉じると、ユリは改めてスフェーにはっきり聞こえるように告げた。


「お兄様、気持ち悪い!」


 瞬間、スフェーの全身に雷撃のような衝撃が走った。文字通り目に入れても痛くない可愛くてかわいくて仕方のない妹。その妹に堂々と言われた言葉。


『気持ち悪い!……気持ち悪い……気持ち……悪い……』

(あのマリーナが……私にいつも笑顔を向けて追いかけてきた、あの可愛いマリーナが……マリーナが……)


 数秒後、頭の中で処理オーバーしたスフェーは白目を向いて青空を見ながらボソボソと独り言を呟き始めた。


「あぁ……マリーナ、お兄ちゃんにその果物分けてくれるのかい? ああ、とっても美味しいよ……」

「あ、あれ? お兄様?」

「ぶっ壊れたな。まあいいだろ、これで邪魔されずに行ける」

「扱い……まあこのままじゃ止められそうだし、リコルさん。お兄様と一緒にここで待っていてもらっていいかしら?」


 ユリからの突然の申し出に困惑するリコル。そこでユリは補足した。


「ええっと……」

「大丈夫です。意識が戻ると頼りになりますから」

「は、はぁ……分かりました」


 微妙にぎこちない雰囲気になってしまいながらも、ランとユリはジネスの救助のためにRAIDER(レイダー)基地に向かっていった。

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