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第二の人生は、のどかな国の聖女。隣の聖騎士団長が、密かに私を愛してくれているようです。【☀】  作者: 逆立ちハムスター


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――チュン、チュン。

窓の外から、冬の朝を告げる小鳥たちの元気な声が聞こえてくる。

暖炉の火はすでに小さな熾火おきびとなって、部屋にほんのりとした温もりを残していた。


「……ん、……はっ!」


私の隣で、ビクッと大きな身体が跳ねる気配がした。

ゆっくりと目を開けると、すぐ目の前に、完全に血の気を引かせた……いや、次の瞬間には沸騰したお湯のように顔を真っ赤にしたユリウス様の姿があった。


「エ、エルネスタ、様……!? わ、私は……まさか、朝まで貴女様の……その、神聖なる御肩を……っ!?」


彼はソファーから弾かれたように飛び起きると、そのまま床に勢いよく土下座(片膝をつく騎士の礼の、限りなく土下座に近いバージョン)をした。


前世のSV時代、夜勤明けの休憩室で仮眠を取っていて、ハッと気づいたらシフト開始時間を5分過ぎていた時の新人オペレーターのような、完璧なパニック状態だ。


「おはようございます、ユリウス様。とてもよく眠れたようで、安心しましたわ」


私はクスリと笑いながら、少しだけ痺れた右肩を小さく回した。

実は、彼が完全に寝入った後、そっとクッションを挟もうかとも思ったのだけれど、私の肩にすり寄る彼の寝顔があまりにも幸せそうだったので、結局そのまま朝まで貸し出してしまったのだ。


「お、おはようございます……ではございません! この大罪、いかにお詫びすべきか……! 私は、貴女様を休ませるどころか、一晩中重しとなって御負担をおかけするなど、騎士として切腹もので……っ!」


激しく取り乱すユリウス様の頭上に、私の【真実の心眼】が淡い光の文字を次々と紡ぎ出していく。


『死にたい、いや死ねない。エルネスタ様のあの華奢で美しい肩を、私のような無骨な頭で一晩中圧迫し続けてしまった。間違いなく肩が凝っておられる』


斜め上すぎる自己嫌悪のマーブル模様に、私は笑い出しそうになるのを必死に堪えた。


「ユリウス様、顔を上げてくださいな。私の肩はなんともありませんわ。それに、貴方がそれほどまでに深く、安心して眠ってくださったことが、私にとっては一番の『アフターケア』なのですから」


「アフターケア、ですか?」


「ええ。星誕祭という大きな役目を終えて、一番頑張った貴方が健やかに朝を迎えられた。これ以上の喜びはありませんわ」


私が手を差し伸べると、ユリウス様は恐る恐るその手を取り、立ち上がった。その琥珀色の瞳には、もう隠しきれないほどの深い、深い情愛と忠誠が揺らめいている。


「エルネスタ様……。貴女様というお方は、どこまでも……っ」


その時、コンコン、と控えめなノックの音が響いた。

「失礼いたします、聖騎士長殿。エルネスタ様はこちらにいらっしゃいますでしょうか?」


入ってきたのは、見習い神官を連れたミレーヌだった。私を一晩中探していたのだろう。

「あ、ミレーヌ。ごめんなさい、少し長居をしてしまって……」

「まあ、エルネスタ様! ……そして、聖騎士長殿」


ミレーヌは、私の少し乱れた髪と、顔を真っ赤にして直立不動になっているユリウス様を交互に見比べると、何かを察したように「ふふっ」と意味深な笑みを浮かべた。

「星誕祭の大成功、誠におめでとうございます。ですが、エルネスタ様。本日は幹部の方々が、聖女様に御礼とご報告を申し上げたいと、謁見の間でお待ちかねでございますわ」


──


謁見の間には、昨日までの張り詰めた緊張感とは打って変わって、どこかほっとしたような、穏やかで達成感に満ちた空気が漂っていた。


「エルネスタ様! 昨日の『大地の白いスープ』、信じられないほどの数がはけましたぞ! 民の皆が、聖女様の慈愛の味だと涙を流して喜んでおりました!」

総料理長のマルクさんが、顔をほころばせて報告する。


「寄付金も、過去最高の額が集まりました! あのクレーマーだった伯爵家の使者殿が、なぜか自ら大声で寄付を呼びかけてくださり……! これで神殿の冬の運営は万全、エルネスタ様の新しい春のドレスも新調できます!」

最高財務官のフランツ様も、興奮気味に帳簿を掲げている。


「聖女様……。子供たち、昨夜は本当に誇らしげに孤児院へ帰っていきました。あの子たちの歌声が、多くの人の心を救ったのだと……。すべては、エルネスタ様のお導きのおかげです」

ルチア様は、嬉し涙を浮かべながら深々と頭を下げた。


ここで一番重要なのは、各部門のリーダーたちの労をねぎらい、明確な「ポジティブ・フィードバック」を与えることだ。大きなイベントの後は、燃え尽き症候群に陥りやすい。彼らの努力がいかに価値のあるものだったかを、きちんと言葉にして承認してあげる必要がある。


私は立ち上がり、一人ひとりの顔をゆっくりと見渡した。


「皆様、本当に素晴らしい星誕祭でしたわね」


私は【スポットライト】の能力をほんの少しだけ発動させ、窓からの光を借りて、謁見の間全体を暖かく、キラキラとした希望の光で包み込んだ。


「マルク料理長。貴方のスープは、単なる食事ではなく、冷えた心に灯る希望の火でした。

フランツ様。貴方の緻密な計画があったからこそ、私たちは誰も取り残すことなく、愛を配ることができたのです。

そしてルチア様。貴女と子供たちの歌声は、大聖堂の壁を越え、人々の魂を震わせる本物の奇跡でしたわ」


一人ひとりに丁寧に言葉を紡ぐと、幹部たちは皆、感動に胸を打たれ、目を潤ませた。


「この星誕祭の成功は、私一人の力などではありません。皆様一人ひとりが、誰かのために自分の役割を全うしてくださった、その『優しい連鎖』の賜物です。今日から数日は、どうかご自身の心と身体をゆっくりと休め、ご家族や大切な方と、温かい時間を過ごしてくださいね」


私の言葉に、謁見の間に割れんばかりの拍手が響き渡った。


───


ミーティングが終わり、人々が解散していく中、私のすぐ斜め後ろには、いつものようにユリウス様が控えていた。

彼の【オーラ視】の色は、先ほどまでの恥じらいの赤から、非常に澄み切った、誇り高く穏やかな「黄金色」に輝いている。


「……見事な御言葉でした、エルネスタ様。神殿の者たちは皆、貴女様のために、これからも命を懸けて尽くすことでしょう」


「大げさね、ユリウス様。私はただ、みんなに元気でいてほしいだけよ」


私はふと、昨日彼と交わした約束を思い出した。


「ねえ、ユリウス様。星誕祭も無事に終わりましたし……少し、お時間が取れそうですわね」


私が少し上目遣いで微笑みかけると、ユリウス様はハッとして、琥珀色の瞳を大きく見開いた。


「もしよろしければ、午後から中庭のガゼボで、二人きりで……『のどかなお茶会』を、しませんか? これからの未来のお話、聞かせてくださる約束でしたでしょう?」


その瞬間、ユリウス様の頭上の【真実の心眼】に、ものすごい勢いで文字が弾け飛んだ。


『ついにこの時が来た! エルネスタ様との二人きりのお茶会! これは実質的な恋人として捉えていただく機会だ! どんなお茶を用意すべきか? 焼き菓子は? いや、まずは私が彼女を完璧にエスコートするシミュレーションを……っ! いかん、また心臓が爆発しそうだが、この幸福のためなら何度でも蘇ってみせる!』


(ふふふ……! 相変わらず気が早すぎるわ)


けれど、そんな彼の真っ直ぐすぎる熱量が、私の心を最高に温かく、のどかな幸せで満たしてくれるのだ。


「……喜んで、お供いたします。エルネスタ様。この命に代えても、最高のお茶会にしてみせます!」


顔を真っ赤にしながらも、力強く宣言する私の騎士様。


偽りの聖女としての異世界生活。

クレーム対応も、イベントの仕切りも、前世のSVスキルがあればなんのその。

そして何より、この過保護で妄想たくましい、けれど誰よりも愛しい騎士様が隣にいてくれる限り、私の毎日は、これからもずっと、最高にのどかで幸せなものになるに違いない。


冬の澄んだ空の下、中庭に咲く小さな花々が、私たちのこれからの甘い時間を祝福するように、風に揺れていた。

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