第34話 風が止む時
岡田誉
コンビニの軒先で、見慣れない二つの影。
ヘルメットを脱いだ瞬間、俺たちは息を呑んだ。
「……中邑? 柴田?」
二人とも、大人びた顔になっていた。
けれど笑った瞬間、やっぱり昔のままだった。
俺たちはコンビニの裏で輪になって座り、
くだらない冗談を言い合っていた。
「陸斗がいたらよ……」
と、誰かがぽつりと言った。
中邑と柴田は
「去年の秋に陸斗の見舞いに行ってさ…」
夜風が運んだ雪の匂いが、あの夏の匂いに似ていて、みんな、黙って空を見た。
「あの時の修也が投げた球凄かったよな?」
「陸斗もよく立てたよな」
「アイツらが仲間で本当によかったよな…」
しばらく沈黙が続いて、
サイレンの音が遠くで聞こえた。
中邑と柴田は急に立ち上がり、険しくなった顔をヘルメットで隠した。
「……またな。また、皆で会おうな!
今度、皆制服で陸斗の見舞いに行こうぜ!
あと、交番もな…」
何故か皆、返事が遅れた。
——その理由を、
俺たちはまだ言葉にできなかった。
皆の胸の奥で、何かがひっそりと欠け落ちたような感覚があった。
数時間後ーー
《ピコン》
中邑と柴田のニュースがスマホに流れるが誰も気づかなかった。
雪はやみ、信じられないほど静かな波の音が、耳の奥で揺れていた。
俺たちは目の前の海に向かっていた。
水平線が、夜明け前の青にわずかに染まっていた。
その光だけが、俺たちを見つめていた。
言葉はなかった。
泣く気力もなかった。
ただ、寄り添うように肩を並べ、
誰かが小さく言った。
「……もう無理だな。」
「せめて、修也たちと本間が生きていたら…
まだ、希望はあったのにな…」
空谷の笑顔。
棚橋と岩谷の笑い声。
本間の優しさ。
校長の熱い声援。
中邑と柴田の寂しそうな目。
全部が、波に消えていくように思えた。
十一の影が、ゆっくりと海に呑まれていく。
誰も振り返らなかった。
もう、帰る場所はどこにも…。
冷たい水は何故か暖かく、足を包み、太ももを、胸を、喉元を浸していく。
波が寄せては返す音も、もう遠くでぼやけていた。
苦しいはずなのに…
誰も暴れない。
世界は、驚くほど静かだった。
あの風は、
止んだ…




