第31話 水仙の匂い
岡田誉
年が明けたある日、校長が小さな声で告げた。
「……君たちが卒業したら、この学校は廃校になる。」
あの風が俺たちの間を吹き抜けた。
耳鳴りがした。
俺たち11人は、顔を見合わせたまま、それ以上、誰も言葉を出せなかった。
空谷が入院し、棚橋と岩谷が亡くなり、監督と校長が消え、
そして今度は、学校すら消える。
そんな俺たちに向けられる視線はいつも同じだった。
“あいつらに関わるな”
“あいつらのせいで学校が終わる”
ある日、三年の先輩が言った。
「野球部のせいで、俺たちの就職先が決まらないん
だけど、お前ら、どう責任とるんだ?。」
その声は、殴られるよりも深く、胸をエグッた。
「俺たち、何かした?…
俺たちはただ、真面目に部活をしていただけ。
ただ、それだけなのに…」
その問いに、誰も答えなかった。
俺たち十一人は、
同じ教室にいながら、
同じ言葉を胸に抱えたまま、
誰一人、声にできずにいた。
――俺たちは、もう
「部員」でも、
「生徒」でもなかった。
「陸斗……」
その日を境に、俺たちは学校に行くことをやめた。
教室の窓を通して聞こえるはずだったチャイムの音も、仲間と走ったグラウンドの音も、全部、遠い世界の出来事になってしまった。
守れなかった岩谷との約束…
「岡田君からも修也に言ってよ。
誰も責めてないって」
「何度も言ってるんだけどさ、聞く耳もってくれないんだよね」
「早く、いつもの修也に戻ってほしいだけなのに」
「任せとけよ。絶対に戻してやるからさ」
その言葉に嘘が隠されていた。
何処かでアイツを恨んでいた。
その気持ちにも嘘をついて、何度か声をかけてみた。
嘘に嘘を重ねて、修也に向き合いきれなかった自分に問いかけた。
「あの日向き合ってたら、こんな人生送ってないよな?」
数日後…
行き場のない11人は、
白や黄色の水仙の花が出す、
爽やかな匂いを感じながら、
コンビニに集まっていた。




