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死球(DEADBALL)〜同じ悪夢を見る者たち〜  作者: Mr.ランジェリー


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第29話 白線の外

【中邑和真】


長い一学期が終わり、二学期を迎える少し前のことだった。


報道陣が連れてきた風は完全に止むことはなく、

俺と柴田は、新しく赴任してきた校長から編入の話を持ちかけられた。


野球部は廃部になった。

けれど、まだ野球を続けたい気持ちがあるなら――

そう言って、俺たちを受け入れてくれる学校があるという。


転校初日の朝、校門の上に薄い雲が掛かっていた。


雲間から細い白い光が校舎を照らしていた。


その光は「ここから違う人生が始まる」と告げているようだった。


あの風は俺たちの方向に進路を変えていた事に気づきもせず…


野球推薦で入った俺と柴田は、

ほんのわずかだが、希望を胸に抱いていた。


グラウンドへ向かうと、

白線の匂い、金属バットの乾いた音が耳に届く。

懐かしくて、胸の奥が少しだけ弾んだ。


けれど――

その音は、俺たちに向けられたものではなかった。


俺たちは、最初から“外側”の人間だった。



それでも必死に練習を重ね、

なんとか秋季大会の背番号をもらうことができた。


気のせいか、その番号は、やけに軽かった。


その帰り道、柴田がぽつりと言った。


「なあ……陸斗の見舞い、行かないか」


俺たちは、陸斗が知らない制服を着たまま病院へ向かった。

驚かせるつもりで、そっと病室の扉を開き、

カーテンの向こうを覗いた。


――驚いたのは、俺たちだった。


ベッドに座る陸斗は、自分の脚に爪を立て、

力任せに押さえつけるように震えていた。


「……この足が動けば……」


慌てて、俺と柴田で駆け寄る。


「陸斗、やめろ!」



「何も…

 何も感じないんだ…

 足を触る感覚も、こうやって痛めつける感覚 

 も…」


夕陽が差し込み、

陸斗のまつ毛から零れた一粒が、

白いシーツをゆっくりとオレンジに染めていった。


窓の外では、秋の風がカーテンを揺らしていた。


陸斗の震えと、

それを必死に止める俺たちの手の震えが、

その揺れの中で、重なっていた。


やがて、陸斗の震えは、夕陽の中に溶けていった。


「お前は何も悪くないよ。

 ほらっ!見てみろよ!」


2人で両手いっぱいに広げた背番号を見せつけた。


「中邑…。柴田…。」


夕陽が希望の光に変わった。


陸斗は俺達を掴み、強く抱きしめた。


「お前ら… 凄いよ!ありがとう…。」


久々に3人で笑った。


「次来る時は、岡田達も連れてくるからさ、

 その時は、皆ユニフォームで写真撮ろうぜ。」


陸斗の眩しい笑顔に照らされ、俺達は病院を出た。


ーー数日後


県大会準決勝で敗れ、3位決定戦で俺が最後にエラーをして敗れた。


春の甲子園の光が消えた…


でも、俺達は今、野球ができる喜びを噛み締めていた。


学校に着いた時、先輩1人が拳と共に吐き捨てた。


「最後のエラーはないわー。

 あれがなかったら勝ってたのによ!

 呪い学園出身の奴のせいで、この学校も呪われ始 

 めたな!

 お前等、何で来たんだよ!」


周りにいた部員たちは、 誰一人、先輩を止めようとしなかった。

目を逸らす者。 苦笑いを浮かべる者。 何も聞こえていないふりをする者。

その沈黙が、 言葉より痛かった。


SNSを見なくても…

現実は…


全てが崩れる音がした。


俺たちは、この学校に居場所なんてなかった。


帰り道、柴田が言った。


「……もう辞めねえ? こんなとこ。」



その声は、怒りでも悲しみでもなく、ただ空っぽだった。


俺は、頷くことしかできなかった。


その夜、校門を出るときの空は重く、街灯の光がぶれて見えた。


“また居場所を失った”


その実感が、靴の裏に鉛のようにまとわりついた。


――その夜、柴田は別の道を選び始めていた。

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