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死球(DEADBALL)〜同じ悪夢を見る者たち〜  作者: Mr.ランジェリー


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23/42

第23話 3度目の破裂音

内藤雄太

わずかに開いたドアの隙間から、外気が流れ込む。

その音すらかき消すほどに、目の前の少年は震えていた。

だが――その瞳は、もう“少年”のものではない。

焦点は合わず、底の見えない場所へ沈んでいくような光だけが残っていた。


「お…落ち着きなさい…。

 その手を…下ろすんだ…。

 今ならまだ…間に合う…。」


声が震える。

何度訓練を重ねても、届かない瞬間がある。

それを、理解してしまった。

そのとき――

外から、足音が駆け寄る。


「修也!」


扉が勢いよく開いた。

その声が、空気を切り裂いた。

女子高生は迷いなく踏み込み、彼の名を呼ぶ。

だが――

彼は視線を逸らさなかった。

ただ、かすれた声で彼女の名を呼ぶ。

その一言で、彼女は動いた。


「一緒に考えようよ。まだ間に合うよ……ね?」


腕にしがみつき、押しとどめる。

その瞬間――


≪パァンッ≫


乾いた破裂音が、交番を突き抜けた。

彼女の身体が、弾かれたように揺れる。

白い制服に、紅が滲む。

――まるで、花が咲いたかのように。

彼女はゆっくりと、崩れ落ちる。

息が止まる。

何もできない。

ただ、見ているしかない。

視界の端で、彼の腕が震えている。

涙に濡れた頬。

何かを呟く唇。


まるで、昔の自分を見ているみたいだった。


数年前――

受験ノイローゼになった私は、駅のホームに立っていた。

"全てから逃げ出したい"

思い詰めた私は、電車が来る寸前、

ホームから飛び降りようとした時、

電車とは違う衝撃が体の横から来た。


悲鳴が飛び交う中、目を開けると私は無傷でホームギリギリに倒れていた。

数メートル先で肩を押さえながら、男性がしゃがみ込んでいた。


私は足が震えて立つことが出来なかった。


その時、男性はゆっくりと私の方へ近づいてきた。


「良かった…

 助けられて、良かった…」


そう言って私の前から姿を消した。


後に彼が警察官だと知った。

今では、私の上司。


「武藤さん…

 俺は……  救えませんでした……」


そう言った瞬間、

少年は私に銃口を向けた。

カタカタと鉄の震える音に耳を取られていた時、

少年の指が、再び動いた。


≪パァンッ≫


衝撃。

視界が、大きく傾く。

世界から、色がすっと剥がれ落ちた。

音が、一つ、また一つ消えていく。

遠ざかる光の中で、かすかに声が触れた。


「しゅうや……

 はやく……かえろ……」


その後に残ったのは――

彼の、泣き叫ぶ声。

 

三度目の破裂音。

 

床に転がる金属の、鈍い音。

 

さっきまでの騒がしさが、嘘のように消える。

 

交番は、完全に静まり返っていた。

 

――もう、武藤さんの声に救われることはなくなった。

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