第22話 最後の温もり
岩谷優愛
街の灯りが、滲んでいた。
それを、私は駆け抜けていた。
風が肌を刺し、心臓の音がサイレンのように鳴り響く。
曲がり角の先、交番の明かりが見えた時、胸の奥が騒ぎ出した。
嫌な予感…
交番の前で足が止まった。
ガラス越しに見えたのは、修也の姿だった。
「修也!」
叫びながら扉を開けると、鼻を突く匂い。
遅れて、汗と、張り詰めた空気が押し寄せた。
「修也! やめて! 何してるの?」
彼の瞳はどこにも焦点が合っていない。
私を見ているようで、何も見ていない。
「優愛……。」
その声は、私の心を裂いた…
泣きたくても、涙が出ない。
「一緒に考えようよ。まだ間に合うよ…… ね?」
私の震える声が漏れた時、彼の手に、ゆっくりと力がこもっていくのが見えた。
「……もう……無理だ……」
その言葉が、全てに終わりを告げた。
私はとっさに飛び出した。
「修也! やめて!」
彼の腕にしがみつき、壁へ押し付けたその瞬間——
「ッ……!!」
白い光が視界を踊り抜け、振動が胸を通り抜けた。
世界の輪郭が"ぐにゃっ"と音を立てて歪んだ。
何が起きたの?
息が、できない…
身体が、熱い…
「……っ……!」
もう一度、白い光と振動が目に溜まった涙を流した。
蛍光灯しか映らない視界に、ゆっくりと修也が映り込む。
唇が動いているのが分かる。
でも、言葉が耳に届かない…
何故… 泣いているの…?
彼の涙が、私の頬に落ちた。
あぁ、あったかい……
交番の灯りが、静かに揺れる光の向こうに、
ユニフォーム姿の修也が見えた…
「しゅうや… はやく…… かえろ……」
指先から、体温がすうっと落ちていく。
光が小さくなっていく。
これがーー 私の感じた最後の温もりだった。
月光に照らされた雲の隙間で私は言った…
「修也!早く手をつないでよ!」




