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死球(DEADBALL)〜同じ悪夢を見る者たち〜  作者: Mr.ランジェリー


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第21話 壊れてしまった命

内藤雄太


夜の交番は、妙に静かだ。

昼間は通行人の声で満ちているのに、日が落ちると、街そのものが息を潜める。

街灯の光が路面に滲み、風と時計の針だけが、時間を刻んでいた。

静かな夜ほど、何かが起こる。

それを、この仕事で学んだ。

――そして大抵は、予兆なんてない。

その夜も、湿った風がドアをかすかに揺らしていた。

書類を整理していると、ドアが小さく開いた。

立っていたのは、ランドセルを背負った少年だった。

手には、ハンバーガーショップの紙袋とスマートフォン。


「すみません。これ、拾いました。」


礼儀正しく頭を下げる姿に、思わず頬が緩む。


「ありがとう。どこで拾ったの?」


少年は振り返り、遠くを指した。


「向こうの道路に落ちていました。」


「そうか。こんな時間に制服姿ってことは、学校帰りじゃないよね?」


「はい。お兄ちゃんのお見舞いの帰りです。」


「そうか……。ありがとう。

もう暗いから、気をつけて帰るんだよ。」


少年は小さくうなずき、会釈をして去っていった。

その背中が夜の住宅街に溶けていく。

――少しだけ、小さく見えた。

やがて人の気配が途絶え、再び静寂が戻る。

――そのとき。


「ガラッ!」


扉が、乱暴に開いた。

反射的に顔を上げる。

立っていたのは、高校生くらいの少年。

息を荒げ、肩で呼吸をしている。

顔は汗で濡れ、目は異様に見開かれていた。

焦点が、合っていない。


「どうしました?」


刺激しないよう声をかけた、その瞬間だった。

視界が弾けた。

目に、焼けるような痛み。


「っ……!」


反射的に目を閉じる。

喉が焼ける。呼吸が乱れる。

スプレーだ。催涙系の何か――

後ろへよろめいた瞬間、頭を何かにぶつけた。

意識が揺れる。

とっさにホルスターへ手を伸ばす。

だが――

その腕を、押さえつけられた。

次の瞬間。

触れられた。

それだけで、理解してしまった。

まずい。

視界が滲む。

呼吸が浅くなる。

その中で、少年の姿だけが、異様に浮かび上がっていた。

違う。


もう――“少年”じゃない。

何かが、完全に壊れている。

彼の手の中で、私の武器がゆっくりと持ち上がる。

震えている。

腕も、指も。

――撃てる状態じゃない。

それでも――

確かに、こちらへ向けられていた。

口元が震え、かすれた声が漏れる。


「陸斗……。優愛……。

ごめんな……。もう限界だ……。」


その言葉は、空気を重く沈めた。

音が消える。

時計の針すら、聞こえない。

ただ、震える腕と、壊れた呼吸だけがそこにあった。

引き金にかかる指が、わずかに動く。

――止めろ。

声にならない。


私は――

目の前の“壊れてしまった命”を、どうすれば止められるのか。

必死に探すしかなかった。


その時――

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