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死球(DEADBALL)〜同じ悪夢を見る者たち〜  作者: Mr.ランジェリー


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第18話 答え合わせ

翌日。

式場には、途切れることなく人が訪れていた。

兄との別れを惜しむ声が、あちこちで重なる。


白い花の香りと、線香の煙。

それらが、ゆらりと空間に漂っていた。


足音が遠のいていくなか、

チームメイトたちは、ただ黙って――

棚橋さんたちの到着を待っていた。


日付が変わるころ。

試合を終えたばかりの棚橋さんと、奥さんの優愛さん。

そして中邑さん、柴田さんの四人が、息を切らして駆けつけた。


その姿を見た瞬間――

張り詰めていた何かが、崩れた。


棺の前で、次々と膝をつき、声を上げて泣き崩れる。


誰かが、兄の名前を何度も呼んでいた。

その声は、やがてかすれて、消えていった。


それでも、兄は――動かなかった。


ようやく、少しだけ落ち着いた頃。

父が、静かに前へ出た。


「本日は、お忙しい中……

 陸斗のためにお越しいただき、本当にありがとうございます」


父は言葉を止め、遺影に目をやった。


「ひとつ、お願いがあります。

 明日の式が終わった後――

 皆さん、我が家へ来ていただけませんか?」


全員が、迷うことなく頷いた。

その様子を見て、父はわずかに息を吐く。

そして――問いかけた。


「皆さん……。

 最近、変な“夢”を見ていませんか?」


その一言で、空気が変わった。

ざわめきはない。

だが、確かに揺れた。

互いに顔を見合わせる。

やがて、棚橋さんが一歩前に出る。


「……。

 実は……。

 昨日、ちょうどその話を皆でしていました。

 内容までは分かりませんが――

 私を含め、ここにいる全員、見ています」


父は、その答えに

どこか安堵したように目を伏せた。


「そうですか……ありがとうございます。

 では、また明日――よろしくお願いいたします」


――

そして、翌日。


葬儀、火葬を終え、

重たい空気を抱えたまま家へ戻った。

リビングには簡易の祭壇。

その中央で、兄の遺影が静かに微笑んでいる。

皆が来るまでの時間。

僕は、兄の部屋で過ごしていた。


窓の外。

夕陽が、いつもより深く、赤黒く染まっている。

まるで――

何かの始まりを告げるみたいに。

ゆっくりと、沈んでいく。


やがて光が消え、空は雲に覆われた。

ぽつり、と。

雨が、落ちる。


しばらくして――

外灯の下、黒い傘が一つ、また一つと揺れる。

校長先生。

監督。

チームメイト。

お巡りさん。


そして――

昨日はいなかった、一人の女性。

写真に写っていた、あの人。

優愛さんが、思わず声を上げた。


「……萌々? なんで……」


萌々は、泣き腫らした目をしていた。

それでも、その奥には、はっきりとした意志があった。


「陸斗君に、言われてたの。

 “今日、この時間に来て”って」


その場の全員が、息を止める。

やがて全員が揃い、父が遺影の前へと進んだ。

深く、頭を下げる。


「足元の悪い中……

 陸斗のために集まっていただき、本当にありがとうございます」


視線を上げる。


「ここにあるのは――

 陸斗が残した日記です」


机の上に積まれた冊子を、静かに示す。


「今から、この一部を皆さんにお渡しします。

 ですが――」


わずかに息を整え、


「まだ、開かないでください」


紙を手渡す音だけが、静寂に響く。

誰も、何も言わない。

ただ、その意味を測るように、

手の中の重みを感じていた。


父は一冊の日記を手に取り、ゆっくりと息を整える。

そして――


「では」


その一言で、全員の視線が集まった。


「皆さんが見てきた“夢”の――

 答え合わせを、始めましょう」


静寂が、さらに深く沈む。


「棚橋さん夫妻……そして、内藤さん」


その名前が呼ばれた瞬間。

誰もが、息を呑んだまま――

“次”を待っていた。

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