第12話 ホームランか、死球か…
ソファーで眠る海斗を見て、
陸斗は静かにカメラを手に取った。
画面に映るのは、
自分を超えた弟の姿。
穏やかに、シャッターを切る。
そして――
小さく、声をかけた。
「海斗……お父さんとお母さん……頼んだぞ」
そっと抱き上げる。
ベッドへ運ぶ。
タオルケットをかける。
もう一度、見つめる。
「海斗……大好きだぞ」
「おやすみ」
それが、最後から二番目の声だった。
翌朝。
目を覚ました海斗は、ユニフォーム姿のまま固まった。
昨日の出来事が、
夢か現実か、分からない。
スマホを手に取る。
写真。
そこには――
確かに、陸斗がいた。
「……夢じゃ、なかったんだ」
部屋を出る。
兄の部屋の前で、立ち止まる。
「俺たちなら……優勝できるよね?」
«トンッ トンッ»
返事の代わりのような音。
「だよね!」
笑う。
「優勝してくるからさ。絶対、テレビ見てよ」
「行ってきます!」
その言葉を置いて、
海斗は家を出た。
車が見えなくなるまで――
陸斗は、窓から見ていた。
「……六年間、長かったな」
誰もいない部屋に、問いかけた。
「これで、俺の選択が正しかったら……」
少しだけ笑って、素振りをしながら呟いた。
「運命を打ち返す、引き籠もり打法ってとこか…」
深くため息をついた。
陸斗の顔から徐々に笑みが、消える。
「本当は……」
声が、震える。
「もっと一緒にいたかった」
「もっと野球したかった」
「もっと……生きたかった……」
スマホに映る海斗を強く握り、
膝から崩れ、涙が溢れた。
それでも――
顔を上げた。
そこには、
甲子園へ向かう弟の背中。
「ホームランか、死球か…」




