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笑顔を創る魔導具師セレナは、今日も世界をつないでいる  作者: 八坂 葵
第15章 風はふたたび吹き渡る

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第304話 友と走る朝

「セレナ、明日仕事終わったらちょっとうち来ない?」


 ある日の仕事終わり。

 突然工房にやって来たアミーカは急な誘いをかけてきた。


「まあ明日なら何も予定入ってないし、大丈夫だけど」

「なら、キアネアちゃん連れていらっしゃい。夜ご飯もご馳走してあげるから」

「……あのさ、もしかして面倒ごとだったりする?」

「あーあ、親友の誘いをそうやって疑うんだぁ?」


 両手を頭の後ろで組んで、後ろを向くアミーカ。

 本来ならここで謝るべきなんだろうけど、長い付き合いのアミーカ相手にそんなのは不要だ。

 何せ私の質問には何も答えてないから。


「で、結局面倒ごとなの?」

「ううん、本当に単なるお誘い。まあ白状するとね、前に作ってもらった『冷却棚(フリギダリウム)』で新しいデザート作ったから試食して欲しいのと、グレッダさんとセレスさんがこの前結婚式を挙げたから、セレナにあらためてお礼したいんだって」

「あぁ、そういうことか。ならレオンやマリーナは?」

「ふふっ、二人とも貴族でしょ? ちゃんと結婚式に来てたわよ」


 おっと、ついつい忘れてた。

 特にマリーナは高等学校で長らく隠してた上、今も普段は庶民と変わらない暮らしを送ってるから余計に分かりづらい。


「あ、そうすると私だけなのか。呼ばれてないの」

「まぁ冒険者ギルドの人とかもいるらしいんだけど、セレナは特に結び付けてくれた人だから、ちゃんと別でお礼をしたいんだってさ」

「そんなのいいのに」

「そう言うと思ったから最初隠してたの。そうしたら私が疑われたからさ」

「ごめんって、アミーカ」


 彼女の袖口をつまんで謝ると、いつもの微笑みを返してくれる。


「ま、いいよ。だから明日よろしくね」

「なんかちゃんとした格好していった方がいいのかな?」

「あ、着るものは用意するって。最近来てたドレスのことをレオンくんから聞いて、サイズは合わせてあるから大丈夫だろうってさ」

「うっ……最近外食多いから大丈夫かな?」


 思わずお腹を押さえる。

 マリーナと付き合うようになってから、仕事後の夕食を一緒にすることが多くなった。

 それを知ったレオンも「俺とも付き合えよ」と、今まであまり頻繁にそんなことをしていなかったのに、負けじと機会を増やしてきた。

 おかげで私は自分が食事当番の日以外は、かなりの確率で夕食を外で食べる日が多くなっていた。



「レオンくんと体力づくりのランニングしてるんでしょ?」

「でもあれも毎日じゃないしなぁ」

「なら、キアネアちゃんと一緒に走ればいいじゃない」

「うーん、ほら一日中私に張り付いてくれてるから、あんまり朝早く付き合わせるの悪くてさ」

「じゃあ、私と走る? 実は私も早朝ランニングしてて、グレッダさんが一人は危ないからって家の女性騎士さんをお供に付けてくれてるの」

「えっ、い、いやいいよ。その人にも悪いし……」

「ふぅ〜ん。ドレス入らなくてもいいんだぁ?」

「……おともさせていただきます」


 私がなんだかんだと理由をつけて体力づくりから逃げているのを読み取られてしまったようだ。

 アミーカ相手には嘘も誤魔化しも通用しないなぁ……。


「じゃあ明日からレオンくんいない時は迎えにくるから、いない日教えてね?」

「わ、わーい、たのしみだなー」


 棒読み、死んだ目の私を見て、アミーカは手に口をあててクスクスと笑った。




 次の日、私が下宿の下に降りていくと、ちょうどアミーカたちがやってきた。

 隣には背の高い女性が一人。

 たぶんレオンとそんなに変わらないんじゃないだろうか?


「はじめまして、セレナ様。フォルティウス伯爵家へお仕えし、護衛の任に付いております、アウレリア・ウィギルと申します。アウレリアは言いづらいと思いますので、リアとお呼びください」


 そう言って頭を深く下げてくる。


「ちょっ、ちょっと、私は混ぜてもらう身だから、そんなにかしこまらないでくださいよ」


 そう言うと軽く顔だけを上げて、


「いえ、セレナ様の目覚ましいご活躍、グレッダ様とセレス様を結び付けていただいたことなど、色々とお話はうかがっております。これは私個人からあなたへの敬意としてお受け取りください」

「なら、その敬意はやめて。そういうの苦手なんだよね……」

「ふふっ、奥ゆかしい方なのですね。かしこまりました。それではここまでにさせていただきますね」

「ププッ、セレナが奥ゆかしいって……」

「アミーカっ! もー、私が言ったんじゃないからね」


 私の言葉に二人が笑う。

 納得いかない顔を浮かべてみたが、たしかに私が奥ゆかしいとか急におかしくなって、私までつられて笑ってしまった。



 三人でゆるりと走り出す。

 いつもは貴族街の中だけを王城の壁に沿って走ってるそうだ。

 王城の壁には花壇が設けられて、季節に応じて色々な花が咲くようになっている。

 そのため王都見学の中でも上位の人気コースとなっているそうだ。


 今日は工房から市場を抜けてその先の公園を周り、また工房に戻ってくるコース。

 アミーカのお願いで昨日リアさんが同じ程度の距離のコースを作ってくれたという。


「なんか、私のためにごめんね」

「いいのよ、セレナのドレスが入らなくなったらアドルフォス家に迷惑かかっちゃうじゃない」

「あー、そういう考え方もあるのか」

「セレナさんはレオン様とは長いのですか?」


 リアさんは「様」をやめてくれといったら「さん」付けに変わっていた。

 っていうか年上なんだから呼び捨てしてくれればいいのに。


「うーん、二年ちょっとかなぁ。長いと言えば長いかも」

「そろそろご結婚などもお考えなのですか?」

「けっこう聞いてくるね。うん、結婚はお互い意志はあるけど、私が魔導具師としてきちんと自分一人の成果を上げたい。工房を持ちたい。そう言ってワガママだけど少し待ってもらってるんだ」

「……素敵ですね、そういう頼らない考え方は。私も見習いたいです」


 なんか、意外と気さくな人だな。

 護衛騎士なんて聞いたからもう少しとっつきにくい感じの人かと思ってたのに。

 走る速度も私に合わせてかなり抑えめにしてくれてるし、いい人なのかも?


「そういえばアミーカは、王城料理人の話はどうなの? けっこう頑張ってるじゃない?」

「ふふっ、もしかしたらだけど、今年の終わりにある来年の採用試験に挑めるかもしれないんだ」

「えーっ! すごいじゃん、なんで教えてくれなかったのよ」


 思わず走る足を止めて、アミーカの肩を掴む。

 十一歳の頃からの彼女の夢が、いよいよ叶うかもしれない。

 その可能性に、人ごとながら心が震えた。


「ほら、試験そのものが受けられるかまだ分からないから、せめてそっちが決まってからと思ってさ。でも、思わず言っちゃった」


 そう言って嬉しそうに顔をほころばせる。

 私たちはあらためて走りながら話し続けた。


「そっかー、なんかすごく嬉しいよ。アミーカが……そっか」


 気がつけば視界が歪んできた。

 目が潤み、私は袖口でそれを拭うとあらためて、アミーカを向く。


「頑張ってね! 私、応援してるから」

「当たり前でしょ。もしかしたらまた、魔導具作ってもらうかもしれないんだから。セレナは私の一番の親友なんだからね」


 二人で顔を見合わせて笑っていると、視界の端にリアさんが眩しそうに私たちを見ているのが目に入った。

 その微笑みが、なんか全然似てないのに、思わず母さんを思い出させた。



「はぁっ、はぁっ……うわぁ、死にそう」

「セレナ、だいぶ体力落ちてるわね。明日からもレオンくんいない日は毎日迎えに来るから、頑張ろうね」


 私一人が息も絶え絶えなのに、アミーカは軽く汗をかいた程度。

 リアさんに至っては汗すらかいてなかった。

 たしかにこれは、もう少し真面目にやった方がいいかもしれない。

 ……悔しいから明日からエミリアとティミナも巻き込んでやろう。


「が、頑張ります……」


 すると、私の頭上で窓が開く音がしたかと思うと、リアさんが私を背中にかばい、腰に提げていた短剣を引き抜いた。


 一瞬遅れてトスッという軽い着地音。

 リアさんの背中からひょこっとのぞいてみると、リアさんをにらみつけるキアネアがいた。

 そして背中に庇われてる私の顔を見つけて、ようやく緊張を解いてくれた。


「あ……いた」

「どうしたの、キアネア。今日はランニング行くって伝えたよね?」

「忘れてた。起きたらセレナがいないから、びっくりして今降りてきたの」

「もー、びっくりさせないでよ」


 リアさんの背中から出て、キアネアを抱き締める。

 小さく「ごめん」とつぶやく声が聞こえて、抱き締める手にさらに力を込めた。


「ううん、いいの。心配してくれたんだもんね。ありがとう、キアネア」

「セレナさん、その方は?」

「あぁ、アドルフォス家から個別で護衛をお願いしてるキアネアです。本当は私が身元を引き受けたかったんですけど、まだ完全には出来なくて」


 そう、キアネアの貸与の契約書を焼き捨ててくれたカイル様。

 てっきりあれでキアネアを任せてもらえると勘違いしていたのだが、そうなるとキアネアとアドルフォス家の契約書が残ることとなる。

 なので今は青亜麻(ヴィラータエ)に所属しながら、カイル様との口約束で私の元で暮らしているという、すごくふわっとした状況なのだ。


「そう、ですか……いいですね。そういう風に、護衛を役割ではなく人として扱ってくれる雇い主様は」


 なんか、さっきからおかしなことを言ってるな、この人は。

 私はアミーカの側に寄り、周りに聞こえないよう耳元で質問をしてみる。


「リアさんって、誰かのこと好きなの?」

「ん? 私」


 アミーカの突然の告白に体ごと固まる。


「えっ、アミーカも女の子のこと好きなわけ?」

「やだー、違うわよ。リアが私のことを好きなだけ。私は今は応える気ないわよ。それは男女関係なしに、王城料理人っていう目標があるから。私自身の目標でもあるけど、何よりセレナと一緒に切り拓いた道だからね」


 そう言ってアミーカはウインクをする。

 そんな話をしている間、リアさんはキアネアに何かを聞いていて、こっちの話は耳に入っていないようだ。

 それより何より、アミーカは『今は応える気がない』と言っていた。

 それはつまり……?


「ま、たしかにね。今はお互いの目標に向けて頑張りましょうか」


 私は流すことにした。

 どうせ今追求したとしても、リアさんに変に期待を持たせるだけだから。



 こうしてレオンと走らない日はアミーカとリアさんと一緒に走る日が増えることとなった。

 なんかやけにリアさんからアミーカのことを聞かれる機会が増えた気がするけど。


 まぁ、彼女の恋路がうまくいくことを願っておこう。


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