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笑顔を創る魔導具師セレナは、今日も世界をつないでいる  作者: 八坂 葵
第12章 芽吹きの風

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第258話 不幸な連中

「なぁセレナ、お前のせいだよな?」

「なんで私に押し付けるのよ。こーいう時は男が責任持つものでしょ!」

「ごめん、私のせいかも……」

「キアネアは悪くないよっ。ぜーんぶレオンのせい」

「俺はこんなひどい引きしたことないんだけどなぁ」


 何を言ってるかというと、目の前で元気よく前足を蹴り、今にも突進してきそうな岩猪(ロックボア)が二体。

 いずれも体長八メートルを下回ることはないだろう。


 基本的に頭の向いた方向に突進するだけという単調な動きしかしないので、冒険者の中でもそれほど脅威とはされていない。

 ……体長五メートルくらいならね。


 いくら突進するだけと言っても、体が大きくなれば巻き込む範囲も大きくなるわけで。

 まあそれが二体ってことで分かってほしい。


「キアネア、セレナを頼む。一度避けたらすぐに俺がこいつを食らわしてやる」


 レオンは『混乱の雲(ネブラ・カオティカ)』を取り出し、今度こそとしっかり握りしめる。


「レオン、安全スイッチ忘れずにね」

「おう!」

「来る!」


 キアネアの一言がスイッチだったかのように、岩猪(ロックボア)が突進してきた。

 一匹は真っ直ぐ私たちの方に。

 もう一匹は……動いてない!?

 キアネアが私の腰を腕で抱えて左に、レオンは右に避ける。

 リオは私たちの方へ一緒に。

 すると待機していたもう一匹が、ここでレオンの方へ。


「レオン!」

「はんっ、あめぇよ!」


 レオンは一本の剣を両手で持ち、岩猪(ロックボア)を避けながら的確に前足の膝裏を切り裂いた。

 おおっ、すごいじゃん!

 さすがに体も大きいし、何より名前の通り皮も肉も固いので、今の一撃でどうこうはなさそうだけど、今の身のこなしなら危なげなくいけそうだ。

 一体だけならね。


 なんでそんなことを言うかというと、


「レオン様、また来る!」


 キアネアって戦闘中は声出るんだなぁ。

 最初に通り過ぎた岩猪(ロックボア)が遠くですでにこちらに向きを変えて土を蹴っている。

 これ、見事な連携とまでは言わないけど、間隔が短くなるから面倒だなぁ。

 何かタイミングがずらせたらいいんだけど。

 ん、まてよ?


「レオン! 岩猪(ロックボア)って魔力探知ないよね?」

「あぁ? ねぇよ、そんなもん!」


 なら!

 間に合うか分からないけどやってみよう。


「キアネア、私の体はお願い」

「ん!」


 私はポケットから水の魔石を取り出し、右手で魔力を吸い出す。

 昔は『サイフォンの原理』をイメージしないと出来なかったこれも、今や息をするのと同じように当たり前に出来る。

 左手に火の魔力を集めて、この二つを混ぜて魔力の膜で包みこんで……。

 手を前に突き出すと、岩猪(ロックボア)の目の前に拳大の水の入った球が現れる。

 そのまま水を加熱し、魔力の膜を広がらないよう今の大きさで維持して……うぅ、きついよぉ。

 こんなの思いつかなきゃ良かった。


(こんな危ないもん使うのあんたくらいよ)

(澪が変な知識持ってるのが悪いんでしょ!)

(それを勝手に持ってったのはセレナだからね?)


 まぁ、そうなんだけど。

 その時岩猪(ロックボア)の体がググッと沈み込む。

 ちょ、まだ準備出来てない!

 その時リオが「アオォォーン!」と吠えてらせん状に渦巻く風を目の前に作り出し、それを岩猪(ロックボア)へと当てた。

 半歩ほど後ろに下がった岩猪(ロックボア)

 この隙に私の準備が整う。

 すぐに水球を覆っていた魔力の膜を解除する。


「『水蒸気爆発ルプトゥーラ・ヴァポリス』!」


 すると、水がボコボコッと一瞬で沸騰し、次の瞬間空気が爆ぜる。

 バンッ! という破裂音とともに、湧き上がった熱湯、次いで衝撃波が岩猪(ロックボア)を襲った。


 小さめの水球だったことと、岩猪(ロックボア)が大きいことで一撃で倒すような威力ではないけれど、それでも顔面を揺らして突進を遅らせることは出来た。

 今なら逃げるチャンス!


「レオン、キアネア。『飛ぼう』!」


 私の言葉に二人は即座に頷き、私はレオンの背中に乗る。

 お姫様抱っこ……といきたいところだけど、こんな障害物だらけの森の中じゃ『空駆ける者(クルソル・カエリ)』から手を離して使う方が危なすぎる。


「キアネア、先に飛んで逃走経路確保だ」

「りょーかい」


 言うや否やキアネアは腰につけた『空駆ける者(クルソル・カエリ)』を起動。

 森の中だと木や枝に引っかかって使いづらそうなものだけど、この前の試運転の時よりもさらに位置を水平にしたところで起動したことで、大ジャンプというよりは低い位置を高速移動といった形で滑るように道の先へと消えてゆく。

 キアネアはこういう魔導具を扱うセンスもあるんだなぁ。


「セレナ、俺らも行くぞ。しっかり掴まってろ」


 レオンが腰に手をやり、『空駆ける者(クルソル・カエリ)』を横向きに調整する。

 その時上に上げすぎたんだろう。

 筒の部分が私のお尻に触れる。


「ひゃん!」

「へ、変な声出すな」

「レオンが悪いんでしょ。お尻に筒当たったんだもん」

「そ、そりゃ悪かったよ……」


 妙な間が流れるが、そんなにヒマがあるわけではない。

 岩猪(ロックボア)二頭が再び土を蹴る音が聞こえてきた。


「よし、行くぞ」


 私はレオンにギュッとしがみつく。

 彼がスイッチを押すと、一瞬私だけがその場に取り残されたような意識になる。

 そして次の瞬間、とてつもない力でレオンと引き離されそうになる。

 腕……ダ、ダメかも。

 そう思った時、レオンの片手が私の両手を上から押さえつける。


「絶対に離すな。お前は俺が守る」


 そう話す横顔は、いつものおちゃらけたレオンではなく、とても真剣で、とても熱く。

 心がキュッと締め付けられる感覚。

 もちろん頭では分かってはいたけど、この時初めて私はレオンが冒険者なんだなぁと感じさせられた。


 ……ナイショだよ?

 あぁ、彼といつまでも一緒にいたい。

 自然とそんな想いが湧いてきちゃったんだよね。



 ザザーッ!

 レオンが着地すると、今までのスピードがそのまま私の背中にのしかかってきたように、彼の背中に押し付けられる。


「グエッ!」

「お、おい、大丈夫か?」

「ゲホッ、ゲホッ。だ、大丈夫。あー、もう! これもうちょっと考えなきゃかもなぁ。私みたいに運ばれる側には全然優しくないわ、この魔導具」

「緊急脱出用ならこんなもんだろ?」


 そしてふと足元を見るとリオがいた。

 そういえばリオのこと忘れちゃってたけど、さすが『古・疾風犬エルダー・シルフドッグ』と言われるだけはある。

 私の魔導具なんか自力で追いつけちゃうんだね。


「ところで、やっこさんたち逃がしちゃくれなさそうだぞ?」


 遠く離れたところで二頭は、その巨体を並べて一気に跳ね飛ばしにかかる作戦に切り替えたようだ。


「んー、ならさ、こっち来る前に撃っちゃえば?」

「だな。よいしょっと」


 レオンが『混乱の雲(ネブラ・カオティカ)』を構え、すぐに発射をする。

 距離としては十メートルとちょっとといったところだろうか。

 しかし放たれた風はそんな距離を一瞬で詰めて岩猪(ロックボア)へと直撃する。

 そしてまき散らされる緑色の煙と金属音。


「よーし、方向変えてさっさと街道出ちゃいましょ」

「おいおい、まだ依頼の品採ってねえぞ」

「あ、そっか。んー、じゃあさあれとやる気ある?」


 私が岩猪(ロックボア)のいる方向を指すと、レオンは苦笑い。


「いや、一頭ならともかく二頭はごめんだ」

「でしょ? 無理しないことも冒険者の心得って言ってたじゃない。今回は失敗でいいよ。それよりもきちんとみんなに危険なことを伝えて、早く安全確保しないと」

「ふーん」


 レオンがやけに感心した声を上げて私を見てくる。


「な、何よ」

「いや、たった二回でずいぶん冒険者らしい目線が身についてるな。やっぱり話をたくさん聞いてると違うもんだなって。もっと下の奴らにも情報交換をさせるべきだな」

「そうだね、そうするといいよ。で、そろそろ煙晴れるけど?」

「おっと、キアネア、セレナかついで先に行け。俺が後ろを守ってやる」

「ん、りょーかい」


 私はキアネアによいしょっと担がれて肩に乗せられる。

 わわっ!

 こんなに細い体なのにどこにそんな力あるんだろ。


「キアネア、重くないの?」

「ん。肉体強化使ってるから大丈夫」

「へー、キアネア魔法使えたんだ。なんか動きだけですごいから、使えるイメージなかったよ」


 走り出すと間もなく岩猪(ロックボア)たちの煙は晴れたが、私たちはすでに道を変えて曲がってしまっている。

 どうやら見つけることは出来なかったらしく、


「フゴォォッ!」


 と、怒ったような鳴き声だけが聞こえてきた。



 森を抜け街道に戻ってきた私たちは、ちょうど通りがかった乗合馬車を捕まえて王都へ。

 ギルドに報告すると、タブラさんから、


「なるほどなー。レオンと一緒に組むとやけに強い魔物と出会うことが多かったが、同じタイプが揃ってんだろうな。三人が出かける時は後ろにグレッダ様でも控えさせておいたらどうだ?」


 と大笑いしながら言われたよ。

 結果、私たち三人はギルド内でしばらく『|不幸な連中《カテルウァ・インフェリクス 》』という、なんとも不名誉な名前で呼ばれることになりましたとさ。


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