第255話 それぞれのドレス
「セレナもあのドレス来たらいいんじゃないか?」
「へっ、あのドレス?」
「あぁ、あの後着る予定もなかったろ? 久しぶりにどうだ?」
唐突なレオンの質問から始まったこの話。
時間は三日ほど前にさかのぼる。
社会に初めて出て最初の年末が近づき、私はヴェルダに帰ろうかどうしようか考えていた。
いや、父さん、母さんに会いたい気持ちはあるんだけど、往復十日間っていうのがちょっとね……。
ベーネ工房は二十五日に仕事じまいをして、年明けの八日から仕事が始まる。
その間十四日間あるからまあ二日、三日はいられるわけだけど、残りの十日間は馬車上の人になるのがちょっと億劫だったのだ。
そんなことを考えていたある日。
私はグレッダさんに冒険者ギルドに呼び出された。
「あのな、セレスとの結婚だが年明けの一月に挙げることとなった」
「へー、おめでとう。やっとセレスさんも奥さんになれるね」
「あぁ、何せあいつは貴族の立ち居振る舞いが苦手だったろう? それで遅くなってしまってな」
「まあ奥さんになるんなら手抜けないよね、そこは」
いつか自分にも降りかかるかもしれない問題だということはこの際考えていない。
もしその時が来たら頑張ろうとは思ってるけど、セレスさんの記録を塗り替える変な自信だけはある。
「で、やはり貴族だけのパーティーになるのでセレナ嬢は呼べないのが心苦しいのだが」
「なーに私なんかに気遣ってんのよ。私だって貴族の立ち居振る舞い何か出来ないんだから、そんなところに呼ばれてグレッダさんに迷惑かける方が嫌だもん」
「まあとは言え俺も庶民との付き合いはそれなりにあるからな。そちらは別で後日やりたいとは考えてる。だが、日取りが決まったことを伝えて祝ってもらいたいやつもいてな」
「まさか父さんってこと?」
「話が早くて助かるな。あとはレオニスもだな。二人を年末に屋敷に招待しようかと思うんだが、あいつらの予定は大丈夫か?」
「え、知らないよ。でも父さんならお酒エサに釣れば一発で来ると思うし、レオニス先生なら奥さんと子どもへのフォローもしておけば大丈夫じゃない?」
実際にはどうか知らないけど、まあその対応でまず間違いないと思う。
去年の年末には奥さんと子どもへのフォローを入れることで、無理やりレオニス先生を呼び出すことに成功しているし、人の卒業式で酒のことを大声で質問してくれた父さんなら、きっといい酒を出すと言えば一も二もなく飛びつくだろう。
で、母さんは父さんになんだかんだべた惚れしてるので、一緒にくっついてくると。
「そうしたら去年同様、年末に屋敷で宴を開くから、セレナ嬢とレオンもぜひ出席してくれないか?」
「ん、いいけど。また増やしてもいい?」
「あぁ、構わんぞ。どうせアミーカ嬢はうちにいるし、あとはマリーナ嬢とパステル嬢、他にはいるか?」
「んーと、伝えてみないと分からないけど、うちの師匠とクラリスさん、エミリアの三人かなー。『降り注ぐ光』で一応メンバーだから関連性高いし」
そこまで話して私はだいぶ前に師匠から聞いた気になる話を聞いてみた。
「そういえばさ、師匠が昔グレッダさんに母さんの件で借りがあるから頼まれると断りづらいって言ってたけど、何かしたの? あぁ、いや、母さんがしでかしたのは分かるんだけど」
「ん? どれのことを指してるかがわからんな。マリエッタ夫人の異名を付けたのは俺だという話は前にしたことがあったよな」
「あぁ、『台風娘』ね」
「俺とて一度や二度のトラブルでそんな酷い異名をつけようとは思わん。まぁ、そういうことだな」
「つまり何度もフォローしてくれてたってことね。……なんかごめん、親子そろって」
そう謝るといつもの大笑いで片づけられた。
ほんと、セレスさんが来てくれて良かったよ。
こんな良い人がいつまでも独り者って心配してたからなぁ。
工房に帰って師匠たちに聞いてみると、師匠とクラリスさんは貴族が苦手なのもあるけど、華やかすぎる場所が得意ではないと断られてしまった。
うーん、残念。
エミリアは……
「いやよっ。確かに帰郷はしないけど、空いた時間は魔導具技術向上にあてたいの」
と、にべもなく断って来たので、担当者としての責務だと理屈をくっつけて無理やり引きずり出してやった。
どうせ一人で三十分ごとに悩む無駄な訓練をするつもりなんだから、それなら工房が休みの間丸一日付き合ってやると取り引きを持ちかけたのだ。
「でも、私そんな貴族の屋敷に着ていくような服持ってないし……」
で、レオンにそういう当てはないか質問をしたら冒頭の言葉が突きつけられたわけだ。
「んー、じゃあエミリアが採寸に行くときに一緒に行くよ。もし体型変わってて入らなかったら嫌だし」
「ああいうドレスは多少体型が変わっても大丈夫なように作ってあるらしいから問題ないとは思うけどな。じゃあ予定入れていいんだな?」
「うん、お願い」
この話をマリーナにしたら、
「ずるーい、セレナが着飾るなら私もする!」
と文句を言ってきた。
「あれ? でもさ私のドレス確かカイル様が高等学校時代に『君たちに』って贈ってたはずだから、マリーナのやつもあるんじゃないのかな?」
レオンに聞いてみたら結局あれからあまりそういう機会がなくてほぼ死蔵状態で服飾店に保管されているらしい。
さすがにドレスがかわいそうだからそれ着ていこうとマリーナには伝えたが、そうなると今度はアミーカ一人が調理着で浮いてしまう。
心配になってグレッダさんに聞いてみたら、
「『この調理着が料理人にとっては最高のドレスですから』だとさ」
と、なんとも彼女らしい言葉で返されてしまった。
あとは……父さん、母さんはどうせグレッダさんの方でするだろうし、パステルさんも王都が長いし、去年もそれなりのドレスで来てたから多分大丈夫。
ん、こんなもんかな。
「セレナ、お出かけするの?」
あ……そういえばキアネアはいつも話す人がいないから護衛のまま外で待機してたみたいだけど、今回はレオンにマリーナやアミーカもいるし、エミリアもなんだかんだと世話焼きだしな。
「あのさ、グレッダさんのところでパーティーやるんだけど、キアネア一緒に行く? レオンやマリーナもいるし、アミーカは料理作るからずっとはいられないけどいるし、エミリアも話したことあったよね?」
「カイル様も来る?」
おっと、まさかのカイル様苦手なのかな?
とは言え隠しても仕方ないしな。
「うーん、ちゃんとは聞いてないんだけど、今までの感じからすると来てもおかしくないかな」
「んー……」
考え込んでるなぁ。
きっと苦手なんだろう。
でも私からの誘いと、今まで培ってきた人間関係を天秤に載せてなんとか納得してみようとしてる気がする。
私はそうやって考え込んでくれただけでもう十分だけど。
「セレナ、いてくれる?」
「うん、もちろん! あ、私の父さんと母さんも来るからあらためて紹介しないとね」
「分かった、一緒に行くよ」
おおっ!!
まさかのビッグゲストの参戦が決まった!
ちゃんともてなすように頑張らなきゃ。
キアネアのドレスも手配し、裏からこっそりアミーカにキアネアが喜びそうなものを作ってもらうようお願いもしておいた。
ちなみにマルクスとリディアにはわざと声をかけてない。
二人でこれからを頑張ろうと一緒に歩んできた一年目。
それにご両親とも仲良くしなきゃいけないから家族で過ごしてもらおうと遠慮したのだ。
ちなみにカリウスは鍛錬をしたいからと断ってきたとレオンから連絡があった。
……ま、いいけどさ。
あんた卒業間近にもっと積極的に交流持とうと頑張ってたんじゃなかったっけ? とは言わないであげた。
そして迎えた十二月三十一日の昼過ぎ。
私とキアネアちゃんは迎えに来てくれたレオンと一緒に馬車でグレッダさんの屋敷へ。
ふふっ、楽しみになって来たなぁ。




