第253話 思わぬアイデア
さて、質問です。
仲間も後輩も揃ったレストランでの夕食シーン。
とってもワクワクして、懐かしい、楽しいシーンなのに、なぜ私は冷や汗を流しているのでしょうか?
「帰る前に寄れと言ったな、鳥頭?」
「い、言ったっけ?」
答え。
緑色の悪魔に睨まれ説教されてるから。
いやさ、確かに帰る前に寄れとは言われてたけど、私からしたら商談が控えてたんだから仕方なくない?
そういうことを伝えたんだけど、それならそれで伝言なり出来たろうと言われて追い詰められて今に至る。
「うふふ、セレナが怒られてるのを見ると、高等学校に帰って来たなーって思うわね」
「ほんとね。あの子成長してないんじゃないの?」
マリーナ、リディア。
昨日の夜のガールズトークでいじめられた分と合わせて、絶対に仕返しするからね!
「まったく。まあ今日俺に声をかけたことだし、こんなところで許してやろう」
そう言うとレオニス先生はカバンから小さな包みを二つ取り出して私とマリーナに渡す。
包みを開いてみると中には水の魔石が、マリーナには氷の魔石が入っていた。
いや、でもこの魔石、なんか通常よりも少しだけ色が強いような……?
「最近出来たばかりの高出力の魔石だ。同じ大きさの魔石よりも出力がおよそ三十パーセント増している」
「三十パーセント!?」
「そうだ。王城の魔石部門で最近新しい精製方法を見つけたらしくてな」
「ちょ、ちょっと待って! なんで先生がそんなこと知ってんのよ」
王城の情報なんてそうやすやすと手に入るものじゃない。
およそ十ヶ月王都で働いて、グレッダさんやカイル様というパイプがある私だって、今までそんな話聞いたことがない。
「あぁ、魔石部門に知り合いがいてな。元々同じ研究所だったんだが、親の家業を継ぐと辞めていったんだが、まさか魔石製造とは思わなくてな」
「そ、それで先生のところに贈られた理由は?」
「俺の研究室のことと、黎明祭のことを知ってるからな、やつは。俺に預けておけばまた楽しいことを思いついてくれるだろうと期待して送ってきそうだ」
なんて適当な理由だ。
国家機密の魔石製造の最新情報を『楽しそう』という理由だけで横流すとは……。
あ、でも『降り注ぐ光』のやり取りは似たようなもんだっけ。
そう考えるとやっぱりビジネスとは言っても人と人のつながりって重要だね。
「そうなるとほぼお前たちの功績だからな。分けてやろうと研究室で待っていれば、とっくの昔に帰ったと言われた時の俺の気持ちは分かるか?」
頭を拳でグリグリとやられる。
うーん、これは私が悪い。
仕方ない、甘んじて受け入れよう。
「あっ、先生、このペン使わせてもらってるよ。すっごく使いやすくて重宝してる」
話をそらすため、あとは単純に感想を伝えるために私は懐から『旅立ちの筆』を取り出して見せる。
一応使うたびに軽く乾いた布で拭いてるのでまだまだきれいだ。
「ほぅ、お前にしては大切に使ってるようだな」
「だってここで汚いペン出したら死ぬほど怒られるでしょ?」
「当然だ。どれほど開発に時間をかけたと思ってる」
「まぁねぇ、魔力で『書く』とか変態じゃないと思いつかないよね」
「ほぅ……」
ゆらっと立ち昇った怒気を感じ取り、私はティミナの席の後ろに逃げ込む。
「ちょっ、セレナ先輩、私関係ないし! ……でも先生、それすごいですね。私たちも欲しいです!」
「ん? あぁ、お前とクーラの分はこれから作るぞ。去年よりもいいものをな」
ジロリと私を睨みながら、当てつけのようにそんなことをいう。
いいものたって、魔力効率上げる以外にやることなさそうだけどね。
あとは外装を変えるとか……外装?
「あー!」
「ひゃっ!」
「なんだ、突然大声を出すな!」
私はマルクスに駆け寄り、手を取る。
「マルクス、外装、外装変えよ?」
「外装? なんのことだい?」
「ちょっとセレナ、近いわよっ!」
リディアに怒られたので手を離すが、私の胸のドキドキはおさまらない。
「子ども用のアイロンなら、外装でいろんな模様とか付けられるようにしてさ、みんなと違うのを持てるようにするの。みんなで比べ合ったりして、で、外装だけはすぐに付け替えできるようにしたらちょっとした売上にもつながるよ」
「なるほどね。それはちょっと面白そうだね」
「ねっ、ねっ? よーし、またやる気出てきたぞ!」
正直アイロンの手作りは悪くないアイデアだと思ってたけど、何か一つ足りないと思ってたのも確かだ。
それがまさかこんな関係ない場所から浮かんでくるとは。
私はレオニス先生のところに行って握手し、手を大きく振る。
「先生もありがと! おかげで面白いこと思いついたわ」
「それはいいがお前が何を思いついて何に活用しようとしてるかわからん。説明しろ」
みんなの前で手作りアイロンの計画を話すと、レオニス先生から呆れたような目を向けられた。
「結果的にお前のしでかしたことにお前が責任を取れと押し付けられただけだな」
「うっ! そんな本人が気づいてることをいちいち明らかにしなくていいのよっ! それに黎明祭の難しさはティミナだって責任が……」
「でも先輩、ここでしか言えないですけど、そもそも私の魔導具のベースって先輩が考えたやつですよ?」
「ぐっ! ティミナ、あんたまで私を追い詰めるの」
マリーナに抱き着いて、泣いた真似をしていると、みんなから冷ややかな視線が向けられた。
まったく、冷たいよね。
まぁそれだけ私を知られてるってことでもあるけどさ。
私はすぐにマリーナから離れて、今度はカリウスへ質問をする。
「そういえばさ、卒業課題のあの危ない棒。レオンはなんだって?」
「あぁ、街中では使えないが緊急時の手としては悪くないと言ってたぞ」
「ふーん。ならさ、カリウスのそれ、私も使ってみてもいい?」
「ん? 構わんがあんなものを作るなと怒ってなかったか?」
「それがねぇ、経験すると分かるのよ。どうしようもない時ってあるんだなって」
昔の私が倒れた時のことを思い浮かべたのだろう。
みんなの目がほんの少し伏せられる。
「でね、レオンもそうだけど、マリーナとアミーカの姑二人からの許可ももらわないと私冒険ついていけなくてさ。だからやりすぎくらいでいっかな?って思って」
「そうか。なら一つだけ条件をつけていいか?」
「なに?」
「セレナが作ったものをセプテントリオの冒険者ギルドの俺宛に送って欲しい。俺もセレナがどういうものを作ったのか知りたいからな」
「あー、そんなこと? 当たり前じゃない。アイデア借りる以上きちんと送るわよ。なんならそれベースにまた作り直してもいいし」
「そうか。では楽しみにしている」
よしよし、これで大出力は出せるから、あとは実際に魔物にききそうなことを考えて作ってみよう。
じゃないといつまで経ってもレオンと一緒に冒険に行けないから、彼の専属魔導具師らしい動きがしづらくて仕方がない。
「あ、先輩。私とクーラですけど、今回の黎明祭も出場してるので」
「えっ! また?」
「えぇ。去年先輩が出られなかった雪辱を私たちが晴らそうって約束したんです」
「あんたたち……ふふっ、後輩に負けてみじめなことにならないよう気を付けなさいよ」
つい憎まれ口をたたいてしまったが、彼女たちなら大丈夫だろう。
それで思い出した。
二人とも一定以上の腕を持ってるってことは……。
「二人とも就職先は決まったの?」
「いえ、まだ考えてないですよ」
「そう。ならうちに来てもいいからね? 師匠には言っておくから」
「そ、そんな簡単なものなんですか?」
「え、私の時なんて適当すぎて横で聞いてたレオンが頭抱えてたから大丈夫じゃない?」
あ、でも師匠は私を知ってたからか。
まぁでもこの二人なら私の口添えがあれば大丈夫だろう。
「ちょっと、セレナ。いい人材勝手に取らないでよね。うちにだって欲しいんだから」
「マリーナのところはちょっと特殊じゃない? 作らないで研究したいなら止めはしないけどさ」
「あ! 私研究の方に興味あります!」
手を挙げたのはクーラ。
まさか、これ、この場で職が決まったりしないよな?
「ま、二人ともその気があるなら早めに連絡ちょうだい」
「「はいっ!」」
こうして私とマリーナの短い帰省……もとい商談は終わり、また乗合馬車に揺られて王都へと戻った。
しっかし、研究室の一年生二十人かぁ。
クラスの三分の二が入ってる計算になるから、レオニス先生死んでるだろうなぁ。
私は王都に戻ったら胃薬と栄養薬の『癒す粉』でも送ってあげようと思った。




