第249話 需給の不一致
「ねーちゃん、これじゃおもしろくないよ」
ズバッと断じられて、私は何度目かの心に傷を負う。
子ども用魔導具の開発ということで子どもに話を聞いてみて、彼らの好きなことと魔導具をかけ合わせたものを考えてみた。
今日持ってきたのは、鬼ごっこ好きな子のための『追いかけっこボール(仮称)』だ。
芯は固いけど、外側は柔らかい素材で包み込み、穴をいくつも開けて風をランダムで出るようにしたこれを、最初に捕まえた子の勝ちというゲーム。
最初こそ目を輝かせてやってくれた三人は、三回もするとパタッと興味をなくし、冒頭の言葉のナイフが飛んできたわけだ。
「鬼ごっこは、つかまりそうになるやつが、ギリギリでかわしたりするのがおもしろいんじゃん。これだとつかまりそうになってもまっすぐ進むときあって、たのしくないよ」
「そーだね。それによく見てるとなんか動きいっしょなときあるし」
うぐっ!
実はそこには気付いていた。
完全ランダムなんて出来るわけがないので、いくつかのパターンの回路を組み込んで、それを切り替えて誤魔化してたのだが、あっさり見破られるとは思わなかった。
お子さま、恐るべしだ。
「はぁ、ダメかぁ」
「まーまー、落ち込むなよねーちゃん」
こいつはいつから『おねえちゃん』から『ねーちゃん』に呼び方変えたんだ?
いや、しかし失敗作を作った今の私に言い返す元気はなかった。
「それにね、おねえちゃん」
そう呼びかけてきたのは紅一点の女の子。
「これ、わたしはたのしいけど、これがたのしいからまどうぐしになるかって言われると、あんまり思わないかも」
心に刺さったクサビに、女の子が追い打ちをかけてきた。
もう私の心はボロボロだよ……。
あー、今晩絶対にレオンを捕まえてヤケ食いしてやる。
私は芝生に寝転んで、三人を見上げる。
「ねぇ、逆に作ってみたい魔導具とかってある?」
あんまり期待してなかった質問だったけど、予想外なことに三人ともが一致した答えを返してきた。
「あれほしい。はさんで服のばすやつ」
「はさみこみしきアイロンだよ」
「あれべんりだよねー」
は?
いや、知ってる魔導具とか言う前に、なんでこんな子どもたちがアイロンなんか欲しがってるんだ?
よくよく聞くと、王都では小さい頃から身の回りのことは自分一人で出来るよう教育されてるそうで、挟み込んで引っ張ればシワの取れるマルクスのアイロンは、その楽しさも相まってお子さまたちの間で人気らしい。
けど、肝心の売り手がウルヴィスにいるもんだから、なかなか買えないそうだ。
私の六歳の頃なんて身だしなみとか自分の服のことなんて母さんの仕事だったのに。
王都だからなのかな、それとも時代なのかな?
しかし、これはマルクスに伝えてあげたら喜ぶんじゃないだろうか。
彼の開発したこの魔導具は黎明祭の決勝で上位入賞してないので保護はされてないはず。
ということはいくらでも作って広めていい魔導具となる。
けど、私が作ってこの子たちに渡すだけではつまらない。
どうせなら、この子たちが自分で作ったアイロンでお手伝いを出来る。
そうなったらどれほど感動するだろうか。
そして、きっとそれは将来的な魔導具への興味へと繋がってくるはずだ。
「ん、そしたらそれ考えてみるよ。ありがとね、みんな」
「おー、がんばれよ。ねーちゃん」
「がんばってねー、まほうつかいのひとー」
「きたいしてる」
……私はあの女の子にとっていつまで魔法使いの人でいるんだろ?
毎回何かしら一つ気になることを抱えつつ、私は工房へと戻る。
「ししょー、ししょー、どこ?」
「うるさいよ、セレナ。いつも部屋にいるって分かってんだろ。さっさと来な」
もちろんわざとだ。
意地悪な試練を与えた分、少しくらいは仕返ししてもいいよね?
私は師匠の部屋に入り、先程の話について話した。
出力自体を既製品よりも抑えて、ブロックごとに大まかに分けたものを組み立てたら完成させられる、アイロンキットを作る。
そしてここからが肝心だけど、魔石自体はベーネ工房で売り、最後の完成はここで見せること。
そうすることで、子どもたちに魔導具工房を見学する機会を与えられるし、魔導具師がすごいということを見せられるので、子どもたちの憧れの存在になれる……かも?
「なるほどね。なんでアンタは毎回素直に課題に沿ったものを考えようとしないかね」
「あはは、だってこのボール持ってったらつまんないって言われちゃったんだもん」
「ん? どういうことだい?」
私は公園で出会った子どもたちから聞き取りをしたこと。
聞き取りの結果思いついたものを試してもらって、瞬殺されたことを説明した。
「ほぅ、直接子どもにね。アンタ苦手とか言ってなかったかい?」
「魔導具作るのに必要なら苦手も何もないじゃないですか。それに、歯に衣着せぬ発言でダメージ大きいときはありますけど、隠さない分楽かもって感じてきてますよ」
「アンタがねぇ。ま、アイロンの件は仕方ない、認めてやろう。ただ、子どもたちの件については使いっぱなしにするんじゃないよ」
「もちろん。ちゃんと考えてますって」
さーてと、アイロンどうしようかな。
ぶっちゃけマルクスとリディアに手紙書けば済む話なんだけど。
どうせだから久しぶりに遊びに行ってみようかな。
「ししょー、ウルヴィス遊びに行ってきていい?」
「いいわけないだろ。何のために?」
「アイロンの考案者に許可取るために」
「ふんっ、どうせ早すぎる同窓会を開きたいだけだろ、お前は」
あーあー、見透かされてる。
「いいかい、高等学校の同級生とは言え、今回は工房と工房の取引だ。関係に甘えずに、きちんと礼を尽くして頼んでくるんだよ?」
「えっ、ってことは?」
「お前なんかが一週間いなくてもたいして困りゃしないさ。行ってきな」
「わーい、ありがと、ししょー!」
師匠に抱き着くと、案の定嫌そうな顔をされたけど、私はちゃんと見たからね?
離れ際、少しだけ笑ったの。
教える人と教わる人、雇う人と雇われる人。
そんな関係性ではあるけど、私の中にはちょっと失礼な、でもほんの少しだけ憧れのある言葉が浮かんだ。
おばあちゃん……。
この人をそんな呼び方したら絶対に杖で殴られるか、お尻をひどい痛さで殴られるに決まってる。
でも、いつか、いつかそう呼んでみたいなと、そう思った。




