第248話 未来への布石
「あんた、子ども用の魔導玩具作りな」
秋も深まり、冬の気配が見え隠れし始めた、ある日の工房。
私は師匠の部屋に呼び出され、そんなことを指示された。
「ししょー、何言ってるんです、突然。私には『降り注ぐ光』の企画が……」
「あんたは何者だい?」
「ま、魔導具師です」
「なら、作りな。魔導具に貴賤はないよ」
ごもっとも。
「ちなみに子どもってどのくらいの年齢指してます?」
「セレナ、それも考えるのさ。私はマリーにあれこれ指示したことなんかないよ」
うわぁ、ムカつく!
母さんを引き合いに出されるのが一番腹が立つ。
よーし、やってやろうじゃんか。
師匠がぐうの音も出ない結果を出してやる!
◇◆◇
と、思ってた私もいました。
「はぁぁぁぁ……」
「ちょっとやめてよ、うっとうしい」
エミリアの毒舌は今日も絶好調だ。
今日は財務モードじゃなくて魔導具師モード。
なので私が隣で指導をしてるんだけど。
「ねぇ、おもちゃで遊んでたのって何歳ごろまで?」
「えっ? そうね、六歳頃かしら」
「その先は?」
「うちは七歳からはもう商人の勉強始めてたからね」
おぉ、スパルタ。
五歳で焼き付けの練習を始めた私ほどじゃないけどね。
けど、今回の指示はそこがネックだった。
なにせ子供の頃の思い出は、ほとんどが魔導回路の焼き付けの練習で、おもちゃで遊んだ記憶がないのだ。
遊びとなるとリオとかけっこしたり、近所の子たちとかくれんぼや鬼ごっこ。
なので何も思いつかず悩み中というわけだ。
「っていうかさ、アンタ大切なこと忘れてない?」
「何がよ」
「私たちの子どもの頃と、今の子たちって遊ぶおもちゃ一緒なの?」
「あっ、そっか」
「何かを生み出すなら市場調査は必須よ。それくらいは覚えときなさい」
「分かった、行ってくる!」
「えっ、ちょっ、セレナ、私の指導しなさいよー!」
エミリアの言葉も耳に入らず、私は上着を掴んで街へと飛び出した。
「魔導玩具? なんだいそれは。子どものための遊び道具なんかにそんなに金かけたもの使うなんざ、お貴族様くらいのもんさ」
「子どものおもちゃ? うちは魔導具店だぜ、お嬢さん」
魔導玩具について、魔導具店を回るとだいたいこんな回答ばかり。
まあたしかに子どものおもちゃに魔導具なんて聞いたことはないかも。
なら、師匠はなんであんな指示をしたんだろ?
私はぶらぶらと当てもなく歩いていると、公園が見えてきた。
中には追いかけっこをして遊んでる子どもや、犬の散歩をしてる夫婦など、様々な人がいる。
いっそ聞いてみるか。
私は子どもたちに近寄っていく。
「ねぇ、君たち」
「なーにぃ?」
「お姉ちゃんだーれ?」
「知らない人と話しちゃダメだよ、ふたりとも」
くらっ。
も、もうダメかも。
私、大人と話しすぎてきたな。
同時に話してくるこの子たちの話し声を、耳が自動的に蓋をした。
「あ、あのね、私は魔導具師やってるセレナって言って」
「まどーぐし?」
「あ、それ知ってる! まほう使う人だよ」
「ねぇ、さらわれちゃうから行こうよー」
うん、三人目のボク。
正しいことを言ってるんだろうけど、少し黙っておこうか?
じゃないと、お姉ちゃん泣いちゃうぞ?
とりあえずどうにかなだめ、すかし、おやつを与え聞き出したところ、この子達が六歳くらいの子たちで、おもちゃを使って遊ばないらしい。
もう少し前に使ってたおもちゃも、手作りしてもらった人形でおままごととか、積み木とか、私でも聞いたことのあるものばかり。
あとびっくりしたのが、魔導具師への興味の低さ。
しかも原因は私。
黎明祭で様々な職業の最先端を王都で見られるようにしたので、王都での認知率は非常に高い。
そこで内容を見比べた人たちが、『魔導具師って難しい』と感じてしまい、頭が良くないとなれない狭き門と感じてしまったようだ。
「あー! そんなことになるなんて思わないじゃんかぁ」
私が頭を抱えてしゃがみ込むと、魔導師と間違えてた女の子がいいこいいこをして慰めてくれる。
うぅ、六歳になぐさめられる十六歳はカッコ悪すぎる。
「じゃあさ、みんなの周りで魔導具って何知ってる?」
「えーと、ランタン?」
「りょうりするやつもそうだよね?」
「そこのがいとうも、あのふん水もまどうぐって聞いたよ」
ふむふむ、生活魔導具の認知はあるわけね。
ただ、遊びと結びついてないんだ。
「たとえばさ、みんなで遊ぶときに、一番楽しいのって何かな?」
「やっぱり鬼ごっこだよな」
「私はおにんぎょうさん遊びも好きだよ」
「ぼくは……」
三番目の子がそこで言い淀んでしまった。
なんだろ?
そんなに言いづらい質問してないと思うけど。
「何か言いにくいの?」
「あの、おべんきょう好きで……」
「えー、へんなやつ」
「わたしべんきょうきらーい」
残りの二人の言葉を聞くと、三番目の子は顔をゆがめて泣きそうになる。
私は思わず彼を抱き締める。
「うん、勉強好きなんてカッコいいじゃん! 私はそういう子もいていいと思うよ」
「えー、ねえちゃんもへんなやつー」
「ねえ、『騎士になりたいとか変なの』って言われたらどう思う?」
するとその子は見る間に目がうるみ、溜めることなくあっという間に泣き出した。
「あーん、おねえちゃんがいじめるー!」
「わー! ごめんごめん、いじめてないよ。ほら、泣き止んで」
「うっ、うっ……」
まずい、つられて女の子まで。
もー、仕方ない!
私は三人まとめてガバっと抱きしめた。
急にそんなことをされて驚いたのだろう。
みんな一瞬止まる。
その隙をついて私は話しかける。
「ねぇ、みんな好きなものは違って当たり前だよ。だから、バカにしないで応援してあげよう? お姉ちゃんのお友だちも魔導具師じゃないけどとても頑張って、応援してるんだ」
そう、いつだって。
ね、アミーカ。
「そーなの?」
「うん、だから仲直りしよ。ごめんね、お姉ちゃんのせいで」
三人の手を取って私はそれを両手で包み込み、額に当てる。
「みんなの夢が、ちゃんと叶いますように」
ポッとほんの少しだけみんなの手が温かくなる。
一瞬火魔法で温めただけ。
それこそ子供騙しだけど、ちょうどいい演出になるだろう。
「なんか、手、あたたかかった」
「うん、ふしぎ」
「なんで?」
「ふふっ、お姉ちゃんのお願いが届いたのかもね」
私は彼らの頭をそれぞれ撫でる。
うん、こんなもんだな。
「みんな、ありがとね。また会ったら話聞かせてね」
「うん! ばいばい、おねえちゃん」
「ばいばーい、まほうつかいさーん」
「またね……」
私は手を振って彼らと別れて公園を出た。
その頃には師匠がさせたいことがなんとなく見えてきた。
きっと、将来の魔導具師候補を減らさないための、子どもが興味を持つような玩具作り。
十歳以下の子たちの興味を引くのは大変かもしれないけど、どうにかやり遂げたい。
まずはあの子たちの目を少しでも開かせられたら。
ある意味今までで一番の難題を前に、ようやく私の心は跳ねるように弾み出した。




