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笑顔を創る魔導具師セレナは、今日も世界をつないでいる  作者: 八坂 葵
第12章 芽吹きの風

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第237話 迷子になった魔導具

 あれっ、落華摘粉(フロス・プルヴィス)使うのはいいけど、あれってどこやったっけ?

 ウルヴィスで作ったやつは研究室にあげてきたけど、王都で作った一台があったはず。

 たしか最後は師匠のところで試飲会をしてた記憶があるけど……。


「パステルさん、ちょっと工房戻るね」

「えっ、魔導具は?」

「たぶん工房にある」

「じゃあポーション持ってそっち行きましょ。その方が早いわよ」


 よほど早く試したいらしい。

 パステルさんの顔に「やってみたい!」という文字が活き活きと踊ってるみたいだ。

 なんか、久しぶりだな。

 何も背負わないで、ただバカみたいに、とにかくやってみたいっていうこの雰囲気。

 アミーカとのいたずらや、マリーナとの魔導具実験。

 楽しい思い出が蓋を開けて心に湧き出てくる。


「よーし、じゃあ行こう、パステルさん!」

「うんっ! 行きましょ、セレナちゃん」


 二人していそいそとポーションを詰めていると、来客があった。

 パステルさんが玄関に行き、戻ってきた時にはレオンがいた。


「あれ? 何してんの、こんなとこで」

「いや、ポーションの話で出ていったから、もしかしてここかと思ってな」

「ふぅん、気にしてくれたんだ?」

「ばっ、馬鹿野郎。パステルさんに迷惑かけてねぇか心配になっただけだ」


 プイッと横を向くが、耳の赤さは隠せない。

 分かりやすい反応に、思わずパステルさんと顔を見合わせて、大笑いしてしまった。


「まったく、王都の女どもは……。で? なんか出かけるところだったか?」

「あぁ、工房戻ろうと思って。落華摘粉(フロス・プルヴィス)あるはずだから」

「ん? もうねぇぞ、それ」

「えっ! なんで、どーいうことよ!」


 聞けば、ずーっとベーネ工房に置きっぱなしにしていたので、師匠が邪魔だと怒ったらしい。

 危うく捨てられそうになっていたところに、たまたまレオンが依頼の品を納めに来たそうだ。


 あわてて引き取り、グレッダさんに相談したら、どうせ冒険者ギルドでも工場を建てる時の参考にしたいからと、屋敷に持ち帰ったらしい。


「俺もグレッダさんも仕組みは聞いてたからな。グレッダさんの家とギルドの魔導具師に説明をしてお役御免になったから、今は調理場で使われてるはずだぞ」


 持ち主のいないところでなんて勝手なことをしてくれるのか。

 いや、まあ師匠に甘えてた私も悪かったけどさ……。


「なら、フォルティウス邸行きましょ」

「グレッダさんは今日は王城だから一日いねぇぞ?」

「あら、忘れたの? あそこにはあと二人仲良しがいるのを」

「あー、だったな。じゃあそれ持ってやるよ」


 レオンはポーションの詰まった箱を軽々と持ち上げると、外に向かって歩き出す。


「やったね、パステルさん。楽できたよ」

「セレナちゃん、さすがに少しは感謝してあげないと、レオンくん泣くわよ?」

「大丈夫! レオンだから」


 振り返って私をジロッと睨んだレオンに笑顔で手を振っておく。

 レオンは諦めたように大きなため息をついて、また前を向いて歩き出した。


 ◇◆◇


「もー! 来るなら前もって連絡しなきゃダメじゃない。セレナもそろそろ貴族との付き合い方覚えなきゃダメだよ?」


 フォルティウス邸に着いて、アミーカに会うなりいきなり怒られる。

 私の故郷ヴェルダの初等学校からの親友。

 あの頃は『つむじ風コンビ』として、学校中のあらゆる場所で二人でいたずらを仕掛け、先生たちを困らせたものだ。

 それが今や貴族のお屋敷で料理修行をして、王城料理人を目指してるのだから、人ってホントどう変わるか分かんないよね。


「聞いてる?」

「聞いてる、聞いてる。ごめんって」


 なお、それだけ古い付き合いなので、遠慮なしに怒ってくる怖い相手でもある。


「それで? 今日は何の用なの?」

「うん、落華摘粉(フロス・プルヴィス)あるよね? それを使わせてもらいたいの」

「別にセレナのやつだからいいけど。何に使うの?」


 私は今回の話をアミーカに語って聞かせる。

 もしこれがうまく行けば、かなりの革命でもあるということも。


「うーん、話は分かったし、セレナのものだから私が何を言える立場じゃないんだけどさ」


 アミーカにしてはやけに奥歯にものが挟まるような言い方だ。

 何か気になるんだろうか?


「ポーションのニオイ、落華摘粉(フロス・プルヴィス)に付いちゃわないかな?」


 あー、なるほど!

 料理で使ってるから気になるのか。

 ちょっとそこは盲点だった。


「そうね、たしかにポーション独特の薬品臭さは、もしかしたら少し残っちゃうかも」

「でも他の時は? 紅茶とかも香りあるでしょ?」

「うん。だから今まで一度使ったらどのくらい置いたらニオイが抜けるかを調べながら使ってたの」


 けっこう細かいことをして使ってくれてたんだな。

 アミーカの研究熱心なところを垣間見て、私はすごく嬉しかった。

 私が欲しいから作った魔導具だけど、大切に使ってくれようとしてる。

 こういうのを見ると、魔導具を作っていて良かったなと心から思わされる。


「うん、分かった。じゃあそれはそのまま使っていいよ。また新しいの作るよ」

「えっ? でもそれだとセレナのやりたいことが……」

「素材さえ揃えちゃえば一日で作れるし。素材もそんなに難しいものないから、明日には出来るんじゃないかな」


 そう話すとレオンが少し心配そうな顔をして声をかけてきた。


「なぁ、それって冒険者ギルドで工場建てるんだよな? そうポンポンと新しいの作っていいのか?」


 あ、そっか。

 すっかり忘れていた。

 んー、どうしよう。


「それならさ、パステルさんのところと提携しちゃえばいいんじゃない?」

「提携?」

「うん。落華摘粉(フロス・プルヴィス)の所有権はギルドにして、パステルさんに貸し出すっていう形をとる。で、パステルさんの方で冒険に役立ちそうなものが出来たら、優先的にギルドが買い取るっていう契約にする。これならどちらにも得でしょ?」

「お前はポンポンと、よくまあ思いつくな。パステルさんはそれでいいんですか?」

「いいわよ。こんな面白そうなもの使える方がメリット大きいもの。それに、ギルドなら支払いの心配する必要もないしね」



 こうして私は翌日を待ってグレッダさんからも正式に了承をとって、三台目の落華摘粉(フロス・プルヴィス)を作った。

 結果的にポーションをまた持ち帰らせたレオンには悪いことをしたけど、これでようやくポーションの粉末化に挑める。


 これでレオンのための、冒険者たちのためのものが作れるかもしれない。

 専属魔導具師としての初仕事。

 なんとかうまく行かせたいところだ。

 久しぶりの緊張を解くように、私は大きく息を吐き、パステルさんの研究所をあらためて訪れるのだった。


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