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笑顔を創る魔導具師セレナは、今日も世界をつないでいる  作者: 八坂 葵
第12章 芽吹きの風

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第236話 ポーションの可能性

「パステルさん、怪我した時にポーションって飲まなきゃダメ? かけてもいいの?」

「どっちでも構わないわ。けど、体の内部の傷は飲まないとダメよ」

「例えばなんだけどさ……」


 私は自分の考えをパステルさんに確認してみる。

 パステルさんは目を閉じて少し難しそうな顔をした後に、突如立ち上がる。


「セレナちゃん、今日の予定は?」

「えっ? いや、何もないですけど」

「じゃあいらっしゃい。調合の現場、見せてあげるから」


 そう言ってパステルさんは奥の研究スペースのような部屋へと向かう。

 私も置いていかれないよう、慌てて立ち上がり追いかけた。



 部屋に入るとかなり広く、高等学校の教室二つ分くらいの広さがあった。

 つい二、三ヶ月前にやった卒業課題の発表会を思い出す。


「さて、やってみましょうか?」

「はい」

「セレナちゃんの推測はこうよね。ポーションの粘度を高めて塗り薬のようにしたら、ガラス瓶で持ち歩く必要もないし、かけるのと違って量が無駄にならないんじゃないかってことね?」

「そうです」


 これなら節約にもなるから、もしかしたら今までの三回分で四回治療ができるかも。

 父さんの研究ノートそのものはそれほど役には立たなかった。

 だって失敗例ばかり書かれてたから。

 けど、暇つぶしのように書かれたメモ書きの中に、


「ポーション×煮詰める=ハイポーション?」


 という謎の落書きがあった。

 で、父さんの得意料理の一つ、特製シチュー。

 昔作り方を聞いたことがあるけど、


「ん? 肝はな、普通なら二十分煮込むところを三十分煮込むことだ。そうすると、シチューがサラサラからトロトロになって、野菜にも旨味が染み込むんだぞ」


 と言っていた。

 だから粘度を付けたら、さすがにハイポーションとまではいかなくても、普通よりも薬効の高いものになるんじゃないか?

 さらに振っても落ちない塗り薬みたいな形にしたら、持ち運びも便利になるんじゃないか?

 そう考えたんだ。


「じゃあまずはポーションを煮詰めるところからやってみましょうか」


 そう言うとパステルさんは、棚から二本のポーションを取り出して加熱皿の中に注ぎ込む。

 ポーション一つでだいたい二口(ふたくち)くらいで飲める量。

 考えてみたらそんなものでケガが治るのだから、あらためてポーションというものの凄さを思い知らされる。


 煮詰めると言うから高火力で水分を飛ばすのかと思ったら、かなり火を絞って温めている。


「パステルさん、なんで火強くしないんですか?」

「薬品の中には沸騰させたりすると品質が変わっちゃうものもあるの。そうなると加熱がまずかったのか、加熱の仕方がまずかったのか、原因が分からなくなっちゃうでしょ? だから最初の実験はなるべく影響の少ないやり方からやるのよ」


 うっ!

 ちょっと耳が痛い。

 私が魔導具を開発する時はまず最初に大雑把に作ってみて、そこから修正をかけて詰めていく作業をしていた。

 けどこちらは逆のアプローチ。

 基礎から丁寧に積み重ねていく方法。

 まずい。

 調合って、もしかしたらかなりストレスかかる技術かも……。


 私のそんな不安を見抜いたかのように、パステルさんは口元に手を当てて笑う。


「ふふっ、これは私のやり方なの。ルキウスはもっと雑にやってたわよ」

「そうなんですか?」

「ええ。それなのに次々と勘で正解を導き出すから、納得いかなくてよく突っかかりもしたわ」


 あー、あれだ。

 私とマリーナみたいなもんだ。

 マリーナはあれでいて、けっこう几帳面に物事を進めていく。

 開発もそういうやり方をしていて、よく私は怒られていた。

 結果的に私の方が早く正解に辿り着くことが多く、卒業する頃にはマリーナも私と同じようなやり方になってたっけ。

 ……爆発事故とか起こさなきゃいいけど。


 しばらく経つとポーションが次第に煮詰まってきて、薄い緑色の液体の濃さが次第に濃くなってきた。

 量的にも元の半分くらいになったところで、パステルさんが火を止める。


「さてと、これが元のポーションと効果が違うのか確かめなきゃいけないんだけど……えーと、ナイフ、ナイフ」

「ちょっ、パステルさん何するつもりですか?」

「え、怪我しなきゃ試せないじゃない」

「えー! もしかしてポーションの効果っていつもそんなことして試してたんですか?」

「他にどうやって調べるのよ」


 恐ろしい。

 もしかして薬って全部こうなの?

 風邪薬は風邪ひかないと試せなくて、やけどの薬はやけどすんの?

 やだよぉ、怖いよぉ……。


 私が顔をしかめていると、パステルさんがまたも笑う。


「ふふっ、冗談よ。昔はそういうことをしてたみたいだけど、さすがに今はね。たくさんの研究者たちが事例を作ってくれたから、こういうものがあるの」


 パステルさんは棚から何かの装置を取り出した。

 平たくて四角形で、真ん中にいくつかくぼみが作られている。

 なんか魔力測定装置みたいでちょっと懐かしいかも。


「このくぼみに出来た薬を入れて上げると、薬の成分が表示されるのよ」

「えっ、何それ。凄いじゃないですか!」


 でも考えてみたら魔力測定装置も魔力強度とかが文字として浮かび上がってたはずだから、似たような魔導具なのかな。

 あれ、でも私の周りで文字を表示させるなんて魔導具、見かけた記憶がないんだけど、なんでだろう?


「えーと……うん、いまいちだね。効果は普通のポーションよりは上がってるみたいだけど、せいぜい二割増しってところ。倍までいかなくてもせめて五割は超えて欲しいところだけど」

「パステルさん、そうしたら煮詰めて高めるんじゃなくて、最初から高いポーションって作れませんかね?成分を倍入れて作ってみるとか」

「そうそう簡単なものじゃないけどね。たぶん、成分を増やすのと煮詰めるのを両方やらないといけなさそう」


 んー、出来るのかな?

 どうなんだろう?

 一応聞いてみよっかな。


「例えば、ポーションを作って乾燥させて粉末状態にしちゃって、後々それに水を追加したらポーションに早変わり、なんてこと出来ると思います?」

「うーん、試してみないと分からないけど、粉末にするのってけっこう大変よ。煮詰めたままだと焦げてしまうこともあるから」

「ポーションを冷凍して、そのポーション氷を削るって方法は出来ますかね?」

「ポーションを凍らせる? ……ちょっとその発想はなかったわね」


 私はパステルさんに落華摘粉(フロス・プルヴィス)の話をする。

 そこに今成功してる飲み物のリストを覚えてる限りを書き出して、仕組みについても説明した。


「セレナちゃん」

「はい?」

「なんでそんな面白そうな魔導具のこと、もっと早くに教えてくれないのよ!」

「だって、今年の黎明祭(プリマルクス)で発表しようとしたんだけど、怪我しちゃったから」

「まぁいいわ。それ、一回試してみましょう。それに、もしかしたらポーション以外にも使えるなら、また調合の可能性が広がるかもしれないし」



 そう語るパステルさんの目は、遥か遠くを見つめているようで。

 畑は違えど、この人もこの道が好きなんだなぁと思えた。


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