第235話 人を癒す手段
「こんにちはー、タブラさん、今日もよろしくお願いします!」
「おぉ、セレナちゃん。よく来たな。今日はまぁまぁ数いるぞ。いい話が聞けるといいな」
「ありがとうございます!」
今日は工房は午前でおしまい。
午後からはキアネアちゃんと一緒に冒険者ギルドに来ている。
少しずつ仕事もペースをつかみ始め、ようやく他の仕事にも手を出せるようになってきたのだ。
何をしているかというと、冒険者ギルドの人たちに魔導具の聞き取り調査。
一緒に依頼に出かけるのは、逃走用魔導具を作ってからと、アミーカ、マリーナ、レオンから強く言い含められている。
なので、それまでは冒険者ギルドにいるみんなから、依頼の話とか実際の冒険の話を聞いて、そこからレオンの役立ちそうなものを考えている。
……まだ、これと言って思いついてないけど。
「そうだなぁ、やっぱりケガをどうにかしてぇよな」
この人はルディスさん。
魔物討伐を主に行うパーティーのリーダーで、二本の手斧を使う戦士。
一度訓練場で技を見せてもらったけど、右と左で自由自在に手斧を取り回す姿は、レオンの戦い方を彷彿とさせた。
責任感の強さもあって、わたしと昔ぶつかったこともあるけど、すぐその場で仲直りをして、今は気軽に話せる仲だ。
「ケガねぇ。なんで治癒の魔石とかないんだろ?」
「セレナ知らねぇのか? 魔石は作れるは作れるんだ」
「えっ、なら何で?」
「治癒は、ほら、神殿が一手に握ってるだろ? あそことぶつかるから作らせてもらえねぇんだよ」
ちなみに魔石は二種類あって、一つは鉱山とかに落ちてる天然の魔石。
大きさは様々だけど、基本は小粒ばかり。
含まれる魔力は火や水、土が多く、風や氷はほとんどない。
つまり、とても使いにくい。
もう一つは王城の魔石精製部門が作る魔石。
一般的に魔石というとこっちだ。
天然の魔石を集めて加工し、揃えられた大きさで魔力を込めていく。
大きさが揃うからこそ魔導具にも使える。
ちなみに精製技術は門外不出。
もし王城以外の個人や団体が勝手に魔石を作ったりしたら、王国騒乱罪が適用されて、一発で死刑だ。
「ふぅん。権利問題は面倒だね」
「あぁ、まったくだ」
私が机に顔を乗っけてヘタっていると、後ろから頭に手を置かれる。
「何やってんだ、セレナ?」
振り向くとレオンが不思議そうな顔で私を見ていた。
「いやね、治癒の魔石欲しいよねーって話」
「あぁ、グレッダさんも何度か話はしてるらしいが、無理そうだぞ? 神官どもが食いっぱぐれるからな」
「神官どもって……でも神殿に属さない治癒魔法の使い手もいるよね? タブラさんとか」
すると向こうから「呼んだか?」と声をかけられた。
えらい地獄耳だな。
私が手を横に振ると、軽く手を上げてまた受付の仕事に戻った。
「そりゃ、あれもこれもの好き勝手は通らねぇからな。そこはお互い暗黙の了解ってやつだ」
「その代わり治癒魔法使えるやつは、一度はしつこい勧誘を受けるそうだがな」
ルディスさんとレオンがそんなことを話す。
ってことはタブラさんも通った道なのかな?
……待てよ、ケガを治すのに魔石だのにこだわる必要ないよね?
ポーションだってあるわけだし。
「ねぇ、ポーションは駄目なの?」
私がそう聞くと、ルディスさんとレオンが微妙そうに視線を交わす。
「あー。まぁ、悪くはねぇよ、うん」
「セレナ、ポーションの見た目知ってるだろ? 瓶に入ってかさばるし、カチャカチャ音がするから、魔物に見つかりやすくなるんだ。だから持って行くにしても最低限だけなのさ」
使いづらいってことね。
けど昔のレオンのケガくらい酷いと魔法じゃないと無理だけど、あの時だってポーションもハイポーションも使ってたし。
評価低すぎないかな。
「要はさ、持ち運びやすくて、音が鳴らなければ冒険に持っていくのは全く問題ないってことだよね?」
「まぁ……そうだな」
「ん。なら、考えてみるよ」
まずはポーションの作り方をきちんと知らないといけない。
そのためにも、そして約束を果たすためにも、私はあそこへ行く必要がある。
私は、パステルさんの研究所へと足を向けた。
◇◆◇
以前教えられていた研究所に行くと、外には「ミレンツィア薬学研究所」の看板がかかっていた。
コンコンコン。
ノックをすると、程なくてしてパステルさんが顔を出す。
「あら、セレナちゃん。もしかしてそろそろ落ち着いた?」
「あ、はい。それもそうなんですけど、今日はまた別口で聞きたいことがあって」
「うん、今なら手空いてるからいいわよ。どうぞ」
勧めに従って中に入ると、手前に簡単な応接セットと事務机が設けられた、いかにも簡易な事務所という感じの空間があり、その先には広い研究スペースが見てとれた。
パステルさんは私を応接セットのソファに座らせると、手早くお茶の用意を整えて私の前の席に着く。
「それで、今日は何を聞きたいの?」
入れてくれたお茶を一口。
口に広がるダージリンの香りを楽しむ余韻すらもったいないように、私は口を開く。
「ポーションについて、素材から詳しい作り方、保管方法、使用期限。すべてを知りたいんです」
「ポーション? どういうことかしら?」
パステルさんの目が少し鋭い光を帯びる。
まあ私の要件なら十中八九魔導具の薬剤関連だと思うだろうから、いきなり畑違いのポーションについてなんて聞かれたら怪しむのも当然か。
「実は……」
私はレオンの専属魔導具師の件、ギルドで先程話していた件を伝える。
「ポーションをもっと手軽に持ち運びできるようになれば、冒険者の怪我や死亡事故が減らせるかもしれない。けど、私にはまだその知識が足らなすぎて何も出来ない。だから、教えて欲しいんです」
席を立ちあがって、頭を下げる。
今しばらくは私はまた挑戦者だ。
どんなことでも貪欲に学んでいきたい。
少しでも力を示して名を広げていきたい。
その思いが行動にあらわれる。
「そういうことね。実はね、そういう研究、今までなかったわけじゃないのよ」
そう言うとパステルさんは書棚の奥の方から一冊の本を取り出す。
「これ、まだルキウスが王都にいた頃の研究だからかなり古いんだけど」
そう言って私にその本を渡してくれた。
父さんが王都にいた頃。
まだ私が拾われる前だから、下手したら二十年以上前。
それでも何かヒントになることが書いてあるかもしれない。
私は本を開き、目を通し始める。
そしてその中に一つだけ、もしかしたらという道筋を見た気がしたんだ。




