表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
笑顔を創る魔導具師セレナは、今日も世界をつないでいる  作者: 八坂 葵
第12章 芽吹きの風

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

231/264

第231話 温かな手と言葉

 私がベーネ工房で働き出して約一週間。


 コンコン。

 部屋をのドアをノックする音が聞こえる。


「はーい」


 声に反応して訪問者はドアを開けた。


「セレナー、今日って空いて……うわぁっ! どうしたんです、これ」


 恋人を『これ』扱いとは、レオンもなかなかやってくれる。

 元気になったらきっちり仕返ししてやる。


「ごめんなさいね、昨日の夜から高熱出しちゃって、ずっとこんななの」


 私の看病をしてくれていたクラリスさんが、レオンにそう説明する。


「すみません、セレナが迷惑かけて。俺、今日空いてるんで看病代わります。クラリスさんも休んでください」

「あら、そう? それならお言葉に甘えて」


 クラリスさんは椅子から立ち上がると、看病のための説明を手早く済ませ、ドアを開いた。

 そこで思い出したように振り返り、


「あ、これ幸いと襲っちゃダメだからね?」


 といたずらっぽく微笑むと、


「襲いませんっ!!」


 と顔を赤くしてレオンが答える。

 やっぱりクラリスさんにはまだまだ勝てないようだ。



 まあ正直心当たりはある。

 あり過ぎるほどに。

 勤め始めて四日目。

 私は初めてのお休みをもらえた。

 買いたいものがたくさんあった。

 キアネアちゃんの教科書に、『セントーレ食材辞典』、キアネアちゃんのお洋服、と、私も便乗して服を。


 しかしキアネアちゃんが、護衛しづらいと、ガンとして今の黒い服を主張し、たしかにそれを持ち出されては私も強く出られず、泣く泣く諦めた。

 さようなら、私のお洋服……。


 で、教科書と食材辞典だけを購入して帰ろうとしたところに、偶然レオンと出会い、これからギルドで初心者冒険者講習をやるというので、急遽参加させてもらうことに。

 そこで魔物についても知らないといけないと、最新の『魔物図鑑』をギルドで購入。

 あと帰りの本屋で最新の『魔導具辞典』と、なんと今年の黎明祭(プリマルクス)に出された魔導具の設計図一覧までが出ていて、即衝動買い。


 ……結果、読みすぎてこれだよ。

 読まなきゃっていう義務感もあったんだけど、何よりどの本も楽しくて。

 特に『セントーレ食材辞典』とか『魔物図鑑』とかは、普段見ないような知識がたくさん載っていて、それこそ寝食を忘れて読んでしまった。

 昨日の夜、部屋に帰ったら、やけに具合が悪かったからそのままベッドに横になっていたら、起き上がれなくなっていた。

 夜ご飯にやってこない私を心配して来てくれたクラリスさんが見てくれて、それからの今だ。

 きっと机の上の本の山を見たら体調不良の原因などすぐに分かっただろう。

 復帰一発目のお仕事が、師匠からのお尻叩きじゃないことを祈ろう。



 レオンは机の上に視線をやると、とてもげんなりした表情になっていた。

 そしてその表情のまま私を見て、おでこに手をあてる。


「熱いな。まったく、お前のことだからあの日からずっと読みふけってたんだろ? 働き始めは体だって慣れてねぇんだから無茶すんなよ」


 そういうとおでこに当てていた手で、今度は手を握ってくれた。


「ごめん……すごく楽しくてさ」

「ん。今日は一緒にいてやるから、寝てろ」

「ありがとね、レオン」


 彼の手の温かさを感じながら、私は再び深い眠りについた。


 ◇◆◇


 そこは見たことがない、けどどこか懐かしい感じのある和室。

 私はそこに敷かれた布団の上に寝ていた。

 なんか頭の下がすごく冷たくて気持ちいい。

 ……っていうか、これ澪だよね?


「あったりー! よく分かったね、熱出てるのに」

「澪、私寝てたいんだけど?」


 さすがに今日は澪に付き合う元気はない。


「えっ! 澪と付き合いたい?」


 ジトっとした目で睨むと、さすがに黙ってくれた。

 しかしすぐに真面目な顔に戻る。


「セレナ、頑張りすぎだよ。キアネアちゃんにもすごくたくさん勉強させようとしてたでしょ?」

「だって、早く普通の女の子にしてあげないと」

「それ、キアネアちゃんに、ちゃんと聞いてないよね?」


 っ……!

 そうだった、また私はやらかすところだった。

 はぁ、何回同じ事をすれば気が済むんだ、私は。


「あとさ、勉強させるなら、例えば初等学校であなたが考えた、30分授業、5分休憩とかのやり方をしてあげないと、彼女にはまだ辛いんじゃないかな?」

「……そうだね、なんだろ、すごく焦ってるね、私」

「卒業式で世界で一番とか、アホなこというからよ。結果的にそこに行けばいいの。今すぐなる必要はないんだから、今はゆっくり進みなさい。焦るとロクなことないのは、たくさん経験してきたでしょ?」


 たしかにそうだ。

 ベーネ工房でもいいところを見せようと、少し頑張りすぎていたかもしれない。


「ごめんね、澪。その通りかも」

「いいの。ところでさ、その頭の下のやつ、気持ちいいでしょ?」

「うん。なんか楽な感じ」

「初等学校のランタンを照明にするのもいいけど、こういうのを作るのもいいんじゃない?今みたいに弱ってる時の自分を助けてくれる道具って、けっこう覚えてるし、また使いたくなるものよ?」

「これ、氷……じゃないよね? グネグネしてる」


 私は頭の下にあったものを取り出し、持ちあげて触ってみる。

 これを冷凍庫に入れて冷やして使うというのは分かるけど、なんで凍らないでいられるのかが分からない。

 ということは、澪もその仕組みを知らないということだ。


「あはは、ごめん。さすがに人生でこんなことになるとは思わなかったからさ。ちゃんと調べておけばよかったね」

「ううん。ヒントはもらったから頑張ってみるよ。ま、まずは体治さないとだけど」

「あと、『セントーレ食材辞典』見て、ビタミンC含む食材を食べられそうなら食べて。そうしたら早く治るから、きっとね」

「そうか……あの端っこに書いてあったビタミンCとかってそういうことか。なんの暗号だろうって思ってたんだけど」


 普段の私は日本の知識は使えないから、澪から教えてもらうしかない。

 けど、ここに来れば澪の知識や記憶を共有出来るから、昨日まで謎だったビタミンCが理解できる。

 もっとも、澪もビタミンCが風邪にいいらしいまでしか知識持ってないけど。


「さ、そろそろおしゃべりやめて寝ておこうね。早く治してまた元気なセレナに戻ってよ?」

「うん、ありがとね、澪」

「うん、じゃあね」


 ベッドを黒い霧が包んでゆく。

 いつもなら扉か落とし穴なのに、今日は私が動かなくて済むように気を遣ってくれたらしい。

 毎回そうして欲しいところだけど。

 切りに包まれて、私の意識も黒い闇の中へと沈んでいった。


 ◇◆◇


 それからどれくらい寝たか分からない。

 けど体はだいぶラクになっている。

 そのまま目を覚ますと、なぜか隣にはマリーナがいて、私の手を握っていた。

 ……うん、きっと変な夢だな。

 もう一回寝よう。


 私が布団を被りなおすと、防がれる。


「ちょっと、なんで人の顔見て避けようとすんのよ」

「ってか、何でいるの? レオンはどこ行ったの?」

「ここにいるぞ」


 見ると部屋の奥の方の椅子で、納得のいかない顔で座っていた。


「女の子の看病を男がするなんて危ないわよ。寝てる間に何されるか分かったもんじゃないんだから」

「俺がそんな真似するかっ!」


 まぁたしかにこれについてはマリーナの方が危険だ。

 きっとレオンもその辺を加味して残ってくれたんだろう。

 感謝、感謝。


「もー、相変わらず無茶し過ぎるんだから。やっぱり私がいないとダメかな」

「……部屋はもう二人と一匹で満杯だからね?」

「それなのよねぇ。ねぇ、セレナ、あなたもしかしてわざと埋めたわけじゃないわよね?」

「ちっ、違う違う。キアネアちゃんは卒業前から決まってたし、リオは高等学校の時に構ってあげられなかったから」


 結果的に正解だったわけだけど。


「それより仕事はいいの?」

「うちも今日はお休みなの。なんか新人さんはこの日にお休み多いみたいよ? さっきアミーカにも街で会ったもの」

「アミーカは来てくれてないの?」

「セレナの不調を知ったのその後だったから。買い出しに出てたクラリスさんから聞いて、飛んで来たら、この男が今にも襲おうとしてて……」

「だから、捏造すんなっての! 手を握ってただけだ」


 そっか、レオン、あのままずっといてくれたんだ。

 熱とは違う熱さを頬に感じる。

 マリーナはそんな私を見てため息一つ。


「はぁ、昔の女はお呼びでないわね。それじゃ、セレナも少し落ち着いたみたいだし、私帰るね」


 変なことを言ってるが、わざわざ心配して来てくれたことは、本当にありがたい。

 私は出ていこうとするマリーナを呼び止める。


「ん?」

「ありがとう。また休みの時に二人でお茶でもしようね」

「はいはい、いいから早く治してよ? じゃないとからかいがいがないんだから」


 その言葉に私たちは微笑み合う。

 なんか、高等学校の時みたいだ。

 彼女の分かりにくい優しさが、ほんの少し嬉しかった。


 マリーナが去ると、レオンが私の隣に戻ってくる。


「まったくよ。なんかいい雰囲気邪魔されちまった感じだよな」

「ふふっ、そんなこと言ってると、やっぱり襲うつもりだったってマリーナに怒られちゃうよ?」

「弱ってる女襲うとか最低だろ。この前脱ぎだしたの止めてやったの忘れたのか?」

「あっ、あれは……もうっ! 忘れてよ」


 私が枕を引き抜いて投げると、レオンは笑いながら受けとめる。

 そしてベッド横に来て、私の頭を持ちあげて枕を戻してくれた。

 そのまま私のおでこに手を当てると、少しホッとしたような顔になる。


「熱はだいぶ下がったようだな。じゃあ俺は帰るから、本なんか読まないでしっかり寝ておけよ」

「うん。レオンもありがとう、忙しいのに」

「気にすんな。じゃあな」


 そう言うと私の髪を軽く撫でて、部屋から去って行った。

 はぁ、心配かけちゃったな。

 明日には復帰できるように、今日はちゃんと寝よう。

 風邪がうつらないよう、他の部屋で過ごすのをお願いしてしまったキアネアちゃんとリオのためにもね。



 クラリスさんやレオンの手の温かさ、澪の言葉、マリーナの不安そうに少し力の入った手の感触、キアネアちゃんとリオの寂しそうな目。

 王都に来てもこれだけのみんなに心配してもらえる。

 私は幸せ者だと思う。

 今日受けた恩は必ずどこかで返していこう。


 そう思い、私は再び目を閉じ、眠りについた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ