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笑顔を創る魔導具師セレナは、今日も世界をつないでいる  作者: 八坂 葵
第12章 芽吹きの風

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第229話 共に暮らす者たち

 初日は企画書を書いている途中で営業時間が終わってしまった。


「えー、もう少し書きたいんだけど」

「ふふっ、セレナちゃん。これは仕事だから、きちんと時間内で終わらせることが大切なのよ。だらだらやる仕事には魂はこもらないって、師匠の教えよ」

「むぅ……なら諦めるよ。下宿で書いてもいい?」

「それもダメ。仕事とプライベートはきちんと分けないと、いずれ心を病むわよ。これは私の経験則だけどね」


 どちらも反論したいところだけど、言ってることは納得できるし、今日はまだ初日だ。

 ここは素直に引き下がっておこう。


「それにね……セレナちゃん、空いた時間使って料理くらい勉強しないと、レオンくんに呆れられちゃうわよ?」


 グサッ!!

 ……ちょ、ちょっと効きすぎたよ、クラリスさん。

 胸を押さえてうつむいていると、


「ま、まあまあ、少しなら私も教えられるし、アミーカちゃんっていう心強い味方もいるじゃない」


 と、フォローを入れてくれる。

 そうだ、アミーカが初等学校の時に熱心に読んでた『セントーレ食材辞典』。

 あれ、買ってきてまずは読もう。

 なにせ塩と砂糖を間違えるレベルだ。

 いきなり料理とか入っちゃダメだ。


「さ、夜ご飯は私が作るから、セレナちゃんはお風呂でも入ってきちゃいなさい」

「あれ、お風呂なんてありましたっけ?」

「先月作ってもらったの。ようやく手が出せるくらいの値段になってきたからね。それに、男連中はともかく、女性はやっぱり、ねぇ?」


 何がねぇ? なのかは知らないけど、お風呂があるのはとてもありがたい。

 今までグレッダさんのお屋敷くらいでしかみたことがない。

 一度使ってしまうと、しばらく忘れられないんだよな、あの気持ちよさは。

 ウルヴィスの時は歩けば温浴施設がわんさかあったから、気にならなかったけど。


「じゃあお借りしますね。場所はどこですか?」

「下宿の隣の新しい建物よ。入口が男性と女性で分かれてるから気をつけてね」

「はーい!」


 工房から歩いて二分ほどのところに、ベーネ工房の下宿はある。

 王都外から就職をしてきた人向けの建物で、たしか今は男性が六名、女性が私を含めて三名使用している。

 ちなみに大きすぎなければペットも可だ。


「ただいまー」


 私が下宿の自分の部屋のドアを開けると、


「ワンッ!」


 と元気な声に迎えられた。


「リオー、お待たせっ。いい子してた?」

「ワフッ。ペロペロ」

「きゃっ、くすぐったいってば」


 そう、今回私はリオも王都に連れてきていた。

 高等学校の間は寮に置くわけにもいかなくて、私が帰省する時しか会えなかったけど、ここなら大丈夫。

 私が拾った命だからね。

 出来るだけそばにいてあげたい。


 五歳の頃、パパと訪れた森で見つけた、傷だらけの魔物、『疾風犬(シルフドッグ)』。

 それがリオだ。

 弱い風魔法を操り、その名の通りの速さで移動する。

 けど、とても臆病で気配に敏感。

 人を襲ったという話は聞かないらしい。

 なので王都でも首輪とリードさえつければ、外を歩くことを許されている。


 リオと戯れていると、ドアが開いた。


「セレナ、ただいま」

「あ、キアネアちゃんおかえり。今日もありがとうね」


 近くに座ってリオを撫で始めたキアネアちゃんの頭を私は撫でる。

 キアネアちゃんは昼間はずっと私に張り付いて護衛をしてくれてる。

 私が工房にいれば工房の周りを見張り、外出すれば影から私を守る。

 ……まぁ、たまに呼び出して一緒にケーキ食べてるけど。

 私の三つ下だから、今はたしか十二歳。

 今年の十一月二十三日で十三歳だ。


「それでさ、お風呂あるから入っておいでって言われたの。キアネアちゃんも一緒に行こう?」

「お風呂。裸、人に見られるのイヤ」

「んー、なら、私だけならいい?」

「セレナなら、いい」

「よし、じゃあ今日は私も入らない。明日、二人だけの時に行こうね」


 キアネアちゃんはコクリと頷く。

 この子をせめて普通の女の子のように話したり出来るようにする。

 それが私の目標だけど、踏み込みすぎて失敗してる経験があるから、キアネアちゃんに負担のない範囲でゆっくり進めよう。


「あとリオも週に一回は洗おうね。私が家にいた時はそうしてたから。リオも入れていいか聞いとくからね」

「わふっ」


 リオは尻尾を振る。

 この子、やっぱり私の言葉理解してんじゃないのかな?

 昔からこうだったけど。


「あ、そうだ。キアネアちゃん、今度の休みに一緒に買い物行こう。キアネアちゃんのお勉強の教科書買わないと」

「お勉強、ヤダ」

「ふふっ、大丈夫。私が隣にいてあげるから。私も料理覚えないといけなくてさ。一緒に頑張ろ?」

「……ちょっとなら」


 やっぱり予想通りの反応だったな。

 頭を使うことをしたくないんだろう。

 今まで言われたことをそのままこなすだけの仕事のやり方をしてたから。

 人との付き合いはアミーカやマリーナにも協力してもらうとして、知識は私が頑張って教えないと。


 ◇◆◇


 ご飯の時間になったのでキアネアちゃんとリオと一緒に工房へ。

 リオは夜ご飯に出すものから少し取り分けてもらう。

 意外なことにリオは何でも食べられる。

 昔、犬は葡萄がダメと知らずに『月の葡萄』を分けてあげてたけど、体を壊すこともなく元気にしていた。

 ネギもチョコもパクパク食べる。

 たぶん魔物だから違うんだろうと思うことにして、食べる、食べないはもうリオ任せだ。


 夜はほうれん草のおひたしと生姜焼き、白米と味噌汁。

 ――えっ!?


「えっ、クラリスさん、これ?」

「あぁ、珍しいでしょ。」

「もしかしてジェラールさんのところの?」

「そ。一回食べたら師匠がハマっちゃってね。お昼はみんないるから普通の食事が多いけど、朝と夜はこんな感じよ」


(なーんか日本の夜ご飯だよね、これ)

(澪?)

(ちょっと、懐かしいな)

(体ごとでなくても、舌だけ入れ替わるとかできないの?)

(そんな便利なもんじゃないんだよね。ま、私は自分で作って食べるよ)


 それだけ言って澪は引っ込んでしまった。

 私の心にいてくれる、もう一人の私。

 日本の大学生? の澪。

 困った時に助けてくれる頼りになるお姉さんであり、こうしてふらっと出てくる困ったちゃんでもある。


 私は人参とゴボウ、お芋の入った味噌汁を一口すすり、生姜焼きに手を付ける。

 ん、さすがに味はアミーカのお父さんのバルドさんにはかなわないけど、これも十分美味しい。

 なんか、こんなご飯を食べてるとホッとするのは、澪の影響だろうか?


 隣を見るとキアネアちゃんも美味しそうに食べている。

 よく見ると口元にご飯粒が。

 私は声をかけてそれを指で取り、そのまま食べる。

 それを不思議そうに見ていたキアネアちゃんと目が合うと、彼女はすぐに目をそらしてしまった。


 かわいいなぁ。

 ホント、もし私に妹がいたら……。

 いや、なんか私の妹なんて、我が強くてケンカばかりしそうな気がする。

 キアネアちゃんで良かったのかも。



 私のベーネ工房初日はこうして終わった。

 明日以降レオンの専属魔導具師の仕事も、パステルさんの調合もあるから、早く仕事のペースを掴んでしまいたい。

 そんなことを考えていたら、まさか翌日に工房内で勝負をさせられるとは思ってもみなかった。


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