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笑顔を創る魔導具師セレナは、今日も世界をつないでいる  作者: 八坂 葵
第11章 同じ空の下で

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第226話 同じ空の下で

「んしょっ」


 私は大きなリュックを背負った。

 卒業式から二日後。

 寮の部屋を片付けて、私とマリーナはいよいよウルヴィスから去る。

 いったんどちらも故郷に帰って、また王都だ。


「なんかスッキリしちゃったね」

「まあね。ぜーんぶ王都に送っちゃったし」

「結局師匠のところの部屋は借りないくせに、荷物は置かせてもらうとか、なかなか図々しいことしたよね、マリーナも」

「だってボレリアスに送ってまた王都だと送料かかるもの。もったいないじゃない」


 なんとも庶民的な子爵家息女だ。

 さて。


「……行こうか」

「そうね、立ってたら、いつまでも足が動かなくなっちゃいそうだし」


 私たちは手を取り合い、部屋を出て、一階へ向かった。



 下には同じような寮生たちが溜まって、すごい混雑状態。

 いつもならこんなのを見たら怒るヴァレリアさんも、さすがにこの日はずっとハンカチで目元を拭っていた。


「ヴァレリアさん」

「ん、あぁ、セレナにマリーナかい。問題児二人とは言え、いなくなると思うと寂しいねぇ」

「えっ、問題児だっけ?」

「許可は取ったとは言え、寮の庭で魔力制御の訓練だの、失恋でぶっ倒れるだの、他にもいろいろしてくれたからね。あんたたちのことはしばらく忘れそうにないよ」


 そう言って私とマリーナをまとめて抱きしめてくれた。

 私もヴァレリアさんの背中に手を回す。


「ヴァレリアさん、三年間、本当にありがとう」

「どんな道に進んでも、負けずに頑張るんだよ。辛くなったら顔を見せにおいで」

「へへっ、その時はよろしくね」

「ああ。じゃあ。またね」

「うん、また!」


 私たちは手を上げてヴァレリアさんと別れる。

「さよなら」は言わない。

 必ずまた会えると信じて、「またね」と言うようにしている。

 ヴァレリアさんから以前聞いていた通り、私たちにもそうしてくれたのが嬉しかった。



 外に出ると、マルクスにリディア、カリウス、レオンにアミーカ。

 さらにティミナとクーラと一年生たちまで。


「ふふっ、これじゃ卒業式の日のあれなんだったの? って感じだね」

「いいんじゃない? もう今日は本当のお別れなんだから」

「えっ? 私時々ウルヴィス戻って二人のことからかいに来るけど?」

「このっ!」


 リディアが私の頭を抱えて、ぐりぐりしてくる。


「いたっ、ごめん、ごめんってば」

「……なさいよ」

「え?」

「ホントに来なさいよ。待ってるからね」


 上を見上げると、涙目になったリディアが口を引き結んで、それ以上泣かないように必死な顔になっていた。

 私はリディアの頬を撫でる。


「大丈夫。結婚式、呼んでくれるんでしょ?」

「来なかったら許さないからね」

「特大の花束持って駆けつけてやるわよ」


 ここからはレオンとカリウスとマリーナが北口の馬車から王都方面へ、私とアミーカが南口の馬車からヴェルダに向かう。


「じゃあレオン、二人のことよろしくね」

「おう、任せとけ」

「えー、セレナ寝とったこの男といくのぉ?」

「寝とってねぇ! 俺たちはまだ健全な付き合いだ!」


 あーあー、レオンってばマリーナにいいように遊ばれてるなぁ。

 マリーナの口の端が上がってるから、冗談言ってるってすぐ分かるのに。

 っていうか、マリーナも一年生とかいるところで寝とったとか言わないで欲しいなぁ。


「何を道の途中で騒いでいる?」


 突然背後から声をかけられたが、この聞き方は。


「見送りしてもらってるんですよ。遅かったじゃないですか、先生」


 振り返ると、やっぱりレオニス先生がいた。


「遅い? 俺は来るなど言っとらん」

「あー、それもういいよ。来るつもりだったんでしょ?」

「ふん、知らんな」


 先生は顔を少し赤くして、そっぽを向いてしまう。

 ったく、素直じゃないなぁ。


「ま、来てくれてあんがとね」

「お前らに伝えるべきことはもう伝えた。あとは各々努力しろ」

「はいはい。頑張りますよっと」


 私はアミーカのそばに駆けてゆく。

 さてと、いつまでいても別れられないし。

 みんなとはちゃんとお別れも出来た。

 思い残すことはあるけれど。


 もう……行く時間だ。


 私は口に手を当て叫ぶ。


「みんなー、またねー!」


 ヴァレリアさんからもらったこの言葉。

 今度は私がつないでいこう。

 また必ず会えるように。

 会いに来るように。


 みんなに手を振り、振り返る。


 下を向いていた顔を上げ、真っ直ぐ見据える。


 グッと口を引き結ぶ。


 そして、右足を一歩踏み出した。


 離れた。

 これで、もう本当にお別れだ。

 つぅと頬に熱い雫が垂れていく。

 その時、ガシッと腕を掴まれた。


「ふふっ」


 アミーカが隣で微笑む。

 そして、何も言わずに手をつないできた。


「馬車乗るまでには拭いといてよ?」


 優しいあたたかさが手を通して伝わる。

 あぁ、きっと私は一人じゃダメなんだろうな。

 初等学校の時はアミーカが、高等学校ではマリーナをはじめ、みんながいてくれたから走ってこれた。

 今、崩れそうな足を、またアミーカがこうして引っ張ってくれて歩けている。


「はー、弱虫で嫌になっちゃうな」

「今さら気付いたの?」

「ちょっと、ひどくない?」

「セレナはね、一人じゃだめなんだよ。誰かがいないとね」


 そう言うと手をギュッと握ってきた。


「でも、私は知ってるよ。誰かがいた時のセレナの強さも大きさも。だって、私が最初に見つけたんだから」

「アミーカ……」

「たくさんの人に知られて、ちょっぴり悔しいけどね」


 そう言っていたずらっぽく舌を小さく出す。

 この子は……もうっ!


「王都行ったらレオンさんもいるし。私だって、マリーナさんも。キアネアちゃんの教育もしたいんでしょ?」

「そう、そうだね」

「なら、また頑張らないとね」

「ありがと、アミーカ。ちょっとだけ、貸してね」

私も(・・)、高いからね?」


 いつの間にかマリーナとそんなことを話してたのか。

 マリーナ、王都で怒らなきゃ。

 そんな思いとは裏腹に、頬が緩んていくのが分かる。


 アミーカの胸にもたれかかる。

 もう涙は止まっている。

 今はただ、彼女の優しさに深く触れていたかった。




 後日。

 王都で私、アミーカ、マリーナでお茶をしている時にこの話題になった。


「ちょ、ちょっと待って、アミーカ!」

「それがねー、信じられる? この子、そのまま寝たのよ。道の真ん中で」

「本当に!? セレナ、あんたね……」


 えーん!

 だから話してほしくなかったのにぃ。


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