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笑顔を創る魔導具師セレナは、今日も世界をつないでいる  作者: 八坂 葵
第11章 同じ空の下で

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第221話 つなぎ、残す

「さて、卒業まで残り一週間となったな。以前出していた課題について聞かせてもらおうか」


 そっか、もう一週間なんだ。

 そりゃそうか。

 黎明祭(プリマルクス)が2月の中頃にあって、私が帰ってきた頃にはもう下旬になってて、そこからはひたすら魔導具作って設置してをしてたもんなぁ。


「……レナ、セレナ」


 ん?

 声がしたので横を見ると、マリーナが前を指している。

 見ると、レオニス先生がいつもの冷たい笑顔を浮かべていた。


「セレナ、ボーッとしとらんで発表しろ」

「えっ、なんで私?」


 その一言に、周りのみんなが振り返り、「逆になぜそう思った?」と言いたげな視線を向けてきた。

 なんだろ、リーダー運みたいなものでもあるのかね?


「えっと。完成しましたよ」

「ほぅ、では見せてもらおうか」

「あー、無理」

「何だと?」

「夜見せてあげますよ。今日はみんなで残業といきましょう」


 私の一言にクラスのみんなも楽しそうな笑顔を浮かべる。

 みんなも頑張ったもんね。

 主に、私のせいで。


「よかろう。しかし、つまらんものを見せるならば……」

「はいはい、留年でもなんでもしてやるわよ。マルクスがね」

「な、なんで僕さ!?」


 突然のとばっちりを受けたマルクスの慌てっぷりに、クラスみんな大爆笑。

 おぉ、そういう道を目指してみてもいいかも?


(あんたにお笑い芸人が勤まるわけないでしょ。せいぜいが一回戦落ちよ)

(ん、一回戦?)

(こっちの話。夜、頑張りなさい)

(あんがと、またね)


 澪は、あっという間に去っていく。

 それこそ『つむじ風』のように。

 何の用だったんだ?


 レオニス先生はクイッと眼鏡を上げて、あらためてわたしを見つめながら、最後通牒を突きつけてきた。


「よかろう、お前ら研究室メンバー全員留年だ」

「いいよ。たぶん大丈夫だから」


 マリーナが横からジト目で見てくるが、そちらへは視線を向けず、ただ前をまっすぐ見る。

 ……一応後で謝っとこ。

 こめかみから冷たい汗がひとしずく伝った。


 夜に学校に集合し、目的地へ向かうことに決まった。


 ◇◆◇


 そして夜。

 私たちは約束通り、学校の門の前に集まる。

 魔導具科総勢三十名、レオニス先生とプラシナちゃん。

 ――プラシナちゃん!?


「先生、なんで娘さん連れてきてんの?」

「ローザが友達に呼び出されてな。急用だ」


 プラシナちゃんは前に一度研究室に遊びに来たことがある、先生の娘さん。

 あの時五歳だったから、今は六歳かな?

 私をお婿さんにしてくれるらしい。

 ……ま、いっか。


「みんな揃ったわね。じゃあ行きましょう!」


 私たちは街の人や観光客の邪魔にならないよう、横二人一列で目的地に向かう。

 私の隣?

 そりゃもちろん、


「人の留年を勝手に賭けるとは、いい度胸してるわね、セレナ? また殴られたいのかしら?」


 頼りにもなるし、恐怖も運んでくる親友、マリーナだ。

 今日は恐怖の運び役らしい。

 王都で平手打ちを食らわされたことのある私は、思わず頬に手を当ててしまう。


「ま、まあまあ。マリーナだって大丈夫って分かってるでしょ?」

「まあね。じゃなきゃ教室でひっぱたいてたわよ」


 そう言いながら私の手を握ってきたマリーナ。


「うまくいくといいわね。みんなにとって」

「そこは心配してないよ。マリーナたちが頑張ってくれたからね」


 顔を見合わせて笑えば、その思いは確信へと変わってくる。

 春先だと言うのにまだまだ寒い夜。

 けれど繋いだ手の温かさが、じんわりと身体を温めてくれた。



 私たちは街の北側にある湯畑へとやってきた。

 ウルヴィスの源泉を組み上げ、各施設へと送る、ウルヴィス観光でも屈指の人気スポットだ。

 今は夜なので、ぼんやりと光る街灯に照らされてはいるものの、湯畑自体は目を凝らしてなんとか形が分かるかな? といったところだ。


 私はそのそばに立っていた数人の大人のうち、最も大柄な男性に声をかけた。


「あ、ソルムさーん!」

「おお、嬢ちゃん。よく来たな、準備はできてるぜ」

「へへっ、楽しみにしてるよ」

「任せとけ! おたくらの頑張りは無駄にしねぇさ」


 ソルムさんは隣にいた男性に何かを指示して、湯畑の奥へと走らせた。


「先生、プラシナちゃん、それにみんな。いよいよだよ」


 私は一度振り返って呼びかけ、また前を向き、固唾を飲んで見守る。

 遠くから「いきまーす!」という掛け声が届いた。

 次の瞬間。


 パァァァァッ。


 湯畑を囲む道の両端が、源泉を(たた)えた水槽の(へり)が、きらびやかに光り、夜のウルヴィスにその姿をくっきりと浮き上がらせた。


 私の後ろから一斉に歓声が上がる。

 振り向くと手を大きく挙げて喜ぶ男子たち、抱き合って涙する女子たち。

 足元ではプラシナちゃんがあんぐりと口を開けて「きれーい!」だけを繰り返してる。

 前を向けば、目の前にいたソルムさん達も満足そうに湯畑を眺めている。

 その瞳が少し潤んで見えたのは、きっと蒸気のせいだろう。


 今まで見たこともない、光り輝く湯畑の絵に、近くを歩いていた人たちも次第に集まり、ちょっとした騒ぎになっていた。


 そうだ、見たかったのはこれだ。

 この絵だったんだ。

 黎明祭(プリマルクス)なんてものを立ち上げて、魔導具師同士の交流を呼びかけ、さらにその先へ。

 その姿が今、ここにある。


 やっと……届いた。

 私は心の中で、一つの区切りを感じた。

 高等学校でするべきこと、したかったことは十分できた。

 胸が熱くなり、自然と涙があふれそうになる。

 けど、まだ最後に説明をしなきゃいけない。

 拳を握りしめ、袖口で涙をぬぐった。


 振り返ってレオニス先生を見る。

 なぜかとても優しい目で光を見つめている。

 口元には笑みを浮かべて。

 今までそんな表情(かお)は見たことがない。


 ずるい。


 ずるいって!


 今、そんな目を見たら……。


 私に気づき、その顔のまま語りかけてきた。


「セレナ、学外でどこと協力をした?」


 うん。

 きっと気付いてると思った。

 その質問は意外でも何でもない。

 想定内の質問だ。

 良かった、おかげで涙も引っ込んだ。


「ブレヴィス先輩を通じて領主様、観光協会、温泉の管理事務所、木工ギルド、ガラス細工ギルド、あとは近隣のお店に事前説明かな」

「お前たち、研究室メンバーはどの程度噛んだ?」

「手は動かしてないよ。連係は領主様だけ私。他、製作も協力依頼も、全部クラスのみんな。私たちは絵を描いただけ」

「そうか……」


 レオニス先生は振り返ってみんなを見た。

 騒ぎも落ち着いてきたみんなは、そのまま急に黙り、静寂が戻る。


「見れば分かる。よくやった」


 短いひと言。

 けど、万の言葉よりも重く、深く心に残る。

 言葉を聞き逃すまいと、みんなは口を引き結びながら、それでも中には耐えきれず涙する者も。


「忘れるな、この夜を。お前たちが学校では教えきれない、『人のため』に動いた証を」


 それだけを伝えて、レオニス先生はそのままソルムさん達へ挨拶だけをして、帰って行った。

 帰り際にプラシナちゃんの「パパ、泣いてるの?」のひと言のせいで、しんみりした空気が大爆笑に変わってしまったけど。

 それでも価値は変わらない。

 いや、むしろさらに輝きが増した気がする。



 ウルヴィスの空に浮かぶ星々が、ほんのわずかに薄くなった夜。

 私たちは、この街に、後輩に、何より自分の心に。

 大切なものを残せたという気持ちでいっぱいだった。


 セレナが考えている『協業』が、クラスとして形になりました。この意識を持った魔導具師たちが各地に散り、それぞれで芽を出していけば、いつか国中でそれが当たり前になるでしょう。


次回、第222話「大騒ぎの卒業式」


 卒業式といえば、しんみり、しくしく。とんでもない、セレナは泣きもしますが、暴れもしますよ(笑)

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