第220話 友たちの成長
マリーナ着せ替え疑惑の翌日。
クラスに行くと、朝早くからみんなが机の上の紙を見ながら、ああでもない、こうでもないと大激論。
まるで明日がなにかのコンテストかのようだ。
「ね、ねぇ、マリーナ」
「うん? なぁに、セレナ」
しなっと私にもたれかかり、上目遣いで見つめてくる。
私はマリーナをジトっと睨みつける。
「親友やめようかしら」
「バカね、冗談よ」
私から離れてスッと立つ。
まぁ、そのこめかみに浮かんだ冷や汗は見なかったことにしてあげよう。
マリーナみんなを見ながら、
「何が起きてるの? ってことでしょ?」
「うん。なんか別世界に来たみたい」
「まあ、セレナのせいかな」
「私の?」
どういうことだ?
王都に出る前に少しハッパはかけたけど、そんなに大きく変わってはなかったはずだ。
「あなたが黎明祭に出られなくなって、お見舞いも行けなくて、沈んで帰ってる時にカリウスがね」
「カリウス?」
「ええ。あなたが大変な時に、自分たちまで沈んでどうするって。帰ってきた時に落ち込ませないように頑張ろうってね」
「マリーナ、誰の話してんの?」
いやいや、カリウスのわけがない。
キャラが違いすぎる。
せめてマルクスなら百歩譲って信じるけど、カリウスは天地がひっくり返ってもない!
「まあ、あと少ししたら分かるわよ」
その時教室のドアが開いた。
「おはよう!」
とても力強い挨拶をしてきた相手の顔を見て、私は凍り付く。
カリウスが笑顔を浮かべ、みんなに向かって手を上げて挨拶をしているじゃないか!
手を頭に当てて、マリーナに寄り掛かる。
「ねぇ、どういうわけ? 何か悪いものでも飲ませた?
「そうね……って言いたいところなんだけど、誰も何もしてないのよ」
「いやいやいや、おかしいって。あのカリウスだよ? 鉄面皮で、いつも何考えてるのか分からない、男子にも女子にも無愛想で、私たち意外とロクに話さなかったカリウスが」
「セレナ、相当ひどいわよ、あなた。まぁ言ってることは当たってるけど」
じゃあマリーナだってひどいじゃないか。
そんなバカなことをしている間に、カリウスはテキパキとみんなの机を周り、アドバイスや質問を受けたりを積極的にしていた。
「……うん、マリーナ。私まだ具合が悪いみたい。帰るわ」
「ちょっと!」
ぐえっ!
振り返った私の制服の襟をつかみ、引っ張るもんだから、のどが絞まった。
「少しは認めて上げたら? あなたがあんなことにならなきゃカリウスもああはなってないはずよ」
「なんで私のせいなのよ」
「せいなんて言ってないわ。『おかげ』じゃない?」
……はぁ。
まあそうかもね。
カリウスのことだから、きっと私の穴を埋めようとしてくれたんだろう。
ホント、私と別れを決めてから急激に成長してるな、あいつ。
なんかこう、嬉しいような悔しいような、複雑な気分だ。
「もったいないことした?」
「いや、今は十分幸せだし。あれがきっかけになって成長したなら、それもまた必要なプロセスだったんじゃない?」
「へぇ、私を目の前にのろけてくれるわね」
「どうせマリーナがカリウスのこと支えてるんでしょ?」
「なっ!」
マリーナの顔が一瞬だけ赤らんだのを私は見逃さなかった。
さすがにカリウス一人の成長としてはおかしすぎる。
で、余裕のあるマリーナの態度。
さすがに気付くって。
「ねぇ、マリーナ。今日は私、『やすらぎの甘み』で、特製パフェ食べたい気分だな」
「わ、分かったわよ! でも勘違いしないでね、あなたが思ってるような甘い理由じゃないからね」
「はいはい、それは放課後ね」
そして放課後。
クラスの活動も終わり、マリーナとともに『やすらぎの甘味』へ。
もちろん隣にはキアネアちゃんもちょこんと控えている。
「ほんと、懐いちゃったわね」
マリーナはキアネアちゃんを見て、目をやさしくして微笑む。
「まぁね。私で出来るならこの子にちゃんと世界を見せてあげたくて」
「セレナがそこまで背負う必要はないと思うけど?」
「背負ってるわけじゃなくて……ま、成り行き?」
「はぁ、まああなたらしいけどね」
「で、聞かせてもらいましょうか?」
「いいけど、これカリウスには黙っててよ」
実は気づいた点はもう一つ。
マリーナがなぜか『カリウス』と呼び捨てで呼んでいたからだ。
つい最近までずっと『くん』付けで呼んでいたはず。
だいたい今日はマルクス相手には『マルクスくん』だったし。
ぽつぽつとマリーナは話だす。
カリウスがすごく前から私を気にしていたこと。
その相談を受けたものの、私に恋愛の欠片も感じず、仕方なしに自分が実験台になって恋愛を教えようと頑張ってたこと。
この間の宴会で二人残ったのはそういう関係があったからだということ。
「………………」
もう私は口を開けるしかなかった。
周りで色々動きすぎてて。
「マリーナ、もしかしてあなたが私を好きになってるのって、それが理由?」
「まあ、隠しはしないわ。その通りよ」
「はぁ――何やってんのよ、あんた」
額に手を置き、ため息をつく。
マリーナがそういう趣味だったんじゃない。
完全に私のせいじゃないか。
途端に今までそんなことを考えず、彼女のアプローチを拒否してきたことへ罪悪感が襲ってきた。
「マリーナ……」
「やめてよ、セレナ。あなたの同情なんていらない」
「違う、せめて謝らせて」
「謝罪だっていら……」
席を立ち、マリーナへ抱き着く。
「ごめん、ごめんね。そんなことしてくれてたなんて」
「はぁ。こうやって泣かれるの分かってたから、私も言いたくなかった……のに」
二人して泣きながらただ抱き合う。
なんだろう?
今日初めてマリーナが本当に隣にいてくれたような。
そんな錯覚を覚えた。
そのままの状態で聞く。
「で、カリウスのフォローは恋の成就が達成できなかった罪滅ぼし?」
「まぁそれに近いかな。……あとは、カリウスがそうしたいって願ってきたから」
「カリウスが?」
「えぇ。セレナにレオンに、二人みたいに積極的に人に関われるような、そんな人間になりたいってね。別れた後も動かすとか、セレナ、悪女だよね」
「あっ、悪女って。……そっか、そういうことか」
ちゃんと自分自身で考えて動いてるなら良かった。
その行動のきっかけに私がなれたのなら、良かった。
「で、いつまで抱き着いてるの? キスしちゃうわよ?」
「いいよ」
「えっ!!」
「でもね、私にはレオンがいるの。だから、これは最後ね」
「ま、ケンカしたならいつでも来なさい」
「やーだよ」
二つの影が重なり合う。
そんな中。
ケーキをパクパク食べてたキアネアちゃんはさすがだと思った。
カリウス大変身の回。ちなみにマリーナといい感じ?に見えますが、マリーナはまだまだセレナ一筋ですので、ご安心ください(何
次回、第221話「つなぎ、残す」
いよいよレオニス先生からの最終課題への答えを見せる時間。卒業も間近です。セレナたちは何を残すのでしょうか?




