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笑顔を創る魔導具師セレナは、今日も世界をつないでいる  作者: 八坂 葵
第11章 同じ空の下で

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第217話 力の代償

地の主(ルートサーペント)だと!」

「えぇ、普段なら……場所です。……の報告とギルド内の……が……」

「しかしレオン、お前は大丈夫なのかい?」

「ええ、セレナに……ました。…… 俺が、……」

「……レオン。……した。そして……。立派だったぞ」


「うるさーい!!」


ガバっと起き上がる。

そして、まぶたが上がらない。

仕方なくバタッとベッドに倒れ込む。

キョトンとした三人の貴族の顔を見ることなく、私は再び深い眠りについた。


◇◆◇


ねんねーん、ころりーよぉ、おころーりぃーよー


頭の上で、不思議な歌が聞こえてきた。

聞いたこともない歌。

けれど、どこか懐かしい……。

さわっ、と髪を撫でられる感覚。

これは……レオン?


「彼氏じゃなくてすいませんねっ!」

「うわっ!」


トスッ。

驚きのあまり動いたら何かから落ちた。

トスッ……ってなんだ?


あたりを見回すと、花畑。

五歳の頃に見た風景。

あの時と違うのは、花が風にそよぎ、やさしく揺れていること。

地面はとてもやわらかくて、まるで雲のような頼りなさ。

さっきのトスッはこれか。


「あれえ、なんで?」

「セレナっ!」

「ひゃいっ!」

「正座!」

「はいっ」


思わず正座させられた。

私の後ろから伸びた影。

振り返ると、鬼の形相の澪……というか、ツノ生えてるな?

いつものコスプレか。


「セレナっ!」

「ほいっ!」


澪がゆっくりと私の前にまわり、私を見下ろしてくる。

あまりの顔に、思わずうつむいてしまう。

なにか、悪いことしたっけ?


「セレナっ!」

「へいっ!」


ギュウッ。

澪が私を強く、強く抱きしめてきた。

チラリと横顔を見ると、号泣している。


「何考えてんのよ、調律者(チューナー)の封印、自分で解くなんて!」

調律者(チューナー)? なんのこと?」


澪の涙がぴたりと止まる。


「へっ、気付いてないの?」


澪に説明されても、自分が封印を解いただの、地の主(ルートサーペント)を倒しただの、何のことやらさっぱりだ。


「あんたは目から血を流して倒れちゃうし、レオンくんはセレナが死んだと勘違いして、キアネアちゃんと一緒に泣いちゃうしで、散々だったんだから」

「えーと、なんか、ゴメンね。本当に作り話聞いてるみたいな感覚だわ」

「なんでよぉぉ! 私も止めたのに、聞いてくれないし、もー!」


なんだか分からないけど、澪にたくさん心配をかけたし、みんなにも迷惑をかけたのだけは分かる。

私は澪の体を抱きとめて、背中をさすった。


「で、もしかして文句言うために連れてきた?」

「それが九割」

「……残り一割は?」

「封印、もう無理だから」


こっちは、なんとなく予想していた。

澪が厳重にかけてくれていた封印。

それを私がどうにかして封印の扉をぶち抜いてしまったのだ。

穴の空いた扉など、それはもはや扉として機能しない。


「もう少し正確には、封印は出来るの。でも、今回のでガタが来ちゃったから、ちょっとした拍子に封印が解かれちゃうと思う」

「そっか、でもきっとマシだと思わなきゃダメなんだろうね」

「そうね、だから今まで以上に気を付けて。まさか、魔法にまで最適化がかかるなんて思わなかったから……」


救いなのは、話を聞いている限り、魔法――たとえば『風撃(グランス・アエリス)』の威力を強化するというわけでなく、その場で最適な魔法を分析し、放つだけということ。

ただし、未使用魔法含む……。

風刃剣(エンシス・ウェンティ)』って何よ!

聞いたことも見たこともないわっ!

何が面倒って、記憶にないから、その時使えたとしてもまた使えないってこと。

今回で言えば、レオンとかから


「セレナ、あんなすげぇ魔法使えるなら早く使えよなっ!」


とか言われても、私は苦笑いしか返せない。

なんて面倒な能力だ、こいつ……。


「ま、言いたいことはそんだけよ」

「……ごめんね。三年もちゃんと封印してくれてたのに」

「セレナ、勘違いしないでね? 私はあなたが幸せに暮らせるなら、どーでもいいの。調律者(チューナー)が邪魔になりそうだったから封印した。あっても大丈夫なら封印はしない。あなた、そろそろあっても大丈夫寄りだからね?」


「それって……?」そこまで言いかけて、足場がパチンッ! という音を立てて弾け飛んだ。


「は?」


下に広がる真っ暗な空間を確認した瞬間、私は闇に落ちていく。


「澪ぉぉぉぉっ! 覚えとけぇぇっ!」


◇◆◇


「あいつ――」


ガンッ!


「「いたー!!」」


何だ、何だ?

めっちゃ痛いんだけど。

おでこに手を当てていると、目の前でレオンが鼻を押さえて悶えている。

よく分からないがとりあえず言ってやった。


「……すけべ」

「あのなぁ、心配して顔色見てたやつに、頭突きしたあとの第一声がそれか?」

「知らないもんっ!」


ぷいっと顔をそらしたところに、レオンが抱きしめてきた。


「お前……心配させんじゃねぇ! もう、目覚めねぇかと……くっ!」


ポタっと肩に落ちる雫。

じんわりと広がる温かさが、幸せだった。

あぁ、生きてるんだ、二人とも。

そっとレオンの体に手を回し、背中をさする。

守れて、良かった。


「あー、怒られそうだから先に声をかけておくが、我々はずっといたからね? セレナ嬢」


視線を上げて振り返ると、カイル様とグレッダさんが、微笑ましそうにこちらを見ていた。

……絶対にタイミングはかって声かけたよね?


「すまんな、セレナ嬢。お前さんの手当と、レオンの手当も必要だし、事情も聞かないとだったからな。勝手に運ばせてもらった」

「んー、それはいいんだけどさ」


レオンの頭に手を乗せて、ポンポンする。


「めっちゃ熱いんだよね、これ。たぶん二人がいるの忘れて抱きついたもんだから、顔上げれないのよ。ちょっとの間、後ろ向いててやってくれないかな?」


カイル様とグレッダさんは顔を見合わせて、大笑い。

素直に後ろを向いてくれた。

私は小声でレオンに話しかける。


「って、ことでいいんだよね?」

「すまねぇ、この借りは必ず……」


おーおー、耳まで真っ赤じゃん。

かわいいやつ。

レオンはゆっくり私から離れると、大きく息を吐き、一度だけ頬を叩いた。


「大丈夫?」

「あぁ、心配かけた」


レオンはこちらを見ずにそう答える。

頬がピクピクしてるから、けっこう我慢してるんだろう。

私もベッドから降り……ん?

パジャマ姿?

しかも、すべすべさらさらのシルク生地。

こんな高いものどこから?


「誰が着替えさせてくれたの?」

「あぁ、キアネアとセレスさんだ。パジャマはセレスさんが自分のものを持ってきてくれた。あとで二人にも礼を言っておいてくれ」

「そっか、分かった」


さすがにこの格好のまま、カイル様たちと話すのはまずい気もするけど、仕方ないよね。

一応そばにかけてあった上着だけを羽織って、私もベッドから降りた。



さて、何を聞かれることやら。

そう構えていた私。

ところが、実際には聞かされる方とは思いもしなかった。


 澪に叱られ、レオンには抱き着かれ、感情の忙しいセレナでした。何はともあれみんな無事でよかったです。ここには出てませんが、キアネアだけがまだセレナの無事を知らないので、外を見張りながらショボンと落ち込んでたりします。


次回、第218話「譲れない信念」


 カイル様から告げられる言葉に胸を詰まらせるセレナ。そして、予想だにしていなかった状況に言葉を失います。

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