第216話 解かれる封印
「ふんふふーん」
順調に採集も終わり、あとは帰るだけ。
私の足取りはとても軽かった。
すると、そんな私の首根っこをレオンが引っ張り投げ、キアネアちゃんがナイスキャッチ!
「ちょっと! ……え?」
レオンの前には身の丈五メートル。
とぐろを入れると倍はありそうな蛇が、チロチロと細い舌を出し入れし、こちらを見下ろしていた。
「ちっ、地の主だと? なぜこんなところに!」
レオンは腰から二本の長剣を抜き放ち、キアネアちゃんもナイフを構えて私の前に立つ。
愉快なピクニックが一気に戦場へと場面を変えた。
そして、その初手は地の主からだった。
ブォンという空気を震わす音が鳴ると、地の主の周囲に人の頭ほどの土の塊が十個以上出現した。
ブゥン!という音とともに土塊がこちらへと降り注ぐ。
私はキアネアちゃんに抱えられる。
私たちよりも近場のレオンに多く飛んだため、キアネアちゃんの一回の跳躍だけでかわすことが出来た。
ドゥン、ドゥン!
外れた塊は地面をえぐり、止まった頃には約半分ほどが土に埋まっている。
あれを頭にでも食らったら……。
ブルルルっ。
考えないようにしよう。
しかしレオンもまた土塊発射と同時に地の主のとぐろへ駆け抜け、鎌首の根本を二本の剣で切り裂いていく。
ブシュッと言う音に合わせて緑色の液体が舞うが、向こうに取り立てて慌てた様子はない。
「セレナ、火魔法は使うなよ。火事になる!」
レオンの指示に「分かった!」と叫び返すも、私が打てる具体的な手立てが思いつかない。
キアネアちゃんも私を守るためにこの場にいるしかないが、あのナイフの短さでは、あまり有効打は与えられなさそう。
つまりこの場の攻撃力はレオンに任せるしかないんだけど……。
うまくレオンが誘導してくれてるので、土塊は最初の一発以外こちらへは飛んでこない。
だがレオンの剣もほとんど効いた様子がない。
まるで大きな紙を切るのに、針でつついてるようなものだ。
あと何回、何十回切れば届くのか。
戦況はあっという間に膠着状態に陥った。
(セレナっ!)
(澪!?)
(蛇ならもしかしたら寒さに弱いかも。マリーナちゃんとの実験で使った、アレなら!)
(そうか!)
私はキアネアちゃんに降ろしてもらい、両手に魔力を溜め始める。
幸い、季節は冬。
まだ扱いやすい時期だ。
レオンが足元にいる。
頭を狙えば!
「『白銀の嵐!』」
両手から雪が生まれ、吹雪となって、地の主の頭を狙い撃つ。
単なる雪なので殺傷力はない。
けど、これで動きが鈍ってくれたら、レオンが動ける。
動けるなら、アイツなら、きっと!
突然の大雪に一瞬気を取られたレオンだったが、こちらを見てニヤッと笑い、再び鎌首の根元へ。
地の主は目標を見失ったように右に左に振り向くが、心なしか動きが緩慢になっている気がする。
レオンもここぞとばかりに、駆け抜ける一撃ではなく、二つの長剣を一つにまとめて叩き込む荒業を見せた。
今度こそザシュッ! という音とともに大量に吹き出す液体。
地の主が初めて「グワォォォ!」と叫びを放つ。
この好機を逃すまいとレオンが再度剣を振り上げると、その瞬間、地の主がもたげていた鎌首を直下に降りて、レオンに向けて大きく口を開く。
「レオン!!」
ガキッ!という音。
レオンはすんでのところで剣を横にして牙の一撃を防いだが、明らかに分が悪すぎる。
レオンの上には、半分になったとはいえ、およそ人二人分の高さの重量がかかっている。
私は、鎌首が消えた空間から修正し、途中の胴体に雪を当てる。
ダメだ、これじゃあ。
動きなんか鈍くなっても関係ない。
クソっ、どうしたら……。
「クウッ!」
レオンが重さに耐えきれず、片膝を突く。
食いしばった口からは一筋の血が流れた。
「ああっ!!」
まずい、まずいっ!
レオンが死んじゃう!!
どうにか。
(澪! なんかないっ!?)
しかし返事はない。
きっと考えてくれている。
けど、難しいのだろう。
「ガハッ!」
レオンが血を吐く。
もう剣を肩に担ぐようにして、ギリギリ防いでるだけの状態だ。
……やめ、て。
レオンの苦悶の表情から目が離せない。
あと少し天秤が傾けば。
……死ぬ。
死ぬ?
レオンが?
あなた、結婚とか未来の話、してたよね?
早すぎるって言ってたけど、ちょっとは嬉しかったんだよ?
ねぇ、置いてくの? 私を。
やめて。
置いて、行かないで。
もう、嫌なの。
誰かを……失いそうになるのは!
「あああぁぁぁっっ!!」
(セレナ! 待って、落ち着い……きゃっ!)
アレを殺せる方法。
出てこい、今すぐ!
連れて行かせるか。
行かせて、たまるもんか!!
ガチャン!!
人生三度目になるこの音。
今日は痛みなんか感じなかった。
ただ、熱を持った目が、最適解を導いていく。
私の魔力で出来ること、その中で最大限の威力をそのままヤツにぶつける方法。
「コレか!」
ギュィィィン!
異音を立てて私の両手に瞬時に最大魔力が溜まる。
その手のひらを合わせ、私はヤツを斬りつけるように、横へ振り払った!
「風刃剣!!」
次の瞬間、ザブッ!! という鈍い音。
そしてレオンの上方で力を込めていた地の主の首が、横一線に真っ二つに裂けていく。
バランスを崩したレオンは転んでしまったが、続いて落ちてきた地の主の残骸に驚愕の表情を浮かべる。
ジュク……。
私は目から流れ落ちた熱い何かが伝う感触を最後に、気を失った。
『風刃剣』は、周りの人間は軌跡が見えない(魔力を見ようとしない限り)ので、暗殺にぴったりな、危ない魔法だったりします(^^;
次回、第217話「力の代償」
ちょっとシリアスシーンでしたから、次回はキョトン……シーンから。でもお話はまだ重みを残してますよ。




