第215話 父との記憶
もし、世の中に『幸せの青い小鳥さん』がいるなら助けてほしい。
彼氏に腕を組まれて仁王立ちされ、小さく正座しているこの私を……。
「バカか、てめぇはっ! 一泊二日の採集ごときに大型リュック二つって。旅行じゃねえんだ……ってか、旅行でも多すぎるわっ!」
た、たしかにあれこれ準備し、私の分とレオンとキアネアちゃんの分、それにもしもの予備、とか考えてたら、多くなったけど。
「そこまで言うことないじゃんかぁ!」
すると、レオンも少し落ち着いたのか、頭に手をやり首を振る。
「そうだな、先に伝えとくべきだった。すまない。あのな、カリウスがいた時にも言ったろ? 生き残ることが最優先だと」
「うん」
「だから荷物は出来るだけ身軽に。食い物と水の魔石は最低限は身につけるタイプを持っておく。それにな」
ポンポンと、私の詰めた荷物をたたく。
「お前、どこに採集物を入れるつもりだ?」
「あっ! 忘れてた」
「はぁ、そういうのを本末転倒っていうんだぞ?」
「ごめんって……反省してるよ」
しょぼん、とうつむいて落ち込んでいると、レオンが頭にポンと手を乗せてきた。
「ほら、手伝うからさっさとまとめようぜ。今回くらいなら、女性冒険者でも小さいリュックの半分も荷物がありゃ十分だ」
二人でいったん荷物をすべて出す。
その中からいるものだけを詰めて、残りは帰ってきてから片付けだ。
「セレナ」
「ん? なに?」
「悪かったな、怒鳴っちまって」
「ううん、分かってなかった私が悪いもん」
そう言うとレオンが苦笑いをする。
「今な、ギルドでは初心者の面倒を見る立場でよ。こんな感じのミスを多発されてな、ついイライラしちまってた」
「そうなんだ。大変なんだね」
「まあな。でもオレの教え方一つで、あいつらの生き死にに繋がるからな。しっかりやらねぇと」
グッと拳を握りしめるレオン。
私はそこに手を重ねた。
「でも、思い詰めすぎないでよ。またカリウスの時みたいなことになったら……」
「バーカ、あいつほどの負けず嫌いはそうそういねぇよ。だいたいひと撫でしてやりゃ大人しくなるからな」
「ちょっとは、心配なんだからね」
レオンの胸に頭を寄せる。
それを軽く抱きかかえ、
「ま、心配すんなよ。お前は今日のことだけ考えとけ。俺とキアネアがきっちり守ってやるからな」
そう言って唇を寄せてくる。
それを手で押し止め、頭を叩いた。
「そう何度もさせないわよ、このエロレオン!」
「てっ、てめえ、誰が!」
おかげで出発がだいぶ遅れてしまった……。
◇◆◇
キアネアちゃんは……小袋一つ。
どうしたらそれで足りるんだろ?
私たちは王都の南東、ウルヴィスへの街道沿いに進み、そこから東に外れた森へとやってきた。
木を見ると、まだ全体的に枝が伸びてるので、まだそんなに古い森じゃないのかもしれない。
『セレナ、森は古くなればなるほど、枝同士が伸びて、太陽の光が遮られる。すると、森の中の木は、下の方はほとんど枝がなくなるんだぞ?』
昔パパから聞いた森の仕組みを思い出す。
魔導具以外にも色々教えてもらっていたんだ。
こうして色んなところに出掛けること、もっとした方がいいのかもしれない。
ふと、そんなことを考える。
「この辺の魔物は王都でも比較的弱めだ。だから起源の魔石が北にある証拠って言われてる」
「あぁ、魔石の魔力を求めて魔物は集まるんだっけ?」
「そうだ……あれ、お前それ誰から聞いた?」
誰だっけ?
パパだったような、グレッダさんだったような?
「忘れた!」
「威張って言うな! まあとは言え岩猪なんかは普通に出るから注意しろよ?」
私たちは注意深く森を進む。
ほぼ初めての森歩きは、地面も凹凸が多い上、木の根やツタなどで行く手を阻むものが多い。
この中で魔物と戦う冒険者は、さぞ苦労するだろう。
一歩踏み出すごとに、レオンは瞬時に周りに意識を配り、変化に注視している。
これが、レオンが言う『生き残るための努力』とするなら、ここまで磨き上げるのに、どれほどの経験を積んだのか。
それを考えるだけで胸が詰まる。
「ん、アレっぽいな?」
レオンが依頼書を取り出し、描かれた薬草と見比べる。
おそらく間違いない、『吸魔の葉』だ。
私がそばに行けば、確定判断が下せる。
レオンが今回私を連れてきた理由の一つがこれだ。
「うん、間違いないね」
「よし、それじゃあ早速採集しちまおう」
「任せて」
ナイフを取り出し、手首のスナップを効かせて一気に切り裂く。
パパ直伝の採集技だ。
鋭利な切り口は、成分の減少も少なく、切られたところの回復も一段早くなる。
『大切な命をいただく』
その理念を私も体現出来るよう、たまに練習を重ねてきてたんだ!
ま、まあ魔導具中心で、忘れる日もちょこちょこあったんだけど。
……パパ、ごめん。
採集も終わり、一休み。
もうあたりは暗くなってきている。
私たちは少し開けた場所に移動した。
「今日はここで野営だな」
「野営って何すんの?」
「まあ、飯食って、寝て……だよ。特別なことなんかないぞ?」
聞いてみると、だいたいご飯は簡素な干し肉の場合もあるし、調理する場合もあるけど、調理は余分な材料と器具が必要なので、めったにされないそうだ。
いずれにしてもご飯はみんなでいっせーのせ。
時間をずらすと食べられない人が出てくるかもしれないかららしい。
逆に寝るのはかわりばんこ。
パーティーによるけど、だいたい前と跡で別れ、仮眠をとる。
今日は、前はレオン、後がキアネアちゃん。
私も手を上げたけど、二人から即刻拒否された。
キアネアちゃんは「私が守る」の一点張り。
口をへの字にして、手で大きくバツ印まで食らわされた。
うぅっ、キアネアちゃんよ、バツ印は心に痛すぎる。
レオンに至っては「気配も読めないやつは、いても邪魔だから寝てろ」ときたもんだ。
そんなこといいながら、見張りの間、ふと目を覚ました私が見たのは、やわらかな笑顔で頭を撫でてくれてたレオンの顔だった。
べっ、べべべべ、べつにっ!
なんとも思わないんだからね!!
こうして夜は何事もなく終えられたんだけど、次の日、帰路へ出発してすぐに、私たちは魔物に取り囲まれることなった。
森で思い出す父の教え。そして採集の成功に、初めての野営と、セレナには色々と思い出深い体験となりました。
次回、第216話「解かれる封印」
打って変わって戦闘回。かなりマズい状況に追い込まれるセレナ一行。その中でセレナが選び取った選択肢とは?




