第214話 突然の依頼同行
「よっと、これでいいか、セレナ?」
「あー、うん。ありがとう、レオン」
フォルティウス邸から、泊まりの荷物を持って、私はレオンとともにベーネ工房の下宿に移動していた。
一人で行こうとしたけど、レオンには
「そんな荷物一人で持たせられるか!」
と怒られ、カイル様からも
「パートナーの荷物を持たないような、情けない弟を持ったつもりはない」
と、遠回しに脅され、仕方なく持ってきてもらったのだ。
貴族社会、女性はとても楽ができそうな気がするけど、なーんか合わないな、こういうの。
ちなみにこの部屋、この前も泊まらせてもらった部屋だ。
つまり……。
ボウッ。
顔が真っ赤に燃えるように熱くなる。
パチパチと頬を叩き、なんとか動揺を抑える。
すると、後ろでもパチパチと頬を叩く音が聞こえたので、おそらくレオンも思い出したのだろう。
本来殴りかかりたいくらいに恥ずかしいのだが、こればっかりは私が悪いので、攻めるに攻められない……。
くぅ〜、時が戻せるならなぁ。
「で、セレナはこのあとどうするんだ?」
「アミーカと、黎明祭でどういうふうに落華摘粉と料理を関連付けて発表するかの調整と、あとはティミナたちのフォローかなぁ。でも……」
「でも?」
レオンの不思議そうな顔に、私は満足のような寂しいような表情を向けた。
「ティミナたち、もう放っておいて大丈夫そうでさ。アミーカとの話は半日もあれば終わるから、本線までの四日間は暇になりそう」
「そうか。なら、一度ギルドの依頼、行ってみるか?」
「えっ! でも私ド素人だよ?」
カリウスをあれだけ怒鳴ったレオンらしくない誘いだ。
ギルドの、冒険者の仕事を興味本位で踏み荒らされることを、何よりも嫌っているし、命を大切にしてほしいと願ってるはずなのに。
「ちょうど新人向けの依頼が入ったんだが、今新人がいなくてな。報酬も安いし、誰も行きたがらないんだ。俺とキアネアがいれば、護衛としてはお釣りがくるし、どうだ?」
ギルドもせちがらいねぇ……。
やらなきゃいけないけど、誰もやらないからレオン。
でもレオンじゃオーバースペック過ぎるから、勉強ついでに私に声がけってことか。
素材採集なんて、昔にパパと行ったっきりかもしれない。
それに、冒険者の現場も一度見ておきたかった。
「分かった、行くよ!」
「よし、それじゃあ明後日の朝八時に迎えに来るからな」
このときの私は気付いてなかった。
依頼が一泊二日としても、レオンと一緒に外で寝ることになるということを。
それに気づき大慌てするまであと二日だった。
◇◆◇
次の日、朝早くから私はアミーカと待ち合わせ。
ここぞとばかりにキアネアちゃんも一緒にこの前のカフェに来ている。
「じゃあ時間帯は魔導具部門が先だから、私が午後の料理部門で、これを使った料理が出るからって誘導するから」
「うん、私は料理の説明をする時に、午前で発表された魔導具を使って、初めてこの料理が出来ますって説明するね」
それだけ? というなかれ。
こういうことはしっかり顔を合わせて意思疎通しておかないと、お互いの認識が少しでもズレたらまずいのだ。
正直私とアミーカだから、これだけで済んでるとも言える。
「それにしても、セレナが教育ねぇ。本当に大丈夫なの?」
アミーカはキアネアちゃんと私を交互に見つめ、大きくため息をつく。
……まあ、気持ちは分からないでもない。
今でもアミーカから注意を受ける私が出来るのか?
そういう心配だろう。
「まあ、それでもやらないとさ。知っちゃったんだもん、ケーキ屋さんやりたいって」
「ケーキ屋?」
「キアネアちゃんがやりたいこと。そうだよね、キアネアちゃん?」
私の問いかけにピースサインが返ってくる。
「でさ、それも相談したくて。キアネアちゃんは、アドルフォス家からは離れられない。その間の基礎教育は私がするとして、ケーキ作りを、せめて一人で家庭用ケーキくらいは焼けるように教えてくれる人いないかなって」
「家庭用ねぇ。セレナ、料理やお菓子作りの腕は?」
「これから必死に頑張る!」
「じゃあやらないわね。うーん、私も忙しいし……」
さらっとヒドイこと言うよね、アミーカも。
たぶんやらないけど。
「ねぇ、急がなきゃダメ?」
「いや、急がなくていいけど、出来たら楽しみは一つ早めにあげたいじゃん?」
「そうしたら、ちょっと四月までに見つけておくよ。王都でいいんでしょ?」
「うん!」
「その代わり! セレナも一緒に通うこと! 女性なんだから、お菓子作りくらいおさえておきなさい!」
「はっ、はいっ!!」
アミーカに相談したら、何故か私も春からお菓子作りを習うことに……。
ねぇ、誰か、お仕事に習い事、一つ引き受けてくれないかな?
その日の午後は、レオンと冒険に行くための野外用の服装を買っておしまい。
いよいよ次の日、レオンの依頼へ同行する。
前日からしっかりと準備をしてきた私に死角はない!
そう思っていた、自信満々の顔を打ち砕く、恐怖の使者の来訪を告げるノックが三回鳴らされた……。




