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笑顔を創る魔導具師セレナは、今日も世界をつないでいる  作者: 八坂 葵
第11章 同じ空の下で

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第212話 自分自身の誇り

 翌日放課後、私の考えをクラスで発表すると、少しの間、シーンという沈黙が流れる。

 しかし、ふっと誰かが声を上げた。


「俺たちに押し付けて、自分たちは高みの見物かよ」


 恐れていた通りの反応が上がる。

 それを皮切りにあちらこちらから「ずるい」だの「私たちだけ」だのといった声が出始め、クラス中をいつしか満たしてゆく。


 あぁ、止めときゃ良かった。

 私がそう考え、諦めてみんなを手伝うという声が喉まで上がった時、意外な人物から声が上がる。


「なあ、もうやめにしないか、そういう子どもみたいなこと」


 卒業課題発表会の時に、私に向かって文句をつけてきた子だ。

 ……名前、なんだっけ?


「クレストくん、なんで君がかばう? 君はついこの間、彼女の発表にケチをつけてたじゃないか」

「あぁ、だからあれから帰ってよく考えた。そうしたら、悔しいけどセレナさんの言うとおりだと思えた。魔導具師なんて領域にこだわって、より良い品を作れないなら、それこそ魔導具師失格だってな」


 彼の言葉にクラスのみんなの文句が次第におさまっていく。


「なあ、たしかに彼女たちが手伝わないのはずるいさ。けど、俺たちよりも遥かに上の技術を持ってるのは分かってるよな?」

「そりゃあ、まあ……な」

「なら、彼女たちに手伝ってもらって、俺たちの実力じゃ到底出来ないものが出来て、それで誇れるのか? これは俺たちが、後輩のために作った魔導具だと。……俺は、とても恥ずかしくて言えないよ、そんなの」


 クレストくんは込めず、みんなの顔を見ながら、ただ淡々と話す。

 その言葉は、先ほどまでの熱を帯びたみんなの感情を冷ますには、十分過ぎる一言だった。


「クレストくん、いいよ。ありがと」


 私は彼を手で制して下がらせた。

 彼のおかげでようやく話せる場が整った。


「あのね、私はみんなにももっと先の世界を見てほしいと思ってる。それは王都とかじゃなくて、魔導具師だけの小さな世界じゃない。色んな職業の人と協力して、魔導具を作る世界」


 私は教室の窓へ近寄り、窓を開けて外へ向けて手を差し出した。


「ほら、ウルヴィスだけでもたくさんの職業があるよ。後輩のためって、学校だけで考えなくてもいいじゃない。この街を良くするために、私たちが動いた。それだって立派な、『残せるもの』だと思わない?」


 私の言葉にみんなもまた、窓から見えるウルヴィスの街へと視線を向けた。

 中にはすでに目に火が灯ってるクラスメートも見られる。


「この学校なら、協力して魔導具を作り上げる姿勢が当たり前にある。それって、まだどこにもない、画期的な取り組みだと、私は思うんだけどな」

「そうだね、僕の家でも魔導具を作る時に、誰かと協力するなんて、ほとんど見たことがない。それを当たり前に出来るようになるなら、それってみんなの力になるんじゃないかな」


 マルクスが助け舟を出してくれる。

 まだみんなの顔には迷いの色が浮かんでいる。

 しかし、それでも、声が上がった。


「私たちなんかに、出来ると思う?」

「俺たちなんか? レオニス先生ならきっとこう言うわよ。『この俺の授業を耐えたにも関わらず、まだそんな事を言うなら、もう一年鍛え直してやる!』ってね」

「あははっ、そうね。言いそうだわ」


 私とリディアのやり取りを見て、今疑問の声を上げた女の子、ミーシャが尋ねてくる。


「なんで、あなたたちはそんなに強くいられるの? 私なんて職場が厳しい人で今から嫌になってるのに」

「厳しい? へー、良かったじゃない」

「何がいいのよっ!」

「厳しいってことは、それだけ伸びる見込みがあるからってことでしょ? 私だったら伸びる見込みのない子なんて放っておくもの」


 だいたいそれを言ったら、ベーネ師匠のところなんて、厳しい上に暴力(お尻叩き)だって飛んでくる。

 言葉だけで終わるなら、口で言い返せばいいのだから、楽でいい。


 そんな感じのことを伝えると、みんなが私から二歩くらい引き下がった。

 なんでよっ!


「ま、まあセレナは別枠として、私たちはみんなより腕がいいのは確かよ。でもね、だったら卒業までの残り少ない時間、私たちみんなでレベルアップしてみない?」

「そうだな、俺は教えるのが苦手だ。だが、社会に出たらそんなことも言ってられん。済まないが俺に教えるということを教わらせてくれないか?」


 カリウスがそう言って軽く頭を下げる。

 これには普段黄色い声をあげている女子生徒も、やっかみの声をあげていた男子生徒も驚く。


 カリウスもレオンとのやり取りを通じて、次第に自分だけの世界から、周りと関わることへ踏み出そうとしている気がする。

 ……うん、良かった。

 彼がそうやって頑張っているのを見ると、私も嬉しくなる。


「カリウスの指導なんてめったに無いわよ? じゃあ指導料五デナリス(五百円)から!」


 言うが早いか、女子生徒から次々と手が挙がり、またたく間に金額が跳ね上がる。

 ま、まずい……お昼ご飯が一月分くらい賄えそうな金額になってきたぞ。


 スパァーンッ!


 ――私は衝撃に任せて頭から床に突っ込み、突然の出来事に、依頼料レースはぴたっと止まった。

 おでこと後頭部両方を擦りながら起き上がり、振り返ると、マリーナのこめかみに血管が浮き出しているのが見えた。

 ……もう、冗談じゃんか。


「ま、まあさすがにお金はまずいわよね。希望者は後で名前聞くから、恨みっこなしのくじ引きね。あ、あと私は黎明祭(プリマルクス)終わってからの参加になるからよろしく!」


 その一言に、明らかに落ち込んだ顔を見せる男子が約一名いたけど……この前も思ったけど誰だろう?

 私、たぶん彼とは話したことないはずなんだけどな。

 まあ、いいや。


「私は黎明祭(プリマルクス)頑張ってくるから、みんなも頑張って! ……そうだね、今まで正直あんまりやる気出なかったけど、私、みんなのために、絶対に優勝してくるから!」


 その言葉にみんなから歓声と拍手が沸き起こる。

 カイル様のご機嫌取りのためとか、正直まったくやる気はしてなかったけど、私の頑張りがみんなの起爆剤になるなら、頑張ってみようかな。



 何日かみんなの作業を指示しつつ、その後私はティミナ、クーラとともに王都へと旅立った。

 もちろんキアネアちゃんも付いてきてくれている。

 二人の前で迂闊にしゃべっちゃったものだから、ギューッと抱きつかれて困惑してたけど、これを当たり前に楽しんでくれる、普通の女の子になってくれたらいいな。


 そのためのカイル様からの返事も今回受け取らなきゃいけない。

 さて、やること色々あって、また大変だぞ、これは。


 以前やり込められたクレストくん。彼なりにしっかり考えて、動いて……こういう子、実は大好きです。間違うことが悪いんじゃない、間違ったままにしておくのが悪いことみたいな。そういう意味で彼はしっかり学校というかセレナですけどを活用したなって思います。


次回、第213話「覚悟を試す契約書」


 ティミナ、クーラとともに王都へ向かったセレナ。グレッダさんの執事に迎えられてお屋敷へ。そのままアミーカのところへ向かおうと思ったところに、ある人物から待ったがかかります。

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