第212話 自分自身の誇り
翌日放課後、私の考えをクラスで発表すると、少しの間、シーンという沈黙が流れる。
しかし、ふっと誰かが声を上げた。
「俺たちに押し付けて、自分たちは高みの見物かよ」
恐れていた通りの反応が上がる。
それを皮切りにあちらこちらから「ずるい」だの「私たちだけ」だのといった声が出始め、クラス中をいつしか満たしてゆく。
あぁ、止めときゃ良かった。
私がそう考え、諦めてみんなを手伝うという声が喉まで上がった時、意外な人物から声が上がる。
「なあ、もうやめにしないか、そういう子どもみたいなこと」
卒業課題発表会の時に、私に向かって文句をつけてきた子だ。
……名前、なんだっけ?
「クレストくん、なんで君がかばう? 君はついこの間、彼女の発表にケチをつけてたじゃないか」
「あぁ、だからあれから帰ってよく考えた。そうしたら、悔しいけどセレナさんの言うとおりだと思えた。魔導具師なんて領域にこだわって、より良い品を作れないなら、それこそ魔導具師失格だってな」
彼の言葉にクラスのみんなの文句が次第におさまっていく。
「なあ、たしかに彼女たちが手伝わないのはずるいさ。けど、俺たちよりも遥かに上の技術を持ってるのは分かってるよな?」
「そりゃあ、まあ……な」
「なら、彼女たちに手伝ってもらって、俺たちの実力じゃ到底出来ないものが出来て、それで誇れるのか? これは俺たちが、後輩のために作った魔導具だと。……俺は、とても恥ずかしくて言えないよ、そんなの」
クレストくんは込めず、みんなの顔を見ながら、ただ淡々と話す。
その言葉は、先ほどまでの熱を帯びたみんなの感情を冷ますには、十分過ぎる一言だった。
「クレストくん、いいよ。ありがと」
私は彼を手で制して下がらせた。
彼のおかげでようやく話せる場が整った。
「あのね、私はみんなにももっと先の世界を見てほしいと思ってる。それは王都とかじゃなくて、魔導具師だけの小さな世界じゃない。色んな職業の人と協力して、魔導具を作る世界」
私は教室の窓へ近寄り、窓を開けて外へ向けて手を差し出した。
「ほら、ウルヴィスだけでもたくさんの職業があるよ。後輩のためって、学校だけで考えなくてもいいじゃない。この街を良くするために、私たちが動いた。それだって立派な、『残せるもの』だと思わない?」
私の言葉にみんなもまた、窓から見えるウルヴィスの街へと視線を向けた。
中にはすでに目に火が灯ってるクラスメートも見られる。
「この学校なら、協力して魔導具を作り上げる姿勢が当たり前にある。それって、まだどこにもない、画期的な取り組みだと、私は思うんだけどな」
「そうだね、僕の家でも魔導具を作る時に、誰かと協力するなんて、ほとんど見たことがない。それを当たり前に出来るようになるなら、それってみんなの力になるんじゃないかな」
マルクスが助け舟を出してくれる。
まだみんなの顔には迷いの色が浮かんでいる。
しかし、それでも、声が上がった。
「私たちなんかに、出来ると思う?」
「俺たちなんか? レオニス先生ならきっとこう言うわよ。『この俺の授業を耐えたにも関わらず、まだそんな事を言うなら、もう一年鍛え直してやる!』ってね」
「あははっ、そうね。言いそうだわ」
私とリディアのやり取りを見て、今疑問の声を上げた女の子、ミーシャが尋ねてくる。
「なんで、あなたたちはそんなに強くいられるの? 私なんて職場が厳しい人で今から嫌になってるのに」
「厳しい? へー、良かったじゃない」
「何がいいのよっ!」
「厳しいってことは、それだけ伸びる見込みがあるからってことでしょ? 私だったら伸びる見込みのない子なんて放っておくもの」
だいたいそれを言ったら、ベーネ師匠のところなんて、厳しい上に暴力(お尻叩き)だって飛んでくる。
言葉だけで終わるなら、口で言い返せばいいのだから、楽でいい。
そんな感じのことを伝えると、みんなが私から二歩くらい引き下がった。
なんでよっ!
「ま、まあセレナは別枠として、私たちはみんなより腕がいいのは確かよ。でもね、だったら卒業までの残り少ない時間、私たちみんなでレベルアップしてみない?」
「そうだな、俺は教えるのが苦手だ。だが、社会に出たらそんなことも言ってられん。済まないが俺に教えるということを教わらせてくれないか?」
カリウスがそう言って軽く頭を下げる。
これには普段黄色い声をあげている女子生徒も、やっかみの声をあげていた男子生徒も驚く。
カリウスもレオンとのやり取りを通じて、次第に自分だけの世界から、周りと関わることへ踏み出そうとしている気がする。
……うん、良かった。
彼がそうやって頑張っているのを見ると、私も嬉しくなる。
「カリウスの指導なんてめったに無いわよ? じゃあ指導料五デナリス(五百円)から!」
言うが早いか、女子生徒から次々と手が挙がり、またたく間に金額が跳ね上がる。
ま、まずい……お昼ご飯が一月分くらい賄えそうな金額になってきたぞ。
スパァーンッ!
――私は衝撃に任せて頭から床に突っ込み、突然の出来事に、依頼料レースはぴたっと止まった。
おでこと後頭部両方を擦りながら起き上がり、振り返ると、マリーナのこめかみに血管が浮き出しているのが見えた。
……もう、冗談じゃんか。
「ま、まあさすがにお金はまずいわよね。希望者は後で名前聞くから、恨みっこなしのくじ引きね。あ、あと私は黎明祭終わってからの参加になるからよろしく!」
その一言に、明らかに落ち込んだ顔を見せる男子が約一名いたけど……この前も思ったけど誰だろう?
私、たぶん彼とは話したことないはずなんだけどな。
まあ、いいや。
「私は黎明祭頑張ってくるから、みんなも頑張って! ……そうだね、今まで正直あんまりやる気出なかったけど、私、みんなのために、絶対に優勝してくるから!」
その言葉にみんなから歓声と拍手が沸き起こる。
カイル様のご機嫌取りのためとか、正直まったくやる気はしてなかったけど、私の頑張りがみんなの起爆剤になるなら、頑張ってみようかな。
何日かみんなの作業を指示しつつ、その後私はティミナ、クーラとともに王都へと旅立った。
もちろんキアネアちゃんも付いてきてくれている。
二人の前で迂闊にしゃべっちゃったものだから、ギューッと抱きつかれて困惑してたけど、これを当たり前に楽しんでくれる、普通の女の子になってくれたらいいな。
そのためのカイル様からの返事も今回受け取らなきゃいけない。
さて、やること色々あって、また大変だぞ、これは。
以前やり込められたクレストくん。彼なりにしっかり考えて、動いて……こういう子、実は大好きです。間違うことが悪いんじゃない、間違ったままにしておくのが悪いことみたいな。そういう意味で彼はしっかり学校を活用したなって思います。
次回、第213話「覚悟を試す契約書」
ティミナ、クーラとともに王都へ向かったセレナ。グレッダさんの執事に迎えられてお屋敷へ。そのままアミーカのところへ向かおうと思ったところに、ある人物から待ったがかかります。




